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「暇だ」
「暇だなー」

ルフィとウソップが空を見上げて退屈そうに呟いた。先程まで釣りを楽しんでいた2人だけど、何も釣れなくなったらしい。

私も特にすることがなく甲板を歩いていると、誰も乗っていない揺れるブランコを見て乗りたい衝動に駆られる。誰かが乗っているのは時々見ていたけど、自分は乗ったことがない。ちょうど部屋から出てきたチョッパーに声を掛けた。

「チョッパー、このブランコって乗っても良いの?」
「おう、良いぞ!」
「じゃあ一緒に乗ろうよ」
「やだよ」

可愛い顔であっさりと断られてしまったので大きなダメージを受けた。……あ、良いこと思いついた。

「今から10年前かな。実は私には幼い弟がいてね。ブランコに2人乗りするのが夢だったんだ」
「え?」
「でも弟は3歳の時に病気で亡くなってね。ブランコに乗る夢は叶わなかった。だから……ウッ」

泣く真似をしながらチョッパーを見ると、目からいっぱい涙を流していた。人の話を信じすぎやしないか。大丈夫かこの子。可愛いけど。

「渚ーー! 一緒にブランコ乗ろう!!」
「うん! チョッパーのおかげで夢が叶うよ。ありがと」
「おォォおれ何でもするぞ!」

ブランコに腰かけるとぴょんとチョッパーが膝の上に飛び乗ってきて、とても癒される。それにふわふわとした触り心地の良さに抱きしめたくなった。
ブランコを漕ぐと久しぶりの感覚に楽しくなって声を上げる。

「風が気持ち良いね、チョッパー」
「そうだな! あっ! あの雲、わたあめみたいだ。食べたいなー」
「本当だ。わたあめ久しく食べてないや。お祭り行きたいな」
「良いなお祭り! おれ楽しいの大好きだ」
「私も。どこかの島でお祭りやってたら良いね」
「そうだな!」

盛り上がっている私達を見て、ルフィが羨ましそうな顔をして話しかけてきた。

「お前ら何か楽しそうだな。渚ー、何か面白いことやってくれよー」
「急に無茶ぶりを……。そうだ、ルフィはどんな島に行ってみたい?」
「うめェ肉がいっぱいある島」
「お肉好きだねェ。私も筋肉ムキムキの人ばっかりの島に行きたいな……あっ、暇つぶし思いついた! 楽しい勉強会をしましょう」
「「えー勉強かよー」」

ルフィとウソップが口を尖らせながら言ってきた。折角思いついたのに失礼な人達だ。
チョッパーに一緒に乗ってくれてありがとう、とお礼を言ってブランコから降りる。

「じゃあルフィ、ウソップ、チョッパー、ここに座って下さい」

眼鏡をかけて私の前に座るよう指示すると、3人は私の前に横並びになって座った。

「何の勉強すんだ?」
「どこから取り出したんだその眼鏡」
「うおォォ! 渚先生っぽいぞ!」
「渚ちゅわーん! 眼鏡姿も色っぽくて最高だー!」
「お前はどこから来た、サンジ」

3人が座っている隣に急に現れたサンジも座る。生徒が4人になった。

「じゃあ先生の手伝いをしてくれる人を募集します。そこで暇そうにしているゾロ、手伝って下さい」
「あ? ……ヤな予感がするからパス」
「なななっなんで……!?」
「涎出てんぞ」
「!?」

チッ、心の中で舌打ちをした。仕方がない、ゾロは諦めよう。非常に残念だけど。

「じゃあ手伝ってくれる人!」
「はいはいはーい! 渚先生! おれやりまァす!」
「じゃあサンジ、私の隣に立って下さい」

隣に来たサンジの背後に回って彼の両肩に手をのせる。スーツのジャケットを掴んで「脱いで」と言うと、目をハートにして脱いでくれた。この人、お願いしたら何でもやってくれるんじゃないか? チョッパーに続いてサンジも心配だ。
でも聞いてくれるなら沢山お願いしよう。

「あとネクタイ取ってワイシャツのボタン外して」
「ハァイ」
「では今から筋肉講座を始めます!」
「おれ筋肉の名前とかわっかんねェぞ」
「大丈夫、誰でも知ってるような簡単な問題しか出さないから。じゃあルフィ、ここ、お腹の筋肉の名前は?」

サンジの腹筋を指してルフィに問いかけると彼はうーんと首を傾げた後、思い出したかのようにあっ! と声を出した。

「腹筋だ!」
「正解ー! 割れている腹直筋はとても魅力的ですね! ルフィすごい!」
「へへっ、だろ!」
「じゃあ次は胸の筋肉、ここは? はいウソップ」
「胸の筋肉だろ? 簡単だ。ずばり胸筋!」
「正解ー! ふっくらしている大胸筋は見ていてうっとりしてしまいますね。じゃあウソップ、肘を曲げて力こぶを作って下さい」
「おっ? こうか?」
「チョッパー! 今膨らんだ筋肉は!?」
「えっと、上腕筋か?」
「そう! 上腕二頭筋! ちなみに二の腕辺りの筋肉が上腕三頭筋です。ここはテストに出るから覚えておくように!」

そう言うと皆は「はーい」と揃えて返事をしてくれた。皆ノリが良くて可愛い。

「魅力的な筋肉はまだまだあるけど、その中でも胸鎖乳突筋は最高だと思うの」

どこだ? とウソップが聞いてきた。興味を持ってくれるのは嬉しい。ルフィは飽きたのか何処かに行ったけど気にしないでおく。
隣にいるサンジの顎に手を添えて、クイッとこちらに向かせる。横を向いて出た胸鎖乳突筋にゆっくり指を滑らせた。

「耳の後ろの部分から鎖骨の内側にかけてつながっている太い筋肉。ここが胸鎖乳突筋だよ。魅力的すぎない?」
「渚、サンジが鼻血出しすぎて倒れそうだ!」
「えっ?」

チョッパーに言われてサンジの顔を確認すると真っ赤な顔はすぐ近くにあって、目が合ったと思えば彼は鼻血を出しながら後ろに倒れていった。

「医者ー! ……っておれだー! サンジィィィィ!」
「えっ、えぇ?」
「……やりすぎだ、アホ」

ずっと筋肉講座を遠くから見ていたゾロはいつの間にか私の近くに来ていて、頭に手刀を落とされた。まさか鼻血を出しているとは知らず、サンジには心の中で謝っておいた。



お詫びにと言ってはなんだけど、今日のティータイムのお菓子はサンジの代わりに私が作ろうと思う。あまりキッチンを荒らさないよう心掛けて、必要な材料を取り出しスコーンを作り始めた。


数十分後、生地が出来て焼けるのを待ってると、ダイニングのドアが開きサンジが入ってきた。鼻血は止まったみたいだ。さっきはごめんね、と謝ると彼は大丈夫だと首を横に振った。

「良い匂いだな。渚ちゃん、何か作ってるのかい?」
「うん、スコーン作ろうかなって。さっきのお詫び」
「本当かい? 渚ちゃんの手作りが食べれるなんて何て良い日なんだ! じゃあおれはスコーンにつけるジャムを用意するよ」
「それじゃあみかんジャム作ってほしいな!」
「お安い御用さ。みかんジャムか、ナミさんが喜びそうだ」
「だよね」
「渚ちゃんのリクエストも聞くぜ?」
「じゃあいちごジャム!」
「了解」

それからサンジはジャムを作り始めたが、スコーンが焼きあがる頃にはジャムはもう出来ていて、やはりコックは作るスピードが違うなと感心した。スコーンを取り出そうとしたら肩に手を置かれ止められた。振り返るとサンジは真剣な顔つきをしていて驚いた。

「あと1分」
「う、うん」

きっとあと1分待った方が美味しく出来上がるんだろう。ジッと待ち、彼が良いといったタイミングでスコーンを取り出す。こんがりと焼きあがっていて良い匂いだ。

「出来た!」
「おー、上手く焼けてるな」
「サンジが作ったジャムも美味しそう」
「美味しくできたと思うぜ」

彼はジャムを指に絡めて味見をし、美味いと呟いた。その動作に色気を感じてじっと見つめる。それに気づいたサンジは微笑みながら、スプーンでジャムをすくって口に入れてくれた。味見したいと思われたのかもしれない。
前に同じことした時はあんなに動揺していたのに、自分がする時はスマートに決めるんだもんな。ずるい男だ。

「どうかな」
「甘くてとっても美味しい」
「そりゃ良かった」

出来上がったスコーンとジャムを皆に配りに行こうということになった。ナミとロビンにはサンジが配りに行きたそうだったからお任せして、私は他の人達を探しに行く。

ルフィ、チョッパー、ウソップは3人並んで再び釣りをしていたので、後ろから声をかけると皆喜びながらすぐにスコーンに手を伸ばした。

「スコーンは渚オリジナルだよ。皆さっき筋肉講座受けてくれたからお礼に。沢山どうぞ」
「すっげーうんめェぞ!!」
「うめェ!」
「渚良い嫁さんになるな!」
「ありがと! ウソップ100点満点!」
「おう、ありがとう?」
「おれは何点だ!?」
「チョッパーは80点」
「えーー!?」
「サンジが作ったジャムもあるから、これつけて食べるともっと美味しいよ」
「「「うめェェェェ!」」」

3人とも幸せそうに食べるものだから、作った甲斐がある。たくさん作ったけどすぐになくなりそうだなと思いながら船内に入った。

フランキーがいつもいる部屋、兵器開発室に行き声をかけると、作業をやめてこちらに来てくれた。

「渚がここに来るなんて珍しいな。どうした?」
「お菓子作ったからどうかなと思って」
「ちょうど小腹が空いてきたところだ。スーパー良いタイミングだぜ。ありがとな」
「いいえー」

フランキーって外見変わってるけど、普通に話してたら優しいお兄さんって感じ。相談事も親身になって聞いてくれそう。……一つお願いしてみても良いかな。

「フランキー」
「どうした、改まって」
「腕に、ぶら下がってみたいのですが」
「腕にィ? よし来い!」
「良いの!?」

驚いた顔をしたかと思えばすぐに口角を上げて、私が彼の腕を掴みやすいように屈んでくれた。大きな腕を持つとその腕が上がり、足が地面から離れる。フランキーは腕を上下左右に動かし、私の身体も引っ張られる。

「すごーい! たかーい!」
「お前も子供っぽいところがあんだなァ」
「やりたい事はやりたい人間なので。あー楽しい。ありがと、フランキー」
「おう」

満足して下ろしてもらい、彼にもう一度お礼を言って部屋を後にした。

「ブルックとゾロにはサンジが届けに行ったかな」
「私をお探しですか?」
「ヒェェェェェ!!」
「ヒョォォォォォォ!!」
「暗いところからででっ出てこないで! 怖いから!」
「渚さんこそ急に悲鳴を上げるので心臓飛び出るかと思いました。私心臓ないんですけども」
「もう。お菓子持ってきたよ」
「良い匂いですねェ。私甘いものに目がないんです。ガイコツだから目はないんですけども。ヨホホホホ!」
「スコーンとジャムをどうぞ」
「渚さんの対応が以前よりキビシー! 悲しくて胸が締めつけられる思いです。私締め付けられる胸なんてないんですけど。ヨホホホー!」

笑い声をあげる彼をスルーしてダイニングに向かう。ブルックのスカルジョークは無視して良いってロビンに言われた。それでもうるさい時は殴りなさいとナミに言われているので、こういう対応が多分正解なんだと思う。悲しんでなさそうだし。


ダイニングに戻り中を覗くとまだサンジは戻ってきていなかったので、ナミとロビンのところで食べるのかなと思っていたら後ろから声がかかった。

「お待たせレディ」
「サンジ。ここで食べる?」
「勿論さー! 渚ちゃんとの特別な時間だからね。紅茶を入れるよ」
「そっか、ありがと」

彼のそういう言葉がちょっと嬉しかったりする。
紅茶にスコーンにジャムがテーブルの上に並べられ、椅子に腰を下ろす。皆美味しそうに食べてくれたことを話したり、ナミとロビンが私を褒めてくれていたことを聞いて嬉しくなった。

しかし最後のスコーンに手を伸ばした時にハッとある事を思い出した。

「あーーー!」
「どうしたんだい!? 渚ちゃん」
「……ゾロにあげるの忘れてた」
「おっと、すっかり忘れてたぜ」

近くにいなかったアイツが悪いと言ってくれたけど、折角だし食べてもらいたいから渡しに行こうと思う。一緒にジュースも、と渡されて何だかんだでサンジって皆に優しいよなァなんて思いながらジュースを受け取った。

ダイニングから出てゾロを探すと、彼は甲板で昼寝していた。さっきまでいなかったのに。声をかけるとすぐに目が開いた。

「スコーン焼いたんだけど、食べる?」
「おう。渚が焼いたのか?」
「うん。美味しいよ」

スコーンとジュースを渡して反応を待つ。うめェなと言われたので満足して立ち去ろうとしたらもっとねェのか、と声がかかる。ダラダラと汗が噴き出た。

「ね、ねェ」
「何でそんな汗かいてんだ。隠してねェで寄越せ」
「ないんだってばー!」

まるで獲物を狙うかのような目に逃げたくなって逃げた。後ろから音が聞こえたので走りながら振り向くと、ゾロが追いかけてきている。デジャヴ。
船の上だし逃げる場所もなく、頭を片手でガシリと掴まれた。

「どうして追いかけてくるの」
「お前が逃げるからだろ。オラ、寄越せ」
「あれが最後の1個で……」
「ねェのか。それなら仕方ねェな」

意外とあっさり解放してくれた。まァ彼はそこまで食い意地を張ってないか。

「ね、筋トレしないの?」
「昼寝する」
「しよ。お願い。私、今日は1人で上行けるように頑張るから」
「なら1人で行けたらしてやるよ」
「ほんと!?」

それなら頑張るしかない。何としてでも行くしかない。ロープに手をかけて上に登っていく。風が吹いていて早くは登れないけど、何とか上の梯子まで辿り着いてそのまま部屋に入る。

「ゾロー! 登ったよ! 早く来て……、寝てる!?」

下にいるゾロを確認すると寝ていた。拡声器を使ってゾロに呼びかけるとびっくりして飛び起きていた。それからジムにやってきた彼に、もう少し早く登れと溜息を吐かれた。