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「かわいいな、渚ちゃん」

 長い指でゆっくりと頬を撫でられ、びくりと身体が反応する。

「渚、こっち見ろ」

 肩を掴まれ強引に引っ張られる。

 サンジとゾロが両側から色っぽい顔をして迫ってくる。そのまま私に向かって口を寄せてきて……。


「ちょっとまってー!!」

 ガバリと身体を起こすと先程までの光景とは違い、私は砂浜の上にいた。なんだ、夢か。びっくりした。
 ……そうだ、私たちはジンベエがサニー号を探している間、小さな島で待つことになっていた。さっき上陸した島だと思っていたところは大きな生き物の背中だったらしい。その生物が海に潜る時に私たちは吹っ飛ばされたらしい。身体が疲れたのかいつの間にか寝てしまっていた。

「変な夢でも見たか?」

 後ろから声がして振り返ると、にやりと口角を上げたゾロがいた。一体誰のせいだと……。拳を構えると鼻で笑われてムッとする。大胸筋に拳を入れても何ともない顔をするので、そのままふにふにと筋肉の感触を楽しんだ。

「渚、目ェ閉じろ」
「え?」
「いいから。閉じろ」

 急に真剣な顔になったゾロに目を閉じるよう言われる。駄目だ、さっきの夢を思い出して恥ずかしくなってくる。それに海の中で私にキスしたのは誰なのか気になって仕方がない。

「ちょっと待って……」
「……」

 目を閉じない私に痺れを切らしたのかゾロは手で私の目を覆い、逆の手で肩に触れた。大げさに身体が跳ねる。

「もういいぞ」
「?」
「肩に虫がついてた。見たら騒ぐだろ」
「へ、あっ、むし……」
「ああ」

 かああああ、と顔が熱くなる。私は何という勘違いを。顔の熱を冷ますように両頬に手を当てながらゾロを見ると目が合った。優しい目で本当に私の事が好きなんじゃないかって思えてくる。

「ゾロって私のどこが好きなの?」
「何だよ突然。……ンなこと言えるか」
「分からなくて。自分で言うのもなんだけど私筋肉フェチで頭おかしいでしょ?」
「別にどこが、とかはねェ。渚には隣にいてほしいと思っただけだ」
「……」

 言うことが男前すぎて心臓がもたない。てっきり好きじゃないって否定されるかと思ってたのに肯定されて動揺する。

 ゾロは眠そうに欠伸をして、木に背中を預けて腰を下ろした。こっちはドキドキさせられっぱなしなのに何ともないような顔をして呑気な男だ。こちらの身にもなってほし……、あ。

「寝るなら膝枕しようか?」
「膝枕?」

 きっとゾロは恥ずかしがって断るから、強引に膝枕をすれば照れる顔が見れるかもしれない。

「ああ、頼む」

 それなのに素直に頷くなんて。もう照れている可愛い顔は見れないのかもしれない、と悲しくなった。しかし言ってしまったことは訂正できない。膝にゾロの頭を乗せてポンポンと軽く叩いた。ルフィやチョッパーとは違い、ゾロの頭はチクチクして太腿がくすぐったい。

「もう可愛いゾロは見れないんだね……」
「何言ってんだ」

 ウゥ、と泣き真似をしている私を無視してゾロは寝てしまった。悲しんでるのに無視するなんて本当に私の事好きなの? よく分からないや。と言うか寝るの早いな。頭を撫でたり頬をつついてみたりしても起きる様子はない。

「オーイ! 飯が出来たってよ。ってなんだなんだァ、今度はゾロが寝たのかァ?」
「ありがと、行くね」
「おう。仕方ねえ、ゾロはおれがスーパーに運んでやるぜ」

 フランキーは寝ているゾロを肩に乗せ、皆の方へと向かった。それにしてもこんな小さい島にあるものでご飯が作れるんだ。サンジは凄いな。

「うっめー!」
「ルフィ、食べすぎるなよ。いつジンベエが戻ってくるか分からねェんだからな。あっ、渚ちゃーん! 起きたんだねー! ご飯できてるよ」
「ごめんね、サンジ。私寝ちゃってて。ご飯作ってくれてありがと」
「良いんだ。色々あって疲れただろうからゆっくりしてくれ」
「それはサンジも同じでしょ」

 ご飯を皆に配り終えたサンジは私の隣に腰を下ろしたので、気になっていたことを聞いた。海から出た時に近くにいたのは彼だったから。

「サンジが海から助けてくれたんだよね? ありがと」
「え?」


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 いつもなら胸が高鳴る笑顔が、今は胸を締め付けた。

 全員が島から海に投げ出されたとき、溺れているロビンちゃんを救出し渚ちゃんを探した。彼女は泳ぎが得意だけど心配で声を掛けるも大丈夫だから先に行くように言われ、島を目指す。その言葉を鵜呑みにしてその後彼女が後ろで溺れていたのも知らずに。
 小さな島にたどり着きロビンちゃんを下ろし、先に島にいたナミさんの無事を確認する。他の奴らも無事だ。しかし後ろをついてきていると思っていた渚ちゃんがいないことに気づく。

 すぐに海に飛び込んで彼女を探せば、苦しそうに沈んでいく彼女を見つけた。そして、彼女にキスをしたアイツの姿も。こぽ、と口から空気が漏れた。先に彼女を助けたのはおれではなくゾロで、自分は何も出来なかった。


「海の中で人工呼吸してくれたよね」

 隣に座る彼女は自分を助けたのはおれだと誤解していた。黒い感情が渦巻き、自身の口は嘘を吐く。

「……、嫌じゃなかった?」
「うん、息がもたなかったから助かったよ」
「そっか」

 何言ってんだおれは。助けたのはおれじゃねェって否定しろ。
 彼女の隣は心地良いはずなのに、今は離れたくて……この場からいなくなりたくて飲み物を取りに行くと言って席を立った。不思議そうに彼女はおれの名前を呼んだが、綺麗な目と目が合わせられない。

 騒がしいところから離れ、木の下に屈み頭を抱えた。なんであんなこと言っちまったんだ。……でも嫌じゃないって言ってたな……って
浮かれてんじゃねえ! レディに嘘をついたなんておれはサイテーだ。あいつが助けたのを自分の手柄にしようとしているなんて。

「はー……」

 気を抜いて溜息を吐くと、じゃり、と近くで砂を踏む音が聞こえて思わず肩が上がる。振り向くと渚ちゃんが立っていて、ドキリと冷や汗が出た。彼女は心配した様子でおれの前まで来て両膝をついた。

「サンジ、大丈夫?」
「渚ちゃん? ど、どうしたんだい」
「体調悪いのかなって。なんか、つらそうだったから」
「……」

 レディの前でそんな酷い面してたのか。静かに息を吐いて彼女に頭を下げると「えっ」と頭の上で声がした。情けねェ姿を見せたとしても、渚ちゃんに嘘をついたままでいたくない。

「……ごめん。助けたの、おれじゃねェんだ」
「そうなの? てっきりサンジかと思った」
「渚ちゃんを抱えて海から出てきたのは……ゾロだ」

 一度嘘をついたおれを彼女はどう思うだろうか。優しい彼女の事だ、怒ることはなくとも内心幻滅しているかもしれない。
 しかし不安をかき消すかのように、突然あたたかい手が自分の頭の上に乗り左右に動く。なんで、おれは撫でられているのだろう。混乱する頭を上げて彼女の顔を見ると優しく笑っていて、その顔は何年も前に見た母親の顔に重なった。

「ありがと、サンジ」
「いや、おれは何も出来なかったから……」
「そんなことない。海ではロビンを背負っていたのに私を気遣ってくれたし、今も疲れているのにご飯を作ってくれた」
「それは当たり前のことで、」
「そんな優しいところがサンジの良いところだなって思うよ」

 おれの欲しい言葉をくれて、優しくて可愛くて芯が強くて、でもどこか抜けていて目が離せない。そんな彼女が好きで好きでたまらない。気持ちを抑えることが出来ず、彼女の柔らかそうな唇に自分の唇を押し付けた。

 驚きと困惑で見開かれた目。至近距離で見ても君は可愛くて……愛おしい。



 ドン、と胸を押されて現実に引き戻される。目の前にいる彼女は手で口を押さえておれの事をまっすぐ見ていた。多分渚ちゃんは……怒っている。

「なんでキス……したの」
「……ごめん」
「……ゾロが、キスしたから?」
「……」
「そんなとこまでゾロと張り合わなくていい」
「ちがっ、……いや、ごめん」

 何と言われようと、許可なくキスしたおれが悪い。抑えられなかった自分の行動に混乱して何も言えなかった。渚ちゃんは立ち上がり小走りで行ってしまった。


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「……」

 なんでサンジは突然キスなんて……。欲に満ちた目が怖くなって逃げてきてしまった。どうしよう、酷いこと言っちゃったかも。サンジ、悲しそうな顔してたな……。



 ご飯を食べたのか否か、ゾロは木の下でぐっすり寝ていた。近くに腰を下ろして、心地よい風を感じ目を閉じる。気持ちを落ち着かせよう、と思っていたら声がかかった。

「なんか用か」
「あ……うん。ゾロが助けてくれたんだよね、ありがと」

 起きていたのか今起きたのか分からないけど、ゾロは目を閉じながら私に話しかけた。そして眠そうに開いた目がこちらを向く。

「お前が溺れるなんて珍しいな」
「海に足を引っ張られたんだよね。何もいなかったはずなんだけど」
「確かに変な沈み方してたな」
「だよね」

 どうして私は海に引っ張られたのだろう。見えない何かがいたのか、何なのか。悪魔の実を食べた彼らと同じ金槌になってしまったのだろうか。でも悪魔の実は食べた覚えがないしなァ。

「あのまま死んじゃうかと思った」
「勝手に死ぬなよ」
「うん」

 考えても分からないし背伸びをして頭を切り替える。あとでサンジに謝らなきゃ。
 しばらくしてジンベエがこの島までサニー号を引っ張ってきてくれて、皆でサニー号に乗り込んだ。