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「スッゲー荒れてんなァ。昨日はあんなに晴れてたのに」
「何とかしてくれよウソップー」
「いや無茶言うな」

 宿の窓から外を見つめるルフィとウソップ。宴をした次の日、天気も海も大荒れで、波の状態が落ち着くまでこの島で過ごすことになった。借りた宿のロビーで皆それぞれ寛いでいた。ブルックの演奏を聴きながらのんびりしているとゾロに話しかけられる。彼は何故か朝から不機嫌だ。

「昨日のこと覚えてねェのか?」
「昨日? ロビンの横でお酒飲んでから記憶が飛んでるんだよね。最近私お酒弱くなってるのかなァ。すぐに寝ちゃう」
「……」
「もう、怖い顔しないで笑って笑って」

 自分の頬に指を添えて笑うように言うけど彼の眉間の皺は深くなっていく。昨日何かあったのだろうか。「もう言わねェ」と呟き、刀を持って宿を出て行こうとするゾロにジンベエが声を掛けた。

「ゾロ、今はやめておけ。外は嵐じゃ」
「動いてねェと身体がなまる」

 身体が濡れるのも構わず、ゾロは出て行ってしまった。

「どうしたんだ? ゾロのやつ。トレーニングならここでも出来るのに」
「ほっとけほっとけ。馬鹿は風邪引かねェんだから」

 心配そうに外を見つめるチョッパーにサンジが温かいスープを渡す。記憶がない時に私はゾロに何かしてしまったのだろうか。前にもこんなことがあったけど、あんなに怒っているのは初めてだ。



 雨がやんだ頃、島の人は「海賊が来た」と騒いでいた。サニー号とは別の海賊船が上陸したらしい。その海賊船を見に行くと言ってルフィは飛んで行き、数名ついて行った。
 悪い海賊だったとしてもルフィ達が何とかしてくれるだろうと思って、私はゾロを探しに島を歩いた。昨日の事は覚えてないから、彼が昨日何を言ったのか聞いてみよう。
 街にはゾロの姿が見当たらず、森の方へと探しに行くがやはり彼の姿はない。一体どこに行ったのだろう。もしかしたらルフィ達と一緒にいるのかもしれない、と踵を返した時、雨で濡れた地面に足を滑らせ、崖から身体が下にある海へと落ちていく。草木で分からなかったがすぐ後ろは崖だったようだ。
 死を覚悟して目を閉じた時、聞き覚えのある声と匂いに包まれた。恐怖でバクバクと鳴り響いている心臓を抑え、顔を上げる。

「また、助けてくれたんだね」

 私を見つけて走ってきてくれたのだろうか、彼の首には汗が流れていて肩で息をしていた。先程までいた場所からは少し離れた町の端で、私は彼の腕の中にいた。ああ、能力でここまで来たんだと数秒経って理解した。

「一人で行動するなと何度も言っただろ」
「……うん」
「死ぬとこだったんだぞ」
「確かに今のは死んでたかも。助けてくれてありがと」
「無事でよかった」
「えっ、ちょっとロー!?」

 力強く抱きしめられた。彼は身長が高いから強く抱きしめられると身体が持ち上げられて踵が上がる。なんでここにいるの、さっき町の人達が騒いでいた海賊ってローの事?と聞きたかったがそんなことを聞く時間はなかった。

「会いたかった」
「うん、私も会えてうれしい」
「会えない時もずっと渚のことを考えていた」

 長い指で顎を掴まれて上に持ち上げられる。寂しそうでつらそうな目が私を捕える。

「好きだ」
「……っ!」
「最初は一目惚れだ。渚を知っていくうちに更に好きになった。おれのものになってくれ」
「ちょ、ちょっと待って!? いきなりそんなこと言われても」
「いきなりじゃねえ。おれの気持ち知ってただろ」

 彼の気持ちは知っていた。だけど突然告白されるなんて思ってもなくて、頭が混乱する。初めて会った時には合わなかった目が、今は真っすぐこちらを見ている。

「……でも私、ローの船には乗れない。ルフィと約束したから」
「麦わら屋に任せておけねえ。おれの所に来い」

 髪をすくわれ唇を落とされる。そんな真剣な顔でこんなことするのはずるい。涙が出そうなほど顔が熱くなって思わず彼から目を逸らした。

「ちょっと、考えさせて……」


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 海賊船が上陸したと町の住人が騒ぎ出し、面白そうだから見に行ってみようと言うルフィに仕方なくついて行った。海賊船を確認すると私達が見覚えのある船だった。

「あれトラ男ンとこのじゃねェか?」

 ルフィやチョッパーが船の近くまで行き、大声で呼びかける。所々ぶつかった形跡がある船を見るに、荒れた海で操作が出来なくなりこの島に流れ着いたってとこね。疲れ果てた様子で船から船員が次々と下りてきて、ルフィの姿を見るなり驚いていた。

「知ってる奴の船で安心したぜ。流石に二日連続で戦闘はきついからな」

 ウソップの言葉に「そうね」と同意する。厄介な海賊じゃなくて良かったわ。

「そういやナミ、ロビンと渚はどこ行ったんだ?」
「ロビンは町の探索に行って、渚はゾロを探しに行ったわ」
「ゾロ? あっちにいるぞ?」
「ハァ!?」

 いつの間に現れたのやら、ゾロはルフィ達の近くにいた。朝から機嫌が悪かったけど、多分渚と何かあったんでしょうね。フラれでもしたのかしら。

「渚はどこだ」

 船から下りてこっちに来たトラ男の最初の発言はこれだった。どれだけ惚れ込んでんのよコイツ。確かに渚は可愛くて魅力的なのは分かるけど。

「ゾロを探しに島中を歩き回ってると思うわ」
「ゾロ屋ならあそこにいたが?」
「そうなのよね」
「じゃあ今一人ってことか……」

 トラ男は考える仕草をした後、辺りを見回して森の方角で視線を止めた。そして突然走り出し、能力を使って一瞬で遠くへ行った。

「なんかあったのか?」
「さあ」
「とりあえずついて行ってみるか」
「そうね」

 ウソップと一緒に森へ向かう。その途中でゾロの頭を殴って引きずって行った。なんでアンタはここにいるのよ。
 トラ男を追ってたどり着いたのは町の端。遠くの方でトラ男と渚が抱き合っているのが見えて、建物に身を隠す。二人を見てゾロはあからさまに不機嫌になる。ウソップは口元に手を当てて女のように騒いでいた。

「急に走り出したかと思えば渚の所に行ってたのね」
「よくあんな離れたところから見つけられたよなァ」
「いいの? とられちゃうわよ」

 ゾロに視線を向けて言うと黙ったまま去ろうとするので、もう一度頭を殴ってこの場に座らせた。

「なにすんだ!」
「大声出したら聞こえるわよ」
「……」
「……で、フラれたの?」
「え!? 告白したのか!?」
「ウソップ黙って」
「スミマセン」

 眉間に皺を寄せ、ゾロは私の問いに答えるのを渋る。これはフラれたのね。渚、ゾロの筋肉は好きだけど本人に対しては仲間としてしか見てないようだから。渚へ視線を戻すと、まだ抱き合っていた。というかトラ男が一方的に抱きしめてる感じだけど。そういえばあの二人って……。

「前にあの二人は相性が良いって出たそうじゃない」
「あー、あのラブ島とかいう変な島の。サンジが乱入して三人で帰ってきたけどな」
「渚って我儘を言っても甘やかしてくれて自分だけを特別扱いしてくれる人が好きなのよ。トラ男って確かに渚の理想にピッタリじゃない?」
「真っ先に飛んで行くくらい渚の事好きだもんなァ、トラ男のやつ」

 目線を下に向け、怖い顔をしている男に声を掛ける。落ち込んでいるようにも見えて同情心で背中を叩いた。

「フラれたからって落ち込まないの!」
「フラれてねェ!」

 ずっと黙っていたゾロがようやく喋った。

「…………言ったが、覚えてないんだと」

 どこか拗ねているような顔でゾロは言った。その瞬間、ウソップと同時に噴き出した。

「あっはっはっは! 告ったのに渚が覚えてないの? どういう状況よそれ。ちゃんと言ったの?」
「可哀想になァ、ププッ」
「……だから言いたくなかったんだ」
「まさか酔っぱらってる時に言ったんじゃないでしょうね」
「……」

 黙るってことは肯定と捉えてよさそうね。「言ったのか」「言ったみたいね」とウソップと一緒に呆れた。

「条件次第では協力してあげないこともないけど?」
「……、いらねえ」
「じゃあ奪って来なさいよ。アンタ海賊でしょ!」

 ドンと背中を押すと何か決心したのか、ゾロは立ち上がり渚の元へ歩いて行った。


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 考えさせてと一歩後ろに下がりローから距離を取れば、彼は一歩こちらに近づき私の手を取る。

「待つなんて出来ねェな。欲しいもんがあったら奪う」

 彼は優しいし甘やかしてくれるだろうし一途に私を想ってくれるだろう。勿論ローの事は好き。だけど今は恋愛感情があるわけでない。ローから向けられる想いに私は答えることが出来ない。
 それに彼について行きたいと思っていたとしても私一人の判断では動けない。この世界に来た私を最初に救ってくれたのはルフィ率いる麦わらの一味だ。だから……。


「いつまでそうしてんだ」

 突然後ろから首に腕を回される。驚いて腕に歯が当たってしまったけど……こ、この上腕二頭筋は……!

「ゾロごめん、歯が……!」

 ゾロの顔を確認しようと見上げたら、今にも怒りが爆発しそうなくらい怒っていた。まだ機嫌が直ってない。ゾロは私の手を掴んでいたローの手を振り払い、後ろから私を抱きしめる。ンン、後頭部に大胸筋の感触が……!

「触ンな」
「焦ってんのか? ゾロ屋」

 今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気で、なんとかして止めないとと思ってゾロの腕から抜け出して二人の間に入る。

「ごめん、ロー。今日ゾロ朝からご機嫌斜めなの。多分私のせいで。だから喧嘩しないで」
「オイ」
「ハッ、いつまでも年下扱いだな」

 喧嘩しないでと言ったのに二人は私の頭の上で睨みあっていて、どうしようかと解決策を考える。

「……渡さねェぞ」
「奪うだけだ。心ごとな」
「だっ! 駄目だよ、前みたいに心臓取るのは!」