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 ゾロが私のことを好き? いやいやそんな馬鹿な。だって筋肉ばっかり言ってる女だよ。自分でも変態だって分かってる。そんな女をゾロが好きになる? どうして? いつどこで?
 ゾロにドキドキしたことは何度かある。彼の筋肉は勿論、不器用な優しさが好きだ。でも年下だし恋愛対象に含めてはいけないと思っていたし今も思ってる。

「どうしよー……」
「なになに? 何かあったんでしょ!」
「ナミ!? ロビンまで!?」
「何かあったって顔に書いてあるわよ」
「ウフフフ、一体相手は誰かしら」

 面白そうにニヤニヤ笑いながら私を挟むように両隣の席に腰を下ろす二人。アクアリウムバーにいたのは私一人だけだと思っていたけど、いつの間にか二人が入ってきていたらしい。一人で悩んでても解決できそうにないし、ここは相談した方が良いかもしれない。

「ナミとロビンは、仲間の誰かに告白……されたことある?」
「「ないわ」」

 そういう目で見てないし、と付け足された。いざこざがあっても皆に迷惑がかかるしやっぱり……。

「以前も同じようなことを言ったけど、船内で恋愛してはいけないなんてそんな決まりはないわ。自分の気持ちに蓋をしてはだめよ」
「そうそう。……で、どっちに告白されたの?」
「告白されたわけじゃないんだけどね。意識しろと言われて、その……ゾロ、に」
「へえー、それで一体何に悩んでるのよ」
「今まで年下の男の子だと思ってたんだよ!? ちょっと揶揄ったら面白い反応してくれたから可愛いなとか思ってたの。最近は距離が近いからドキドキすることもあったけど。でも急に意識しろだなんて無理じゃない!?」
「そんな真っ赤な顔して話されてもねェ」
「私顔赤い!?」

 自分の頬を触ると熱を持っていて顔が赤いことを自覚した。

「フフ、渚って押しに弱いのかしら」
「そうかもね。あ、そうだ。前にゾロが女に囲まれてた時あったじゃない? あれ嫉妬してるのかと思ってたけど違うの?」

 ナミが言っているのは多分、女の人達にゾロが筋肉を触られていた時の話だろう。確かに嫉妬した。私は筋肉に触らせてもらえないのにあの人たちはズルい、と。

「あの時は筋肉を触りたかったからで。ゾロの筋肉は好き……だけど、ゾロのことを恋愛感情として好きなのか分からない」
「じゃあもし私やナミがゾロと至近距離で話していたらどう?」
「仲良いなーって思うよ」
「彼の筋肉を触っていたら?」
「……嫉妬する、かも」

 そう言うとナミとロビンは笑い出した。目に涙を溜めながら私の背中を叩いて。

「アハハ! アンタはゾロじゃなくてゾロの筋肉が好きってことが分かったわ。あー、本当面白い」
「彼には少し可哀想だけど」

 二人は笑いながらアクアリウムバーを後にした。結局ふりだしに戻った。……お酒でも飲もう。


 何杯か飲んだけど全然酔えなくて風に当たりに外に出たら、外はいつの間にか真っ暗だった。懐中電灯で照らしながら空を見上げると、星がよく見えて綺麗だ。芝生の上に寝転びながら星を見ているとドアの開く音が聞こえ、誰かが歩いてくる。

「渚ちゃん?」
「サンジ」
「そんなところにいたら身体が冷えちまう」
「大丈夫だよ。涼しいくらいだから」

 体を起こしてサンジの隣に立つ。煙草に火をつける彼に星を見てほしくて上を指差した。

「見て、今日は星がよく見えて綺麗だよ」
「うん」
「あっ、流れ星」

 夢中になって流れ星を目で追っていたら視線を感じて横を見ると、こちらを見ているサンジと目が合い驚いた。てっきり彼も星を見ているものだと思っていた。

「綺麗だ。ずっと見ていたいくらい」
「星は上だよ」
「星より渚ちゃんを見ていたくて」

 サンジは煙草を手に持ち、もう片方の手で私の髪をすくって唇を落とした。それはまるで愛しい人へする行動だ。

「サンジは……どこまで本気なの?」
「おれはずっと本気さ」
「うそ。だってサンジは女の子が大好きで、」
「レディは好きだよ。だけど渚ちゃんは特別なんだ。本気で落ちてほしいと思ってる」
「……っ」
「それとももう、落ちてくれてる?」

 へらりと笑うサンジはさっきまでの色気とは違い、少年のように可愛くて。……そのギャップはズルいと思う。恥ずかしくて目を逸らさずにはいられなかった。

「お、落ちて、ない……」
「じゃあこれからは本気で落としにいってもいい?」
「……、心臓がもたないからだめ」
「カワイイなァ」

 どうしよう、今のサンジはだめだ。くらくらする視界はさっき飲んだお酒のせいか、それとも甘い雰囲気に呑まれたせいか。足元がふらついて転びそうになった私の体をサンジは支えてくれた。そしてコツンと額を合わせて至近距離で私の目を見る。

「このまま奪いてェけど君の気持ちが大切だから」

 ゆっくりとサンジは私から離れていった。煙草の煙をふかし、ため息混じりに「おれだけを見てくれねェかな」と呟いてこの場を去って行った。


 ーーキス、されるかと思った。激しく心臓が鼓動し始め、膝から崩れ落ちる。いつもと違う彼はどう対応して良いのか分からない。

 顔を真っ赤にして女子部屋に入った私は、ナミとロビンに再び話を聞いてもらうことになるのだった。明日から二人とどう接したらいいの……。


********************


 翌日、意外にも二人はいつも通りだった。朝食では隣の席にゾロが座り、サンジの作ったスープの具材は全てハート形だった。そう、いつも通り……だけど意識すればする程いつもの光景が恥ずかしくなってくる。

 騒がしい朝食を終えて外の空気を吸いにダイニングを出た。告白されたわけではないから返事をするのは違う気がするし、いつも通りで良いのかな。



「島が見えたぞー!」

 ルフィの声が船全体に響き渡る。部屋から出てきたナミが「この辺りに島はないはずだけど……」と首を傾げていたが、上陸しルフィは飛んで行った。ジャングルで食糧確保をしたり、船旅で疲れた体を癒すために皆が船を降りる。
 海を泳いだり砂浜の上で寝たり、ジャングルに入って行ったり各々好きなように行動していた。私は砂浜にシートを敷いてはしゃぐ皆を眺めていた。

「どうぞレディ、ココナッツジュースです」
「ありがとサンジ。これ、この島で採ったもの?」
「ああ。この島は美味しそうな木の実が沢山ありそうだ」
「ふふっ、じゃあいっぱい取らなきゃだね」

 サンジとジュースを飲んでいると、砂で山を作っていたルフィとコーラを飲んでいたフランキーが海を見つめていた。

「サニー号ってやっぱいい船だよなー」
「そりゃそうだ。おれが造った船だからなァ!」

 なんで今? と思って二人の視線の先を見ると、遠くにサニー号が見えた。

「……ルフィ、フランキー。もしかしてサニー号、流されてない?」
「なにーー!?」
「アウ! サニー!!」

 ルフィが腕を伸ばすも、サニー号には届かずここにいる全員が慌てふためいていた。ナミがかけていたサングラスをずらし、真剣な顔で呟いた。

「おかしい……」
「ナミ?」
「この島、動いてるわ」
「えっ!?」

 彼女の一言で島の調査が始まった。サニー号へ戻るためにフランキーは急いで船を造り、それに必要な材料をルフィとサンジが集める。そして私はジャングルに入ったメンバーを探して、ナミはこの島は何なのかを調査する事になった。

 早く皆を探してこの事を伝えなくては、と騒がしい方へ走って行くとウソップ達がいて大声で呼びかける。
 しかしその瞬間、地面が大きく揺れ、身体が宙を舞った。下を向くと島は海に沈んでおり、大きな海に私達は落ちていった。

 大きな音と共に皆が海に落ち、何が起こったのか分からず混乱する。チョッパー達、能力者が溺れているのが見えて、助けたいのに波が荒くて海から顔を出すのが精いっぱいだ。

「渚、大丈夫か!?」

 チョッパーを抱えたゾロが荒れる波から顔を出した。こちらに泳いできてくれるけど、後ろではブルックを背負ったウソップがロビンを探している。

「私は大丈夫! 先にロビン達を……!」
「……すぐ助けに行く」

 泳ぎは得意な方だと思っていたけど、荒れる海では思うように泳げない。「見つけたぞ」とジンベエの声が聞こえて、ジンベエとサンジがルフィとロビンを背負って泳いでいるのが見えた。

「渚ちゃん、あっちの岸まで泳げる!?」
「うん……!」

 少し離れたところにいたサンジの指差す方向を見ると、岸にナミとフランキーがこちらに手を振っていた。良かった、皆生きてる。私もあそこまで泳いでいくだけ。


 しかし突然、海の底に引きずり込まれるように身体が重く沈んだ。吐いた空気と水を掻いて出来た空気が何処へともなく広がって消える。差し込む光に手を伸ばしても、私の身体はどんどんと重くなる。

 息苦しさが意識と共に薄れていく中、誰かが私の腕を引っ張って口から空気を送ってくれた。


********************


「生き、てる……」

 上半身を起こして見回すとみんな砂の上で横になっていて、無事だったことにホッと息を吐いた。

「渚ちゃん、大丈夫? どこか怪我していないかい?」
「ありがと、大丈夫」

 差し出された手を掴み、立ち上がる。ぼんやりした頭を回転させてサニー号のことを思い出しサンジに聞くと、ジンベエが海を泳いでサニー号を探しに行ったらしい。

 そういえばさっき、海の中で苦しかったけど誰かが腕を引っ張ってくれて空気を送ってくれたから楽になって……。

「……あれ?」
「ん? どうした?」

 もしかして海の中で私、誰かとキスした? 考え込む私に、サンジは首を傾げる。

「渚ちゃん?」
「あ、ごめん。なんでもない」

 誰だか分からないけど、きっと善意で人口呼吸してくれたんだ。でも起きた時に近くにいたってことは、サンジが……?