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朝起きると頭痛がした。ボーとする頭で昨日会ったことを思い出す。そういえば昨日はゾロとどっちが多く飲めるか勝負して……どっちが勝ったんだろう。
記憶があるようなないような。考えながら寝返りを打つと、目の前には鍛え上げられた素敵な胸筋。一気に目が覚めた。

「なんて素敵な胸筋。この胸筋はゾロだ」

ゾロはまだいびきをかいて寝ている。ルフィ達もまだ寝ているみたいだ。胸筋は鑑賞だけでこの間は我慢したけど、ちょっとだけ触ってみても良いだろうか。

「何をしているの?」
「ろろろロビン!?」

ロビンが手すりに肘をついて、二階からこちらを見下ろしている。思わず伸ばしていた手を引っ込めて、体を起こす。

「寝込みを襲うのはやめなさい」
「襲わないよ!」
「その口から出ているものは?」
「いっいつの間に……!?」

無意識に垂れていた涎を拭うと、ロビンは声を上げて笑い出した。彼女がこんなに笑っているのは初めて見る。

「ふふふ、貴女本当おかしな子ね」
「そうかな」

「もう朝かー?」
「……昨日ここで寝ちまったのか」

私達の声で目が覚めたのか、ウソップとサンジが体を起こした。まだ完全に目が覚めていないのかボーっとしている二人は可愛い。

「おはよう二人とも」
「おう、もう起きてたのか」
「渚ちゃんおはよう。ロビンちゃんもおはよう!」
「おはよう」
「朝から二人の顔が見れるなんておれはなーんて幸せ者なんだァ!」
「オイオイ、その量まさか二人で?」

ウソップがぎょっとした顔で私の周りを見るので何かと思えば、積みあがった空のコップがたくさんあった。私とゾロが昨日空にしたものだ。

「ごめん、遠慮もせずに飲みすぎちゃって」
「いやすげェな……」

引かれている気がするけど、えへへと笑ってごまかしておいた。サンジが朝ご飯を作りにキッチンへ向かうと言うので、あとを追いかけた。

「渚ちゃん? どうした?」
「頭痛くて。水貰おうかなと」
「おれが用意するよ」

そのままダイニングに入りキッチン近くのカウンターの椅子に腰かける。サンジはお待たせ、と水の入ったコップをテーブルに置いてくれた。
目の前にある袖をまくって見える腕の筋肉にうっとりする。……あァ、触りたいなァ。

「……渚ちゃん?」
「っ!?」

完全に一人の世界に入ってしまっていた。声をかけられたことに驚き、水の入ったコップを倒してしまう。謝りながら立ち上がり拭くものを探すが、先にサンジがテーブルを拭いた。どうしよう、せっかく用意してくれたのに怒っているだろうか。

「ごめんなさい」
「いや急に声をかけたからビックリさせてしまったかな。ボーとしてたから。頭そんなに痛むのかい?」
「頭は痛むけどそうではなく、考え事をしてました。すみません」
「いや、良いんだ。新しい水をどうぞ、プリンセス」

置かれたコップをこぼさないように両手で持ち、一気に飲み干す。久しぶりにあんなに飲んだから二日酔いだな。
目の前で調理するサンジを見て、コックってかっこいいよなァって思う。手際が良くて見ていて飽きない。

「見ていてもつまらないだろ?」
「ううん、全く。楽しい」
「なら良いんだが」

料理している姿も素敵だし、腕まくりして見える上腕筋がかっこいい。

「えっ、そうかな?」
「……? あっ! ごめん、声出てた!?」
「あァ」
「失礼しました」
「いや、…………えっと、さわる?」
「!!」
「あァごめん! 変態みたいだなおれ。すまねェ忘れてくれ」
「触りたい! です! あと変態なのはサンジじゃなくて私だから……」

本当に良いのかもう一度確かめて彼は首を縦に振ったので、じりじりとサンジに近づく。いつもみたいに目をハートにしてテンションが高い彼ではなく、今みたいに顔を赤らめて困った顔をしている彼は可愛くて胸が高鳴る。

キッチンに回って彼の正面に立つと、両腕を差し出された。鍛えられてふっくらした筋肉を触って良いだなんて贅沢すぎる。ぴとり。ゆっくりと上腕筋に触れて撫でるように触った。白くて滑らかな肌に驚きつつ、筋肉の感触にうっとりする。

すると突然ガチャリとドアが開いた。入ってきたのはチョッパーで、ひどく驚いた顔をしている。何をそんなに驚いているのだろうか。

「どうした? チョッパー」
「お、おおお前ら……!」
「ごめん、私が邪魔してたから朝食まだ出来てないの」
「渚ちゃんは邪魔なんてしてないさ。チョッパー、朝食ならもうすぐ出来るぜ」
「おおおおっお前ら朝っぱらから、抱き合って何してんだよー!」

ウオォォォ! と叫びながら飛び出していった。チョッパーから見て私達は抱き合って見えたようだ。チョッパーの反応にサンジと顔を見合わせて笑った。

「チョッパーのところ行ってくるね。触らせてくれてありがと、サンジ」
「あァ、満足してもらえたかな」
「とっても満足!」
「そりゃ良かった」

チョッパーの後を追いかけようと外に出ると寝ているルフィ達しかおらず、チョッパーの姿を探す。2階に居るのだろうかと上を見てもロビンの姿しかなかった。上を向いて歩いていた為、足元にある何かに気づかず転んでしまった。

「「いてて……」」

額を擦りながら、何に躓いたのか確認するとチョッパーだった。全然見えてなかった。

「ごめっ「今頭打っただろ! 診せてみろ」」

小さな手で私の前髪をかき上げて額を見る。あまりの真剣な顔に圧倒される。ちょっと待ってろ、と小さな歩幅で走っていき、すぐに救急箱を持って戻ってきた。私の額に消毒をして薬を塗って大きな絆創膏を貼った。

「これで良し。診たところ額が少し赤くなってるだけだな。薬を塗ったから大丈夫だ」
「ありがと。あ、あの、チョッパー……」
「なんだ?」
「さっきの」
「!! おおおおおれは何も見てないぞ! サンジと抱き合ってるとこなんて!」
「誤解だよ! 私、サンジの上腕筋触らせてもらってただけで決して抱き合っていた訳ではないの!」
「え? あ、そうなのか?」

コテンと首を傾げるチョッパーに可愛いなと思いながら、私は首を縦に振った。びっくりしたぞコノヤローと言われたのでとりあえず謝っておいた。額に大きな絆創膏をつけて戻ったら、起きてきた皆に笑われた。

皆揃って朝ご飯を食べるが、昨晩は騒ぎすぎてなのか飲みすぎてなのかまだ眠そうな人が多い。朝食を終えたら昨日の片づけをしなければならないな、と考えながら隣に座っていたゾロを見る。

「昨日の勝負って私が勝ったのかな?」
「あ? おれだろ」
「私が寝たとこ見た?」
「……いや見てねェな」
「私もあんまり覚えてないんだよね。また今度勝負しよ」
「あァ、次もおれが勝つ」
「次は、の間違いだよ。私が勝ったら腹筋触らせてね」
「勝ったらな」

隠れてガッツポーズをする。筋肉がかかった勝負、負ける気がしない。ナミからは「ゾロと張り合うくらい飲むなんてすごいじゃない」と褒められた。


それから船の掃除をしてひと段落ついた時、花の水やりをしていたロビンに相談を持ち掛けた。

「次の島でアルバイトしたいなって思ってるの」
「貴女にお金がないことなんて別に誰も気にしていないわよ」
「でも私、一文無しだし特にこれといった才能もないし戦えないよ」
「知ってるわ」
「私、ここにいて大丈夫かな」
「大丈夫なんじゃない?」
「そっか……」

淡々と話すロビンの本当の気持ちはわからない。私に興味がないのか、本当にそう思っているのか、気を遣ってくれて言ってくれたのか。どれにせよ、申し訳ない気持ちは変わらず、相談に乗ってくれたお礼を言って立ち去ろうとしたら彼女はまた口を開いた。

「私は此処にいてほしいわ」
「ロビン……!!」

彼女のもとへ走って抱き着いた。それから暫く彼女の隣で一緒にお話をしていた。今までの冒険の事を教えてもらったり、前から気になっていた皆の年齢や好きなもの嫌いなものを教えてもらったりしてあっという間に時間が過ぎた。皆結構若くて驚いた。ほとんど私より年下じゃないか。通りで皆肌がピチピチなわけだ。

「なになにィー? 二人で仲良くおしゃべり? 私も混ぜてよね」
「ナミ!」
「うふふ」

ナミも加わり三人で盛り上がっているとそれに気づいたサンジがジュースを用意してくれて、カフェで女子会している気分になった。

「ナミは世界地図をかくことが夢なんだ。皆夢があるんだなァ」
「渚は何かないの?」
「そうだなー……あ! ムキムキに鍛え上げられた胸筋に顔を埋めたい」
「変わった夢ね」
「ちょうどあそこにいるじゃない。筋トレ馬鹿が」
「ハァ!? おいこらナミ! ふざけんじゃねェぞ!」

ちょうど良いところに通りかかったゾロ。私たちの会話が聞こえていたようでばっちり目が合ってしまい、息をのんだ。私の言葉を待っているのか、彼は足を止めた。

「ゾロ……良い?」
「っ、却下だ!」

可愛くお願いしてみたつもりだったけど効果はなかったようで、大きな足音を立てて行ってしまった。怒っただろうか。

「残念」
「もう一押しでいけそうじゃない?」
「私達がいるから恥ずかしかったのかもしれないわね」
「そうかな。よーし、筋トレ見学させてもらおう!」

二人は何が良いのかわからないとでも言いたげな顔をしていたけど、行ってらっしゃいと手を振ってくれた。ぷんすかしているゾロに後ろから声をかける。

「ゾロ、お願いがあるんだけど」
「さっきのやつは却下だ」
「筋トレしてるところを見てたいの」
「は? 別に良いがおもしれェもんでもねーぞ」
「良いの!? やったー! 上の部屋に行ってみたかったんだよね」

じゃあ行こー! とノリノリで上の部屋を指さすと、ちょっと待てと止められた。真剣な顔をしている。

「え、どうしたの?」
「部屋に二人だぞ」
「ゾロってそんなこと気にするタイプだったんだ」
「ったりめーだ。……女だって自覚しろよ」
「してるよ。もしかして意識してくれてたり?」

ゾロの後ろがちょうど平らな面だったので、彼の脇の下に勢いよく手をついた。突然のことで驚いているゾロの顔を覗き込むようにして口を開く。

「手、出ださないでよね?」
「誰が出すか! つーかこれ、普通逆だろ!」

怒っているのか照れているのかゾロは顔を真っ赤にして、上の部屋に行くロープに足をかけた。
身長差が20センチはあるから顔の横で壁ドン出来なかったけど、驚いている顔が見れたので満足だ。

「どうやってあそこまで行けば良いの?」
「そりゃ登って、だろ」
「一緒に連れて行ってほしいなー」
「自分で登れねェならあの部屋は諦めるこったな」
「ルフィやサンジだったらきっとやってくれるだろうなァ」
「……何でアイツらが出てくんだよ」
「ゾロは私を背負って上には行けないんだもんね。仕方ない、残念だけど諦める」
「ふざけんな! 余裕だ!」

ガシリと首根っこを掴まれ、ロープを登っていく。おんぶしてくれるかと期待したのに雑な扱いで悲しくなった。

「そんな動物みたいに持たなくても」
「良いなこの持ち方」
「筋肉さわれないじゃん……。せめて担いでほしい」
「我儘言うな。つーか触ろうとすんな」
「別の持たれ方がいいー……」

部屋に入るとジムは思ったより広い部屋で驚いた。筋トレ用具の他に望遠鏡もあったので、天体観測も出来るようだ。

壁側にあるベンチに腰を下ろして、ゾロを見守る。重そうなダンベルを持つと膨らむ上腕二頭筋を見て両手を合わせた。

「ここが天国か。あー、しあわせ」
「男のトレーニングなんざ見て何が良いのか分からねェ」
「筋トレ頑張って、ゾロ」
「……、おう」

それからずっとゾロはトレーニングをしていて、その姿を眺めていた。腕立て伏せをしていた彼は、私の存在を思い出したのか不意に目が合う。

「見てるだけで暇だろ。上乗れ」
「良いの!? 夢みたいっ……!」

ゾロの元へ走っていって、腰辺りに座るとゆっくりと体が上下する。思わずうわァい!と声を上げると錘にもなんねェなと呟いていた。上下するたびに声を上げていたら気が散ると注意された。それにしても広い背中だ。僧帽筋も広背筋もしっかり鍛えあげられていて、触りたいなと思って手を伸ばすけど、体が上下してさわれない。触ることは諦めて、腰のあたりをペチペチと叩いた。

「よーし! あと3000回追加ー!」
「鬼か」

この後本当に3000回やってくれて、ゾロの体に乗っているだけの私の方が疲れてしまった。
トレーニング後の筋肉は一番良い状態に仕上がっていて、汗が滴る姿はとても魅力的で目が逸らせない。

「……い、ぉい」
「……」
「おい、渚」
「っ! な、なに?」
「ボーッとしやがって。下りるぞ」

また自分の世界に入ってしまっていた。気を付けないと。
しかし貴重な体験をして幸せだった。お金を払わないといけない経験だったな。お金ないけど。

上るときと同じ持ち方をされて、下に降りた。持ち方は変えてくれないらしい。今度から自分で登れるように頑張ろうと決めた。次からも筋トレ見たいし、天体観測もしたい。

「ゾロ」
「何だ」
「初めて名前呼んでくれたね」
「……別に名前ぐれェ呼ぶだろ」
「今日は初めてゾロの筋トレ見れてあと参加できて、初めて名前呼ばれたし、ゾロとの初めて記念だ。ナミとロビンに初体験してきたって言ってこよっと!」
「何が初体験だ! ややこしい言い方すんな! おいコラ待て!」

逃げるようにして二階へと走ったらゾロが追いかけてきて、暫く鬼ごっこをしていた。彼の身体能力に敵うはずもなく捕まり、誤解を招く言い方はするなと叱られてしまった。