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お食事処で1週間、アルバイトをしたいと船長であるルフィにお願いすると「いいぞ! おれもやる事あるしな」と了承してくれた。
どうやら皆はそれぞれ用事があるらしく、自由に行動していて良いとのこと。でも必ず誰かと一緒にいるように言われた。

「私に任せて」

と言ってロビンが手を上げてくれた。私がバイトをしている間、彼女は端の席で見守っていてくれる。きっと彼女も用事があるだろうに、私の我儘に付き合ってくれるのは申し訳ないなと思った。

店を開けるとぞろぞろと大人数で店に入ってきたのは、トラ男率いるハートの海賊団だった。

「いらっしゃいませ」
「渚ちゃん、ご飯食べにきたよー」
「ペンギンくん、皆も今日も来てくれたんだ。ありがと」
「キャプテンが行くぞって言うからさ」
「ベポ」
「アイアイ!」

トラ男がギロリと睨みつけると、白熊は汗を垂らしながら姿勢を正した。溜め息を吐いて椅子に腰掛けるトラ男に声を掛けた。

「昨日から思ってたんだけど、トラ男くんって心配性だよね」
「誰も心配なんかしてねェ。此処の飯が美味かったから来ただけだ」
「素直じゃないことは分かった。心配なら心配って言えばいいのに」
「誰がお前の事なんか、」
「奥さんのぎっくり腰。……え、私?」
「……何でもねェ」

医者だって言うからてっきり奥さんが心配で来たのかと思ったけど、私? いやでも心配されるほど仲が良いわけではないし。もしかして何か裏があるのだろうか。

トラ男はクルーの皆に笑われて、一人一人に拳骨を落としていた。

彼が何を考えているのか分からず悶々としながら、注文を聞いて料理を運んだ。

ご飯を食べ終わると、ハートの海賊団は出ていったが、トラ男は残っていた。ずっと恐い顔をしていて近づくなオーラがすごかったけど、大きなテーブル席から移動してもらいたくて恐る恐る声をかける。

「何だ」
「席移動してほしいなと思って。あっちのカウンター席にロビンがいるの」
「ニコ屋が?」

ニコ屋? そういえば彼女の名前はニコ・ロビンだったっけ。彼は黙ってロビンの方へと移動して話をしていた。

それから少しして、ロビンがこちらに手招きをしていたので彼女の元へ向かった。

「どうしたの?」
「彼、閉店までいるらしいから、貴女の事をお任せしても良いかしら」
「うん、トラ男くんが良いなら」
「……」
「ウフフ、じゃあよろしくね。何かあったらうちの船長が許さないわよ」
「あァ」
「ありがと、ロビン」

お礼を言うと彼女は手を振って店を出た。彼はどうしてずっといるんだろう。客も少なくなってきたし、テーブルを拭きながらボソリと呟いた。

「私、何も出来ないよ?」
「なんの話だ」
「見返りを求めてるのかなって。そんな会ったばかりの女に優しくするなんて普通はないでしょ。トラ男くん、サンジみたいに女性誰にでも優しくする感じではなさそうだし」
「別に何も求めてねェ」
「じゃあどうして優しくしてくれるの?」
「……」

それから話しかけてもだんまりだったので、理由は言いたくないのだろうと思った。店を閉めた後、彼は待ってくれていて宿まで送ってくれる。お礼を言うと一言返事だけして去っていく。不思議な人だ。


********************


次の日はルフィ達が来てくれるとの事だったので、楽しみに待っていた。しかし開店して少ししてやってきたのはガラの悪い男たちだった。

「ねーちゃん、次こっちね」
「はい」

オーダーを受けようと呼ばれた方へ行く。男達は怪しげに笑っていて、嫌な予感がした。注文するのと同時に私の太腿を触ってきた。

「お客様、お触り禁止ですよ」
「良いじゃねーか、ちょっとくらい」
「可愛いなー」
「そういうお店ではないので。注文は以上でよろしかったですか?」
「なんだよつれねーなー」
「昨日は白い帽子の奴が睨んでたから声掛けれなかったんだよな」
「アイツ億越えの賞金首だぞ」
「マジかよ。でも今日はいねーみたいだしおれ達と遊ぼうよ」
「仕事中なんです。ごめんなさい」

白い帽子……トラ男くんか。気づかない間に変な客を寄せ付けないようにしてくれていたんだ。やっぱり彼は心配性だ。嫌われていないのは分かったけど、彼は何を考えているのか分かりにくい。

それにしても今は知り合いが誰もいないしどうやってこの場を切り抜けようか。もうすぐルフィ達が来てくれるらしいけど、それまでこの人達の相手をしているわけにもいかないし。

男の手を退けるように足を後ろに引いたら次はお尻を触られた。ガタイの良い男達だから怒らせて店で暴れられても困る。

「その人、嫌がってませんか?」
「!」
「なんだァ? 兄ちゃん、やんのか?」
「手を退けてあげて下さい」

男達に声を掛けたのは、ピンク頭で額に傷がある青年だった。髪色は派手だけど、真面目そうな人だ。
しかし私のせいで男に殴られでもしたら大変だ。若そうだし、こんなおじさん達より強いとは思えない。
お礼を言って大丈夫だと答えれば、青年は眉尻を下げた。

「困っている人を放ってはおけないので。迷惑だったらすみません」

そう言って彼は私の前に立った。正義感の強い人なのだろう。男はピンク髪の彼の胸ぐらを掴んで、上に持ち上げた。

「ぼっ、暴力はやめましょう! 怪我をしてしまう」
「そうだなー。ただお前のせいで気分が悪くなっちまった。責任取ってくれるよな?」
「あの、私は大丈夫なので! 彼を下ろしてあげて下さい」

複数の視線が私に向く。ピンク髪の彼と目が合った時、大丈夫ですと目で言われた気がした。
男達が彼に拳を振り下ろそうとした瞬間、彼は姿を消して次々に男達を倒していった。……この人、強いんだ。

「怪我をするのはお前達だよ、ってか? コビー」
「やめて下さいよ、ヘルメッポさん」

変わったデザインのサングラスの金髪の青年が近づいて来る。ピンク髪の彼の連れなのだろう。

「助けていただいてありがとうございます」
「いえいえ。怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です」

「大きな音がしたが大丈夫か!?」

キッチンから店主のおじさんが出てきて、倒れている男達を見てギョッとしていたので、今あったことを説明した。

「渚ちゃんが無事で良かったよ。次からは大きな声で呼ぶんだよ」
「はい」
「君も助けてくれてありがとう」
「いえ」
「しかし、この男達どうしようか……」
「もう連絡は入れているので大丈夫です」

連絡? とおじさんと一緒に首を傾げると、海軍にとピンク髪の彼が答える。海軍という言葉に一瞬ビクついたが、一般市民の味方は普通は海軍だということを思い出した。

「えらく連絡が早いな、君たち」
「なんたっておれ達も海軍だからな。今日は非番だけど」

海軍!? もうすぐルフィ達がここに来るのに海軍がいるのはまずい。静かにキッチンへ行ってナミから貰った電伝虫を取り出した。

「ナミ!」
「どうしたの?」
「私の働いてるところ今日は来なくて大丈夫! むしろ来ちゃダメで……」
「突然何なのよ。でももう私達、店の前よ」
「海軍が2人いて……え?」

「めしだーーーー!」

ルフィの声がした。頭を抱えながらキッチンから出ると、ルフィを先頭に麦わらの一味が全員集合していた。店にいる全員の視線が彼等に集まる。勿論海軍の2人も見ているわけで。

「ルフィさん!?」
「コビー!!」

ルフィとコビーと呼ばれた青年は嬉しそうに名前を呼び合っていて、どうやら知り合いらしい。海軍に捕まってしまうという不安は掻っ攫われた。
再会を喜ぶ中、私はコビーさんに助けてもらった事を皆に伝えた。ルフィは「やるじゃねェか」と言ってコビーさんの背中をバンバン叩いていた。痛そうだったけど、コビーさんは何だか嬉しそうだった。

「でもまさかルフィさんの仲間の方だったなんて」
「渚と言います。よろしくお願いします」
「コビーです」
「ヘルメッポだ」

2人にルフィ達を捕まえないのか尋ねると、自分たちじゃ今は敵いっこないと笑っていた。海賊と海軍の友達っていう形もあるんだ。流石主人公。誰とでも仲良くなれる。

「それではぼく達はこれで」

そう言って2人は倒れた男達を店の外へ連れ出そうとしたが、ルフィが一緒に食べようと止めていた。


「おい渚、酒」

いつの間にか席に腰かけていたゾロから酒を注文される。

「言い方」
「今は店員だろ。あと適当につまみも」
「はいはい、かしこまりました」

ゾロの言い方に腹が立ったけど、サンジが蹴ってくれていたのですっきりした。ありがとうサンジ。

結局ルフィに捕まったコビーさん達は一緒に食事をすることになっていた。倒れた男たちは外に連れ出して、海軍には中に入ってこないよう注意した後に。若いのにしっかり指示を出しているな、と思って飲み物を皆に運んだ時にコビーさんに問いかけた。

「コビーさんってもしかしてお偉いさんですか?」
「えっ!? いやぼくなんてまだ全然」
「こいつは大佐だ。ちなみにおれは少佐」

隣に座っていたヘルメッポさんが答えてくれた。前にロビンが教えてくれた海軍階級を思い出す。大佐と少佐……なかなか上の方だった気がする。

「やっぱり凄い人だったんですね」
「いやァ、まだまだです」

へへへと頭を掻きながら顔を赤くしたコビーさん。可愛い人だ。 揶揄ったらきっと面白い反応をしてくれるんだろうな、なんて想像したらにやけた。でも今日は助けてもらったんだ。やめておこう。
そう考えてハッとした。

「……あれ、もしかして私ってS?」
「何言ってんだお前」

ゾロの前に酒を置きながら呟くと、冷めた目で見られた。

料理の提供が終わってある程度片付いたところで、休憩して良いと言われたので、皆の席へ向かう。フランキーの隣が空いていたのでそこに腰を下ろした。

「お疲れさん。残り物だが何か食うか?」
「うん、貰おうかな。そういえば皆ってこの島で何かしてるの?」
「今スーパーな大会があってな、各部門でこいつらが出場することになったんだ」
「へー、どんな大会?」
「武器ありとなしの強さ大会、料理大会、美人大会、狙撃大会、色んなことで競って優勝者には賞金が出るそうだ」
「楽しそうだね! フランキーは何か出るの?」
「おれは数日後に開催する、筋肉大会に出る」
「筋肉大会!? 何それ!」

フランキーが出場するという筋肉大会。所謂ボディビル大会のようなものらしい。絶対見に行きたい。フランキーと話していると、ナミとロビンに呼ばれて2人の間の席に移動した。

「昨晩は先に寝ちゃったから話聞けなかったんだけど、昨日はトラ男とは何もなかった?」
「何もなかったってどう言う事だい!? ナミすわぁん!」
「サンジ君、静かにして」

サンジはナミに怒られてシュンと落ち込んで近くの席に座る。彼が犬だったら耳が垂れているだろうなと思いながら見ていた。

「特に何もないけど……でもトラ男くん、変なお客さん寄せ付けないようにしてくれてたみたい」
「へェ。トラ男とは仲良くなった?」
「仲良くはなれてないかも。ごめんね、同盟相手なのに仲良くしなきゃいけないよね」
「渚は気にしなくて良いのよ。なんとなく原因は分かるけど」
「ナミ分かるの!? お願い、教えて! 私がトラ男くんに何かしちゃったなら謝らないといけないし」
「アイツの問題だからねェ」
「貴女は悪くないのよ。強いて言うなら可愛いは罪、かしら」
「「えっ!?」」

ロビンの言葉に何故か私と一緒にサンジも驚いていて、あいつには近づいちゃダメだと言われた。
それってトラ男くんが私に恋愛感情を持ってるってことみたいだけど、初対面で毒を吐かれたし好きって感情が伝わってこないし誤解だと思う。

「心配性なだけだと思うよ。彼のこと全然知らないけど、恋愛的な目では見られてないのは分かるよ」
「そうかしら」
「まっ、それで良いわ。私は誰にも手を貸す気はないから。渚の恋は応援するけどね」
「ほんと?」
「ええ。気になる人が出来たら教えなさいよ」
「うん、ありがと。ナミもロビンも教えてね」
「フフフ」

「渚ー! これもうめェぞ、食え! お前さっきから話してばっかで全然食ってねェだろ」

突然ルフィの腕が伸びてきて、口に肉を突っ込まれた。

「むぐっ……お、美味しい。このお肉柔らかくて美味しい!」
「だろ! いっぱい食うぞ」
「うん!」

それから満腹になるまで食べさせてもらって、休憩を終えた。


********************


「ありがとう、渚ちゃん。助かったよ」
「いえいえ。私もお小遣いが欲しかったので助かりました。お世話になりました」

数日後、奥さんのぎっくり腰が治ったらしい。トラ男も来ていて、もう大丈夫だろうとのこと。自由に使えるお金を稼ぐことが出来てとても嬉しい。
2人にお礼を言われながら、トラ男と一緒に店を出た。

「今からどうするんだ?」
「筋肉大会を見に行こうかな。そういえばトラ男くんは大会参加しなかったの?」
「金には困ってねェからな。無駄な体力は使いたくねェ」
「そっか。じゃあ筋肉大会出ようよ! トラ男くん素敵な筋肉してるよ」
「……興味ねェ」

しかし彼は大会が開催している方へと歩いていく。送ってくれるのかもしれない。歩きながら彼は口を開いた。

「……麦わら屋の船を降りて、うちに来ないか」
「それって仲間にならないかってこと?」
「あァ」
「私、自分で言うのもなんだけど足手纏いだよ」
「働いている時に見ていたが、お前は要領が良い。戦えなくても役に立つ」

まさかこんなお誘いを受けるなんて思ってもなくてうーん、と考える。ロビンが言っていたのは本当なのかもしれない。答えは決まってるんだけど、どう返そうか迷う。

「トラ男くんって私のこと、好きなの?」
「は……? 何故そうなる」

眉間に皺を寄せて不快だと言う顔をしているが、耳が赤い。仮に今までの発言が照れ隠しだったとしたら……。

「私、名前で呼んでくれない人は好きじゃないの。それにルフィ達から降りろって言われない限りは私の居場所はあそこなの」

誘ってくれたお礼と謝罪をつけて、彼に手を振ると手首を掴まれた。

「……渚って、呼んで良いか」
「もちろん」

目を逸らしながらそう言った彼は耳だけでなく頬も薄く色付いていて、可愛い人だったんだなとクスリと笑った。