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「ナミィー、次の島はまだかー?」
「もうすぐ見えてくるわよ。同じ事聞くのこれで何回目よ」
「次はどんな島なんだ?」
「お酒の有名な島よ」
「何だ酒かァ。肉もうめェのかなー」

チョッパーの問いにロビンが答える。彼女の言葉にピクリと反応した。

「酒だと!?」
「ロビン! それ本当!?」
「おいおい、2人が異常に食いついてるぞ」
「ゾロ!」
「おう」
「「ぶっ倒れるまで飲む」」

ガシリとゾロと手を握り合った。次の島が楽しみで仕方がない。

「あと毎日お祭り騒ぎをしている島のようね」
「祭りィ!?」
「ヨホホホー。私も歌わずにはいられませんね」

祭りだーと盛り上がる皆を見て、次の島では楽しめると良いなと思った。建物が派手な島が見えてきて、近づくにつれて島から騒ぐ声も聞こえてくる。

上陸すると男が1人、私たちを待っていたかのように立っていた。白い帽子に黒い服、スラッとした体形で刀を持っている。海賊だろうか。皆もその男に視線を向け、ルフィは嬉しそうに声を上げた。

「おおー! トラ男!」
「この島に来ると思っていた」

トラ男? 知り合いだろうか。ルフィに続いて皆がトラ男と呼ばれる人の元に集まっていくので私もついていった。ロビンが彼は海賊で麦わらの一味とは同盟を組んでいることを教えてくれた。ハートの海賊団という名前らしい。可愛い。

色々と話が終わったのか、トラ男と呼ばれる彼と目が合った。しかしすぐに目を逸らされて彼の視線はルフィに向く。

「麦わら屋、仲間が増えたのか?」
「おー! 渚ってんだ。この間釣ったんだ」

クマの酷い鋭い目。寝不足だろうか。さっき目が合った瞬間、よく思われていないと感じ取れたが恐る恐る話しかけてみる。

「……初めまして」
「頭が悪そうな女だな」
「なっ!?」
「……」

一瞬目が合ってまた逸らされた。何だこの人、感じ悪い。ルフィ達より年上っぽく見えるけど初対面の人に毒舌を吐くなんて。こういうキャラなんだろうか。

「ルフィ、この人怖い」
「トラ男だ。いい奴だぞ」
「トラ男ねェ……」
「何だ文句でもあるのか」
「ちょっ、まって近付かないで」

ズカズカと近づいてくるトラ男。彼は前が開いたパーカーを着ていて、間から覗くのは割れた腹筋。胸筋に刺青が入っていてちょっと怖いなと思う反面、どんな柄をしているんだろうと気になる。

「服、前しめて! これ以上近づかれると目の前に腹筋が……!」
「何だコイツ……」
「にしし、おもしれーやつだろ」

呆れた目で見られた。腹の立つ相手だろうと筋肉は違う。筋肉に罪はない。

「レディに失礼な事を言うんじゃねェ」
「……」
「……ったく。しかしおれ達を待っていたかのような口調だったが何かあったのか」

サンジの問いかけによりトラ男は真剣な顔つきになった。

「ああ。この島は酒が好きな海賊が集まってくるからな。お前らも来ると踏んでいた。ここで楽しむのは勝手だが、一つ忠告しておく。おれの仲間が数名消えた。その原因が何なのか、調査しているところだ。お前らも気をつけろ」
「消えたって……」
「ヒィィ! そんな危険な島行く必要ねェよ! やめとこうぜ」
「冒険の匂いがするー!」
「アーーー!」

ウソップは甲高い声を出して頭を抱えて泣いていた。行きたくないとサンジに泣きついていたが蹴られて飛んで行った。

「戦えないお前は特にな」

トラ男が私を指差した。ゾロやロビンよりも高い身長の人に見下されるのは少し怖い。私が戦えない人間だと分かるんだ。やっぱり戦える彼等とは纏うものが違うのかもしれない。
言われるだけなのも癪なので、ふいっとこっちから目を逸らしてゾロの服を掴んだ。

「安全なところにいるので心配無用です」

「……、早く酒飲みに行くぞ」
「うん。ゾロ耳真っ赤だよ」
「バッ、そういうのは言わなくて良いんだよ」
「じゃあルフィ、私達お酒飲みまくってくるね」
「おう!」

やっぱりゾロは反応が可愛い。隣にいて安心するし、彼といれば安全だろう。

「あの女はゾロ屋の女か?」
「いや、ちげェぞ。あいつら仲良いんだー」


********************


屋台でビールを買って、飲みながら街を歩く。お酒が有名な島ってだけあって、お酒は美味しいし皆楽しそうだ。海賊っぽい人も多い気がする。鍛えられている筋肉の人が沢山で目の保養だ。鼻血も出てきた。

「お前、トラ男に嫌われてたな」
「何でだろう。筋肉見てたのがダメだったのかな」
「あんな露骨に嫌うような奴じゃねェはずだが」
「会って数秒で頭悪そうって言われたんだよ? そんな事ある?……いやでもちょっと待って」

私が皆に拾ってもらった時のことを思い出す。デジャヴを感じていたのは、ゾロにも同じようなことを言われたからだ。

「何だよ」
「私、ゾロに初対面で弱そうって言われた」
「別に合ってただろ」
「前にブサイクとも言われた」
「根に持ってんのか?」
「いや全く」
「じゃあ良いじゃねェか」

「でも女の子に不細工とか言っちゃだめだよ嫌われるよ」
「……嫌ってんのか?」
「いや全然」
「ブッ、なんだよそれ」
「トラ男くんのことはいいや。もっと色んなお酒飲もう」
「おう、飲むか」

何故嫌われてるのかわからないけど、同盟相手と仲が悪くなることは避けたいし関わらないようにするのが1番良いと思う。


沢山屋台が並んでいる町の中心部ではステージがあってダンスしている人がいる。よく見てみたらステージの真ん中でブルックが歌っていた。

「ブルックだ……」
「ブルックだな」

こんなに楽しそうな島なのに、人が消えたりそんな物騒なことが起こっているなんて信じられない。

「2人で来ちゃったけど、皆と一緒の方が良かったかな」
「おれは酒が飲めれば何でも良い」
「お祭りって皆で楽しむものじゃない?」
「まァそのうち会うだろ。ブルックみたいに」
「迷子にだけはならないでね」
「誰がなるか」

それからまた屋台でお酒を買ったり、お店に入ってご飯を食べながらお酒を飲んだり、気分はとても良かった。

「ゾロ、次はあのお店に……って、あれ?」

いない。どこか掴んでおくべきだった。勝手に何処かに行って迷子になっているんだろうなァ。迷子にならないでって言ったのにやっぱりこうなってしまうのか。まだそんなに遠くに行ってないと思うし、早くゾロを探さないと1人でいるのは危険な気がする。


「お嬢さん、何か困り事かな?」
「え?」

後ろから声がして振り向くと、モジャモジャの髭を生やした大柄のおじさんが立っていた。どうしよう。武器は持ってなさそうだけど、海賊っぽい人だ。

「道に迷ったのかい? それとも美味しいお酒をお探しかな? それとも仲間を……海賊狩りのゾロをお探しかな?」
「……っ、ゾロに何かしたの!?」

目を見開いた私に、男は口角を上げた。そして私の耳元に顔を近づけた。逃げたくても怖くて足が動かなかった。

『お前は麦わらの一味が嫌いだ。裏切るために今まで仲間をしてきた。アイツらを始末したい。……そうだろう?』
「は、い」

どういう事? 今勝手に声が出た。それに身体が動かなくなってる。足が勝手に動いて、男の後ろをついて行くように歩いている。思考は働いているのに身体が言うことをきかない。何この感覚。おかしい。もしかして何かの能力だろうか。

『お前の力は強い。身体も軽くて動きも早い。このナイフを使ってアイツらを始末するんだ』
「はい」

視線の先にはルフィとナミ、ゾロがいた。良かった、ゾロは無事だった。3人は焦った様子で誰かを探している。もしかして私を探しているのかもしれない。自分の足が彼らの方へ向かう。ナミが私に気付き、走って近づいてきた。

「渚! 良かった。こんなところに居たのね。2人とも! 渚見つかったわよ」
「おー見つかったか。それじゃ飯食いに行こーぜー」
「お前迷子になってたんだぞ、気をつけろ」
「迷子になったのはアンタの方よ、ゾロ! どうせゾロが勝手にどこかに行ったんでしょう。ね、渚」
「……コイツ、様子がおかしくねェか?」
「まさかどこか怪我でもしてるんじゃ……」
「渚、誰かに何かされたのか?」

ルフィが真剣な顔で聞いてきたが、やはり何も発することが出来ない。

「……」
「どうしたの? ……渚?」

ナイフを持った自分の右手に力が入るのが分かった。ナミのお腹に刺そうとしている。それに彼女は気付いていない。止まって、止まってと頭の中で騒いでも右手は動く。

逃げて、お願い。ナミを傷付けたくない。逃げて……。右手は止まらず彼女のお腹へと向かう。このままじゃ刺してしまう、そう思った瞬間、ルフィに右手首を掴まれる。

「何してんだ、渚」
「突然どうしたのよ、ルフィ」
「今、ナミを刺そうとしてた」
「え!?」

私の身体は後ろに大きく飛んで2人と距離をとった。体の自由がきかない今、自分が何をするかわからない。

「麦わらの一味を、始末する」
「えっ!?」
「今まで一味にいたのは、この島に来るため。そしてここで貴方達を始末する」
「何言ってんだよ。お前気付いたらちっせー船の上に飛ばされてたんだろ? 平和な国から来たって言ってたじゃねェか」
「全部作り話よ」

やだな、勝手に体を動かされるだけじゃなくて、皆に嘘つくようなことも言わされて。信頼が失ってしまうではないか。

両手に力が入り地面を足で蹴って高く飛んだ。そしてルフィに向かって2つのナイフを振り下ろす。

「ゾロ!」
「おう」

ルフィの前に現れたゾロの刀とナイフがぶつかり音を立てた。そして凄まじいスピードでゾロに向かって連続で攻撃する。私の運動神経じゃ普段こんな動きは出来ない。私のナイフを刀で受けたゾロの口角が上がったのが分かった。そして殺気なのか何なのか肌がひりつく。

「驚いた。お前こんなに戦えたのか」
「アンタなんて大嫌いよ。早く切られてくれる?」

そう言った瞬間、ゾロは口角を下げ目の色が変わった。そして刀で私の手からナイフを一瞬で弾き飛ばす。2つのナイフは私の後ろの地面に突き刺さっていた。

「嫌いじゃねェってさっき言ってたぞ」
「ねェ、本当に渚なの?」
「こいつニセモンか?」
「それか操られているのか、どっちかよね。あの子がこんなこと言うはずないわ」
「誰に操られてんのか分かればなー。んー……」

3人が話す中、突然トラ男が彼等の前に現れた。この人も何かの能力者なのか、動きが早すぎて私がそう見えただけなのか。

「麦わら屋、犯人が分かった。他人を洗脳し、操る能力者だ」
「やっぱ渚は操られてたのか、良かったァ。よし、それが分かればお前ら渚を何とかしとけ!」
「了解!」

ルフィとトラ男は遠くの方へ飛んで行って、すぐに見えなくなった。残ったゾロとナミが会話している間に私はナイフを拾い上げた。

「ルフィがコイツを操ってる奴を倒すまで、時間稼ぎだな。ナミは下がってろよ」
「分かった。渚に怪我負わせたら許さないわよ」
「おう」

私の体は地面を蹴ってゾロの方へ走って行き、彼のお腹を切ろうとナイフを横に振る。ナイフと刀がぶつかり、大きな音を立てた。そして私は彼に向かって連続で攻撃をしていく。速すぎる攻撃に思考がついていかない。
隙をついてゾロが私に向かって刀を落とそうとした時だった。私の口はゾロ、と彼の名前呼び、涙で視界が歪んだ。

「……渚、」
「なーんてね」
「ぐッ!」

瞬時にナイフでゾロの腕を切った。目の前で血飛沫が上がり悲鳴を上げたくなった。私の手で彼を傷付けてしまった。腕を切った感覚が残っていて、初めての感覚が恐ろしくて逃げ出したいのに、私の身体はいうことをきかない。

負傷した腕を押さえながら片膝をつくゾロ。私は両手にナイフを握りながら彼に近づく。まだ傷付ける気だ。自由が効かない身体に必死に抵抗した。
きっとゾロが私にやられることはないだろう。でも反対にゾロが私を傷つけることもない。

「……ゃく、はや、く……逃げ、て」

何とか出せた声。一瞬だけど、操られている力が弱まった気がした。逃げろという言葉にゾロもナミも驚いていた。

「お前をおいて逃げれるか」

口角を上げてそう言い放ったゾロに、胸を締め付けられる。私は彼を傷つけて彼は腕も痛いはずなのに、逃げずにいてくれる。どうしたら……、自分じゃどうしようも出来なくて。

「……っ、ゾロ、助けて」
「任せとけ」

目の前の彼に、助けを求めた。
私の足にまた力が入った途端、プツンと何かが切れたかの様に身体の力が抜けて、地面に倒れた。

「!?」
「渚、大丈夫!?」

息をするのが苦しくて、身体が痛い。多分洗脳が解かれたんだ。ルフィがあの男を倒してくれたんだろう。震える手で地面を押して体を起こす。何とか立ち上がれそうだ。

ごめんと謝ると、2人とも駆け寄ってきてくれた。

「きっとルフィが操っていた奴をやっつけてくれたのね。渚、怪我はない?」
「……身体中が全部痛い」
「ったく、だらしねェな。乗れ」

私に背中を向けて膝をつくゾロ。おぶってくれるつもりなのだろう。彼の腕から流れる血を見て首を横に振った。

「お姫様抱っこが良い」
「あ?」
「うそうそ。ゾロにお姫様抱っことか似合わないし」
「おい、どこ行くんだよ」
「ゾロ、腕怪我してるから」
「これくらい何ともねェ」
「私も何ともないし」

足の力が上手く入らなくて船まで歩けるか分からないけど。フラリと身体が倒れそうになるとナミが支えてくれた。

「ふらふらじゃない」
「ナミ、ごめんね」
「無理に身体を動かされてたんだもの。身体も悲鳴を上げるわよ。今は甘えときなさい」
「大丈夫だよ」

「強情な奴だな」

突然膝の裏からすくい上げるように抱え上げられた。驚いて声が漏れる。

「これで良いんだろ」
「……腕本当に大丈夫?」
「こんなの擦り傷だ」

大丈夫だと言うので遠慮せず抱っこされよう。ゾロがお姫様抱っこしてくれるなんて何だか似合わないな、と笑みが溢れる。

「何笑ってんだよ」
「へへ、ありがとう」
「……お前はそうやってバカっぽく笑ってりゃ良いんだよ」
「何それ! 私そんな変な笑い方してるの!?」
「してるわね」
「ええ!?」

ナミにも言われて落ち込む。
でもすぐに彼女は優しい顔になって「無事で良かった」と私の頭を撫でる。ブワッと涙が溢れ出て止まらなかった。ゾロの服が涙でびしょ濡れになって怒られたけど、そんな事気にする余裕はなかった。
足手纏いになっている戦えない私にこんなにも優しい言葉をかけてくれる。彼等のことは絶対に裏切りたくない、そう心に誓った。