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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -







 ゆらゆらと揺れるサニー号の上は落ち着く。実家に帰ってきたかのような安心感だ。さて、そろそろサンジに謝りに行かなくては。突然キスされたとはいえ、酷いことを言ってしまった。
 キッチンに入るとサンジの姿はなくて入れ違いになってしまったのかと、彼を探すことにした。甲板にもアクアリウムバーにも居なくて、もしかしたら男子部屋かもしれないと思い、ちょうど部屋から出てきたウソップに声を掛けた。

「ウソップ、サンジ見てない?」
「サンジ? あー……」
「部屋にいる?」
「いや今はいねェけど、落ち込んだ様子でさっき部屋から出ていったぜ。なんかあったのか?」
「……」

 もしかして私のせい? 黙った私の様子を見て、察しの良いウソップは「このウソップ様に話してみろ。何でも解決してやる」と言ってくれた。

「その……、色々あって、酷いこと言っちゃって。だから謝りたいんだけど、全然見当たらなくて」
「そういや部屋出て行くときも周りを気にしながら出て行ってたな。サンジの奴、渚のこと避けてるんじゃねえか?」
「そんな……」

 それからウソップと一緒に手分けしてサニー号を探してもサンジは見つからず、完全に避けられていると理解した。キッチンにもいないなんて一体どこに行ったの。ダイニングのソファに座り、ウソップとどうするか考える。すると彼は何か思いついたのか、あっと声を上げた。

「いいこと思いついたぞ! 渚、この目薬をさして膝を抱えろ!」
「う、うん?」

 彼にされるがまま従う。ウソップは「必殺! 慰めにきたサンジを捕まえよう大作戦だ!」と鼻高々になって言った。女性が泣いてたらサンジは来るだろうという考えか。

「上手くいくかな」
「あとはお前の演技次第だ。おれは渚が泣いてることを言いまくってくるぜ!」
「え、ウソップ……!?」

 パタン、とドアが閉まる。そして外では「大変だー渚が泣いてるぞー」とウソップの声が聞こえる。サンジだけじゃなくて皆に誤解される。ウソップを止めに行こうと立ち上がった瞬間、バタバタと大きな足音と勢いよく開かれたドアに驚き足を止める。

「渚! なんで泣いてんだ!?」
「ルフィ!? 違うの、誤解!」
「うそつくな! 泣いてんじゃねえか! どこかイテェのか!?」

 ウゥ、そんな何の曇りもない瞳で見つめられたら私の中の良心が痛む。船長が優しすぎて本当に涙が出てきそう。

「大丈夫か? 腹が減ったのか?」
「ううんお腹は……あ、ウンウン! 私お腹が減って倒れそうなの!」

 お腹が減ったって言えばサンジが現れるかもしれないと思い、何度も首を縦に振るとルフィは二ッと口角を上げた。

「なんだそうだったのか。おれも腹が減ってきたとこだ! おーい! サンジーーー! メシーーー!」

 叫んでも彼は現れず、サンジいねえのか? とルフィは首を傾げる。ルフィを巻き込んでしまうのは申し訳ない気もするが、先程からサンジが見当たらないことを伝えると探してくると大声で出て行った。
 一体サンジはどこに行ったのだろう。


「渚!!」

 溜息を吐いた時、ダイニングに入ってきたのはナミだった。眉間にしわを寄せて肩で息をしているけど何かあったのだろうか。

「ちょっと、大丈夫!? 誰が原因!?」
「あっ、大丈夫だよ」
「渚が泣いてるってウソップが。これ今採ってきたみかん。美味しくできてるから食べて」
「ありがと。でも泣いてないの、ごめん嘘なの」
「もー、なによ。びっくりしたじゃない」
「ふふっ、ありがと。心配してくれて。ナミ優しい、大好き」
「いちいちそんなの言わなくていいわ! それでウソップの行動の原因はなに?」

 彼女にサンジを探していることを伝えると、「ルフィも大声でサンジ君のこと探し回ってたわね……」と呆れていた。

「一体どこにいるのかしら」
「部屋全部探し回ったけどいなかったの。多分、避けられてるみたいで……」
「ハァ、仕方ないわね……」

 とっておきの方法があるわ、と自信満々にウインクするナミにどんな方法なのか期待の目を向ける。彼女は私に「泣き真似頼むわよ」と耳打ちした。

「避けられてるなんて渚可哀想」

 背中を撫でられながら「泣いたふりして」と小声で言われるので、こっそり目薬をさして手で顔を覆う。それはさっきウソップの作戦で失敗したんだけど……でもなんで小声で。まあいいや、彼女に合わせよう。

「うん、避けられるなんて思ってなくて……」
「もう泣かないの。サンジ君も何か理由があったんでしょ。そうじゃないと泣いてる渚を無視するなんてあり得ないわ、相当な理由がないとね」

 するとカタン、と音を立てて出てきたのはずっと探していたサンジだった。気まずそうな目とぱちりと目が合う。……え? 今キッチンから出てきた? ずっとここにいたってこと?

「……、ごめん」
「ルフィには見つかったって言っておくから、ちゃっちゃと仲直りしなさいよ」
「うん、ありがとナミ」

 ナミが部屋を出てからシンと気まずい空気が流れる。怒ってしまったのは私だし謝らないと。

「……サンジ、ごめ……え?」

 顔を上げた先にいると思っていたサンジは視界に映らず、目線を下に下げると彼は土下座していた。

「ごめん!! 渚ちゃんが怒るのは当然だ。許可なくあんな事して」
「顔上げて。その……別に嫌で怒って逃げたんじゃないの。突然だったからびっくりして……それに謝るのは私の方だよ。酷いこと言ってごめんねサンジ」
「いや……」
「でもどうしてあの時、キスしたの?」
「君の笑顔が愛おしくて好きで好きでたまらなくて気持ちが抑えられなくて……」

 止まらないサンジの口を手で塞いでストップをかける。

「分かった! ごめん、もういい!」

 直球過ぎて照れるどころか顔から火が出そうだ。ゆっくりと手を下ろすと、サンジの口元が緩んでいるのが見えた。

「私、ずっと探してたんだよ」
「うん。知ってる」
「お詫びにナミから貰ったみかんで美味しいデザート作って」
「お安い御用さ、プリンセス」

 サンジにみかんを渡して、私はカウンターチェアに腰を下ろした。彼がキッチンに立ち包丁を握ったのと同時にドアが大きく音を立てて開いた。

「サンジーー! ここにいたのか!!」
「ルフィ」
「ここにいたみたい。一緒に探してくれてありがとルフィ」

 ドタドタとキッチンに大きな足音で歩いてくるルフィ。いつもの笑顔ではなく、ムッとしている。彼はもう一度サンジの名前を呼んだ。

「渚のこと泣かせンな!」
「お、おう……」
「分かったな! 船長命令だ!」
「分かった」
「ならヨシ! ニッシッシ」

 ルフィは満足気にダイニングを出て行った。嵐のようにやってきて去って行くし表情はコロコロと変わる。そんな船長の行動に二人して暫く開いた口が塞がらなかった。

「心配させちゃったかな」
「みたいだな」

 もう一度彼は私に軽く謝罪をして、みかんのデザートを作り始めた。


********************


 皆が寝静まった夜、不寝番しているゾロを見つけて酒瓶とグラス二つを持って近づく。

「お兄さん、一緒にお酒はどうですか?」
「勝手に持ってきたらコックに怒られんぞ」
「私が買ってきたお酒だもん。いらないなら一人で飲むけど」
「いる」
「そうでしょう、これ絶対美味しいから飲まなきゃ勿体ないよ」
「へえ、そりゃ楽しみだ」

 彼の隣に腰を下ろしてグラスを渡し、お酒を注ぐ。月明かりに照らされながら乾杯して飲んだお酒は最高に美味しかった。ゾロも美味いと言ってゴクゴクと飲んでいた。

「ねえ、ゾロ」
「……」
「海から助けてくれた時、私にキスした?」

 顔を覗き込んで聞くと、彼は私から顔を逸らして飲んでいたお酒をブーと吐き出していた。折角のお酒が勿体ない。口元を拭ってこちらに向いたゾロと目が合う。

「……覚えてたのか」
「あの時ゾロだとは分からなかったけど、誰かにキスされたってことは覚えてる」
「悪かった、勝手に」
「ううん、人工呼吸だしね。助かったよ。……あ」
「なんだよ」
「私の唇柔らかかった?」
「お前なっ……!」
「もう一回したい?」
「……」
「なーんて、……ッ!?」

 突然後頭部に手を回されてグイっと引っ張られた。ゾロの胸筋に両手を置いて離れようと力を入れるが何の意味もなく距離は近くなる。キスされる手前でゾロの動きは止まった。

「していいなら遠慮なくすんぞ」
「だめ」

 ゾロの口元に人差し指を置くと、彼はムッと口を尖らせた。呆れながら私から離れる。

「お前、性格わりーぞ」
「かわいいの間違いでしょ?」
「……」
「否定しないんだ? ふーん? ふふっ」

 再びお酒を飲んで気分が上がる。それから段々と眠くなってきて、いつの間にか彼の上腕筋に抱き着いて寝ていた。