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 ある島で倒れている男性を見つけて手当てをした。気がついた男は私の手を掴んで「お礼をさせてほしい」と言う。そして連れてこられた場所は、海軍基地だった。


ーーってそんなことある!?


 皆に黙って男性について行ったら敵地でしたーって、何で連絡入れなかったんだろう私。
 いやでも一人は危ないからってゾロと一緒に島を回ってたけど、いつの間にか逸れちゃって……。

 私の前を歩く男は海軍の制服は着ていないけど恐らく海兵。彼は廊下を歩きながら後ろを振り向いた。

「本当はおしゃれなカフェとかでお礼出来たら良かったんすけど、いま金欠で。あ、でもうちの食堂めっちゃ美味いんすよ。ぜひ食べていってください」
「ありがとうございます」

 海軍基地に入る時に一度断ったらどうしてもって言われたからついてきてしまったけど、ここに長居するのはまずい。私がルフィ達と一緒にいることは知られていないけど、もしもバレてしまったら捕まっちゃうのかな。ご飯を頂いたらすぐにここから出よう。

 食堂に案内されて椅子に座ったら、目の前に定食が出された。ホクホクのご飯が美味しそうでお腹がグゥと鳴る。
 彼にお礼を言って箸を手にとる。味噌汁も鯖の味噌煮もおふくろの味って感じがして身体が温まった。今度サンジにも作ってもらおうかなァなんて考えていたら、目の前の彼が感想を待っていそうだったので、美味しいことを伝えると嬉しそうにしていた。

「いつもは自炊っすか?」
「いえ、コックの方がいて」
「マジすか! お嬢様だったんすね。もしかして医者の方すか?」
「いえ、勉強中で」

 どうしよう。話してたらボロが出そうで怖い。

「もしよかったらうちで働きませんか? 医療班が人手不足で」

 まさかの海軍への勧誘。返答に困っていると、ドッカーーーン! と爆発音がした。海兵達が音の方へ走っていき、目の前の彼も席を立つ。ここで待っているよう言われたけど、裏の出入り口を探しに向かった。


 騒がしい方から離れて裏口だろうと思われる扉を開けようとしたら、勝手に扉が開いた。目の前にはよく知っている大胸筋。

「ゾロ!」
「!! お前こんなとこにいたのか」
「何でここに? 海軍基地だよここ! 早く逃げて」
「知ってて全員で乗り込んだ」
「なんで!?」

 ゾロの話によると、私のビブルカードが海軍基地を示していたから海軍に捕まったのだと思い、皆で乗り込んできたらしい。でも彼一人でいるってことは……。

「ゾロ、また逸れたんでしょ」
「……あいつらが逸れただけだ」
「さっきも勝手に何処か行っちゃって。次からリードつけるからね!」
「いるか!」

 ゾロの手を引っ張りながら、恐らくルフィ達がいるであろう騒がしい方へと向かう。しかし途中で海兵に見つかってしまった。

「下がってろ」
「うん」

 手をグイッと引っ張られ、ゾロの後ろに立つ。目の前の大きな僧帽筋と広背筋にうっとりしてしまう。彼は次々に海兵を倒して、前に進んでいく。そして右に曲がりまた右に曲がり。途中から元の道に戻ってしまいそうだったので、再び手を掴んだ。

「こっちだよ。ほんっと方向音痴なんだから」
「おれは方向音痴じゃねェ」
「じゃあおバカさんで良いよ、行こ」
「……」

 彼の動きが止まった。どうしたの、と聞いても反応がない。もう一度おバカさんと言うとビクリと肩が上がる。バカに反応したの? もしかして怒ってるとか?

「ゾロのバカ?」
「……」

 何故か彼はバカと言われると様子がおかしくなるようだ。踵を上げ、彼の肩に手を乗せて耳元で囁くと、勢いよく私から離れるゾロ。
 理由は分からないけど面白くて口元が緩む。彼に近づいて顔を覗き込んだ。

「ええー? どうしたのー? おバカなゾロくん、可愛いねェ?」
「……うっせ、行くぞ」
「あ、喋った」

 ゾロは私の顔を大きな手で覆い隠した。視界が真っ暗で彼がどんな表情をしているのか分からない。でも何となく、照れてる……ような気がする。

「なんで!?」

 疑問を抱きながらゾロと一緒にルフィ達の元へ向かった。


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「渚はどこだーーーー!」

 一方渚を探しに海軍基地に乗り込んだ麦わらの一味は、次々に海兵を倒していた。しかし麦わらの言う"渚"に海兵達は心当たりがなかった。

 半数以上の海兵が倒された時、麦わらを呼ぶ女が現れた。その声にこの場にいる全員が反応し目を向ける。

 そして海兵達は認識した。あの女が麦わらが探していた"渚"なのだと。

 しかしそれだけではなかった。彼女の手には一枚の紙。それは海軍にとって重要書類だった。何故女があの紙を持っているのか、海軍基地に入り込んだスパイだったのか、と海軍は騒ついた。

「迎えに来てくれてありがとー! でも私捕まってないの!」
「そうだったのか。じゃあ戻んぞ!」

 海軍が麦わらの一味を見逃すわけもなく、海軍は攻撃をやめなかった。それに対抗し麦わらも腕を伸ばす。

「ヨシッ! 全員倒しとくか」
「この数ならおれだけで十分だ」

 腕を伸ばす麦わらと剣を構える海賊狩り。他の仲間は二人いれば大丈夫だろうと船に帰っていく。戦闘態勢の二人を止めたのは渚という女だった。

「ダメだよ、二人とも。私何もされてないし、むしろご飯ご馳走になったの」
「なにー!? 飯食ってきたのか!? ズリィ!」
「お前何しに行ったんだよ」

 女は彼らを止め、船に戻るよう伝えた。そして女は海兵に重要書類を渡し、仲間達の後を追っていく。その光景に海兵は目を丸くさせた。


 麦わら達に合流するまでの間、海賊狩りに倒された海兵から落ちた書類を偶然拾った彼女は、別の海兵にその紙を渡そうと持っていただけであった。

 しかしそんな事を知らない海兵達はある答えに辿り着いた。「もしかしてあの女は麦わらの一味を裏で取り仕切っているのでは」と。

 麦わらの一味が去った後、海兵達は大慌てで本部に連絡を入れ、アレを作成した。


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 翌日、サニー号にて。ローの電伝虫が鳴り、偶然近くにいたルフィが取りに行った。

「もしもし! おれはモンキー・D・ルフィ! 海賊王になる男だ」
「んな事はどうでもいい。麦わら屋、手配書を見たか」
「手配書? おれの懸賞金が上がったのか!?」
「馬鹿野郎! お前じゃねえ!」
「おれじゃねェのか。ンじゃ、この中に強い奴倒したやついるかー? 正直に手ェ挙げろー」

 この場にいる全員が首を横に振る。「ちげェ!」と電伝虫から出るローの声が船上に響いた。

「渚の手配書が世界中に出回っているんだ!」
「へ、」

 全員の視線が私に集まる。え、私の? どうして。
 ちょうど上から新聞を落ちてきて、その中の手配書が芝生の上にヒラリと落ちる。


 麦わらの一味の黒幕!? 渚
 懸賞金1000万ベリー


「いっ、いっせんまん……の手配書?」

 周りにいる皆が驚く中、信じられなくて膝から崩れ落ちた。

「攫われたらどうするんだ。クソッ、この手配書可愛すぎるだろ……! とりあえず渚をおれに預け……ガチャ」
「スッゲー! 手配書じゃねえか! 良かったな渚!」
「手配書って良いこと……ではないよね!?」

 電伝虫を切り、目を輝かせたルフィ。海賊は懸賞金が高いほど強い証拠だと喜ぶらしいけど、私は嬉しいと言えるはずもなく……。

 一方で私の手配書を持ってプルプル震えるチョッパーは、可愛い声で叫んでいた。

「なんでだー! 何でおれより渚の方が懸賞金高いんだ!?」
「渚の方が危険だと認識されちゃったようね。でも黒幕かどうか海軍側も定かではないみたい。"!?"がついてるもの」
「私、何もしてないよね!? それに戦えないのに……」

 これから私は海軍や懸賞金狙いの人達に狙われたりするってことだよね。
 どうしようと頭を抱えてると、大きな笑い声を上げるルフィに背中をバンバンと叩かれる。力が強くて痛い。ああ、涙も出てきた。

「なったもんはしょうがねェ。でも大丈夫だ。渚はおれ達の仲間だから。なっ、ゾロ」
「おう。ずっとこの船に乗ってろ」

 ずっと船に? 以前ルフィには一生ついて行くって言ったけど……。

「ウフフフ、遂に賞金首になってしまったわね」
「もう一般人には戻れませんねェ、ヨホホホホ」
「じゃあ私、海賊になったってこと?」

 私の問いに「ええ」と頷くロビン。もし私が狙われたら一瞬で死んじゃう。どうしよう。もう一人で行動出来ない。

「かわいそうにな、同情するぜ」
「可愛く撮れてるじゃない。良かったわね」
「そういえばいつの間に撮られたんだろう……」

 肩をポンポンとウソップとナミに叩かれる。そこへサンジが上から飛んできた。

「渚ちゅわんはおれが守るからねェ! クゥー! その潤んだ瞳に見つめられると溶けてしまいそうだー!」

 思わず右に避けるとサンジは芝生に顔から激突していた。痛そうで可哀想だったので、頭を撫でておいたら喜んでいた。

「今まで海軍の奴らにバレてなかったってのがビックリだぜ。これでおめェも海賊の仲間入りってわけだ」
「ワハハ! 流石わしらの仲間じゃ。非戦闘員にも懸賞金がつくとは!」

 フランキーとジンベエは私の手配書を見ながら笑っていた。……みんな、何故か嬉しそう。

「渚の手配書が出来たことだし、今日は宴だー!」

 おー! と皆の声が響く。なんでなんで!?

 手配書なんて出来たら困るんだけど!? ……でも麦わらの一味に私が加わった事が世界中に知れ渡ったんだって思ったら嬉しい……のかな。


 トリップしてから数ヶ月、ルフィが私を見つけてくれてここに置いてくれて、麦わらの一味と楽しい時間を沢山過ごせた。沢山の人と出会った。これからもそんな時間が過ごせると良いな。


 自分の手配書の顔を見ながら思う。私って皆の前だとこんなに笑っているんだ。
 手配書を芝生の上に置いて、宴の準備をする皆の元へ歩く。そして潮風の匂いを感じながら大きく息を吸った。


「筋肉鑑賞しながらお酒飲みたいので、男性陣は上半身裸でお願いしまーす!」