サンジを休ませる
「サンジってちゃんと休んでるの?」
昼食を終えて皆がダイニングから去った後、私はカウンターの椅子に腰掛けながらそう言った。サンジは皆がご飯を食べている時に洗い物をして、今は食器を拭いている。
「えっ!? 渚ちゃんがおれの心配を!?」
彼は目を輝かせながら顔を上げた。昼食後はドリンクやデザートを作って持ってきてくれたり、ここで一緒にティータイムを楽しんだりするけど、いつ休んでいるんだろうとふと思った。
「いつもありがと。何かしてほしいことない?」
働き者で優しい彼の事だ。休んでと言ってもこれは自分の仕事だと言って休んでくれないだろう。だから心も身体も休まるような、彼の願いを叶えたいと思った。
「してほしいことか。キミがおれの心配をしてくれるだけで十分嬉しいよ。……でも」
「うんうん! なに?」
「次の島で一日デートしてくれねえか?」
「うん、良いよ! そんな事でいいなら」
「渚ちゃんの時間を貰えるのがこの上ない喜びさ」
本当にそんなことで良いのかな。……よし、次の島ではサンジに喜んでもらえるように頑張ろう。
島に着いて一日目はチョッパーと回り、島にどんなお店があるのか下調べした。そして二日目、サンジとのデート。いつも以上にメイクと服装にこだわって船を出た。
「お待たせ」
「ンン!! 渚ちゃーん!? いつも可愛いけど今日は一段と可愛すぎる!」
「ありがと」
おしゃれして良かった……って、私が喜んでどうするの。サンジに喜んでもらわないと。
行きたいところがあると伝えて、昨日予約しておいたレストランへ向かう。レストランに入ると予約してくれたのかいってサンジに驚いた顔をされて、レディになんて事をと頭を抱えていた。
どうしよう、嬉しくなかったかな。行きたいお店があるから予約しててって言った方が良かったかもしれない。
店内はおしゃれで出てきたコース料理はとても美味しかった。
「美味い」
「うん、美味しい」
「この魚の味付けはバターの他に……味噌だな。このソースは……」
ぶつぶつと独り言をいうサンジに笑いが溢れる。
「ふふ、サンジって本当料理のことばっかり」
「あっ……すまねェ。退屈させちまったよな。レディとのデート中におれはなんて事を……」
「ううん、全然。サンジが嬉しそうで良かった」
「美味いし味付けが勉強になる。それに目の前にはキミがいる。最高の店だ」
「大袈裟だよ」
コース料理には満足してもらえたみたいだし、次の場所もきっと喜んでくれるだろう。
「いらっしゃいませー」
「綺麗なお姉さんがいっぱーい!」
店に入るとズラリと並ぶ綺麗な女性達。サンジは目をハートにさせて全身で喜びを表現していた。
女性客も受け入れてくれるガールズバーに来た。綺麗な女性がいっぱいな所だときっと彼も喜んでくれるだろうと思って。
しかしサンジは女性達の方へは行かずに眉尻を下げてこちらを向いた。もしかして遠慮してるのかもしれない。
「渚ちゃん、あのさ……」
「私はあっちで飲んでるから、遊んできていいよ」
「お姉さん達と遊ぶのは魅力的だが」
「もしかして好みの女性はいなかった?」
でも綺麗な人ばかりだしいつもなら喜んで飛んで行くのに。
「今日は渚ちゃんと一緒にいてェんだ」
「船でも一緒にいるんだし、この島の人と楽しんでいいんだよ」
「渚ちゃん」
再び私の名前を呼び、真剣な顔をした彼にドキリとする。どうしよう、喜んでもらえなかったのかな。怒っちゃったかな。
「……ごめん、喜んでくれると思って」
「ありがとう。折角考えてくれたのにわりィが、違う店に行っても良いかい?」
コクリと頷けば、良かったと嬉しそうに笑うサンジ。手を引っ張られ、連れて行かれたお店はおしゃれなバーで二人でお酒を嗜んだ。
「楽しかった?」
「最高の一日だったよ」
「それなら良かった」
お酒を飲んだからなのか、頬がほんのり赤くなったサンジは優しく微笑んだ。
今日はお姉さんに囲まれる気分じゃなかったんだろうな。