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「売られた喧嘩の仕返しだ。付き合え」と、またもやキッドに攫われた。もう二度と会わないと思って暴言を吐いてわかれたのに、まさかまた会うなんて。

 一度ルフィに捕まったけど、売ってしまった喧嘩を今日一日で許してくれるならと思って、付き合うことを了承したらルフィは不服そうな顔をして「絶対今日中に帰ってこいよ」と船長命令を下し去っていった。

「じゃあ酒場でも案内してもらうか」
「こっちです」

 酒場がある方向を指さすと、キッドはズカズカと歩いて行った。何だ、それだけで良いんだ。案内してすぐ皆の元へ帰ろう、なんて思っていたのが数十分前。ハァ、と大きな溜息が漏れる。

「おい、酌」
「はーい」

 まさかお酌をさせられるとは。お金持ってそうだしお酌してくれる女の人を探せば良いのに。

「テメェも飲め」
「昨日飲んだので今日は遠慮します」
「あ?」
「一言で圧かけてくるのやめてもらえます?」

 仕方ない。飲めと言うんだから飲んであげよう。コップに入っていた酒を一気に飲むと、驚いた顔をされた。

「へえ、飲めんじゃねェか」
「お酒好きなので」
「じゃあもっと飲めよ」
「今日は一杯だけです」

 キッドは舌打ちをした後、つまんねーなと呟いていた。つまらなくて結構ですと言おうとしたけど、また言い合いになるのも嫌だからやめておいた。

 一杯飲んだらもう一杯欲しくなったので、お酒を注文して料理をつまむ。隣を見るとやっぱり良い筋肉。性格がこうじゃなければなァ。小さく溜息を吐くとオイと上から声が降ってきた。

「ろくでもねェこと考えてんだろ」
「どうでしょう」

 お待たせしました、と店員が追加のお酒を運んできて、それを飲もうとしたら腕を掴まれた。キッドの顔を見ると眉を顰めながら私の酒を見つめている。

「飲むな」
「どうして?」
「酒に変なモン入れてた」
「お酒じゃないの?」
「とりあえず飲むのやめろっつってんだ」
「分かった」

 キッドは立ち上がり、バーテンダーの胸ぐらを掴みに行った。
 どうやらキッドに恨みのある海賊がバーテンダーに変装していたらしい。この中に多分毒か何かを入れたんだろう。それに気づくキッドはすごい。すぐ勝負に持ちかける短気な人かと思ってたけど、観察力が鋭い人だったんだ。

「オイ。飲み直すぞ」

 声を掛けられ振り返るとボロボロになった海賊が店の端で倒れていた。あれは放置で良いのかな。彼は気にせずテーブルにお金を置いて店を出たのでついて行く。

「ありがと。助けてくれて……?」
「アレぐれェ気付かねえと死ぬぞ。トラファルガーも麦わらもお前の何が良いんだ?」
「もう、人が折角見直してたのに今の発言で好感度ガタ落ち」
「アホっぽいってことしかわかんねェな」
「いいよ、分からなくて。私の魅力は、私が好きになった人だけが分かってれば良いから」
「ハッ、言うじゃねェか」

 キッドは馬鹿にしたように鼻で笑い、何を思ったのか私の肩に手を回した。彼が良い筋肉でなければ突き飛ばしているところだ。クッ、なんて罪な筋肉。

「うちのレディをこれ以上連れ回すのはやめてもらおうか」
「あ?」

 後ろから声がして振り向いてもキッドの身体が大きくて後ろが見えないけど、誰なのかは声で分かった。

「トラファルガーといい麦わらといい、今度はテメェか。コイツは厄介な女だな」
「それだけ魅力的なレディなんだよ。魅力が分からないテメェがこれ以上レディを連れ回すんじゃねェ。渚ちゃん、帰ろうか」
「うん!」

 元気に返事したけどどうしよう、めちゃくちゃ喧嘩になりそうな予感がする。無意味な争いは避けたい。キッドの腕をペシペシと叩いて目が合ったところで口を開く。

「助けてくれてありがと。じゃあね」
「誰が行って良いっつったよ」
「だって私といても楽しくないでしょ? それとも楽しいから一緒にいてくれたの?」
「ハァ!? テメェはおれに貸しがあんだろ」
「ここまで道案内したしお酌もしたから借りは返せたよね! 助けてくれたお礼も言ったし。……それとも魅力的な私ともっと一緒にいたい?」

 彼の上腕筋を指でスゥーと撫でながら目をぱちぱちさせれば、キッドはふざけんなと怒りながら私の肩に回していた手を解放した。

「迎えに来てくれてありがとサンジ。行こ」
「はーい! 渚ちゅわーん!」

 戦闘態勢になっている二人の間に入り、サンジの腕を掴んで引っ張った。声を掛けたらいつものサンジに戻ったけど、彼が怒ると圧がすごいというか怖すぎる。あんまり怒らせないようにしよ。

 キッドとわかれてサンジと並んで歩く。何故か彼はこちらの様子を伺っているような気がする。

「サンジ、どうしたの?」
「えっ!?」
「何か聞きたいことでもあるのかなって」
「ああ、えっと……。昨日、アイツ……ゾロと宿に行っただろ? それで……いや、こんなことレディに聞くのは間違ってるな。何でもねえ!」
「私酔っちゃってて全然覚えてないんだけどゾロ、宿まで送ってくれてゾロは別の部屋に泊まったみたい」
「そっか。それなら良かった」
「ふふっ、心配してくれたの? ほんとサンジは優しいね」
「いや……、レディを心配するのは当然さ」

 さあお手を、とサンジは私の方へ手を差し出したけど、手を繋いで帰るのは気恥ずかしいのでお礼だけ言っておいた。
 そういえばどうしてここに来てくれたんだろう。さっきサニー号にサンジはいなかったけど。偶然通りかかったのだろうか。

「どうして迎えに来てくれたの?」
「船長命令でさ」
「ルフィが? でも今日中に帰ってこいって言われたよ?」
「渚ちゃんに断られたのがこたえたみたいだぜ」
「えっ」
「サニー号に戻った時、不機嫌丸出しのルフィがいて事情を聞いたんだよ。そしたらナミさんが教えてくれてさ。代わりにおれが迎えにきたんだ」

 確かに不服そうな顔はしてたけど。ルフィ、怒ってるのかな。もう帰ってくんなとか言われたらどうしよう。戻ったらとりあえず謝ろう。


 サニー号に戻ると船首に不機嫌丸出しのルフィが座っていた。ただいま、と言いながら船に乗ると、ナミが駆け寄ってきて私の体をペタペタと触った。

「何かされてない!? 大丈夫よね!?」
「うん、大丈夫だよ。むしろ助けてもらったくらい」

 先程までの事を話すと彼女はホッと胸を撫で下ろしていた。サニー号にはナミの他にルフィとゾロがいた。

「ルフィ! ただいまー!」
「おう」

 船首に向かって声を掛ければ、ルフィは腕を伸ばして私の前に下りた。

「さっきはごめんね。心配してくれてありがと」
「前に、一生ついてくるっつったろ」
「うん、言ったよ?」
「「ハァ!?」」

 サンジとゾロが声を上げた。ルフィはやっぱりさっきのことで怒ってるのかな。もしかして拗ねてるのかもしれない。そうだとしたら可愛いけど。

「じゃあ他の船の奴んとこに行くな!」
「分かった! ごめん!」
「ちょ、ちょっと待てルフィ。一生って……一生!?」
「おう。渚は仲間だ。下ろす気はねェ!」
「いやそれはそうだけどな!?」
「ぜってェコイツ意味分かって言ってねェぞ」
「渚はおれ達の仲間だ!」
「うん! 仲間!」

 船長の言葉はずしりと重くて、でもそれが嬉しくて胸を締め付けられる。

「渚、次は冬島の近くを通るからコートを買ってた方が良いわ。行きましょ」
「一緒に来てくれるの!? 嬉しい」
「んナミすわーん! おれも行ってもいいかーい!?」
「荷物持ちは必要だけど、今日は私が渚を独占させてもらうからダメよ」
「ズッキューン! ナミさんかわいいー! 二人とも気をつけてねー!」


 最近の流行りの服を教えてもらいながら、冬服を選びにナミと一緒に街に出た。マフラーと手袋も買ってた方が良いって言われたから買ったけど、この世界の冬ってどのくらい寒いんだろう。


「おうおう姉ちゃん達、おれ達と一緒に飲まねえか?」

 紙袋を両手に持って街を歩いていると、複数の男達に声を掛けられる。隣にいたナミは大きく溜息を吐く。

「結構よ」
「逆らわない方が良いぜ? おれには5000万ベリーの懸賞金がかけられてんだ」
「私より下じゃない」
「何だと? じゃあこっちの女は?」
「ッ!?」

 後ろから腕を回される。どうしよう、人質に取られてしまった。心拍数が上がる。私は何をしたら良い、どうしたら足手纏いにならない?

「動くとこっちの姉ちゃんに何するか分かんねェぜ?」
「ナミ……ごめん」
「大丈夫。すぐ助けるから」

 ナミが天候棒を構えて口角を上げた。男達はナミを囲むが、彼女はあっという間に男達を倒していった。私に腕を回していた男もナミが発生させた雷によって感電して気を失った。すごい、やっぱりナミも強い。

「ナミ、ありがと。かっこよかった」
「あったりまえよ。……っ、渚危ない!」

 後ろから男が鉄パイプを振り下ろしてきていたのに気付かず、私を庇ったナミが首を殴られて気を失って倒れた。

「ナミ!? ナミ!!」
「よくもやってくれたなァ。お前らただじゃおかねェ」

 再び振り上げられた鉄パイプからナミを守るように、彼女に覆いかぶさる。ーーしかし数秒経っても痛みはやって来ず、目を開けるとゴーグル付きのシルクハットを被った青年が鉄パイプを受け止めていた。

「ちょっとやり過ぎなんじゃねェか?」
「あ? 誰だテメェ」
「アンタ、怪我はないか?」
「は、はい。でも……」
「そうだな。そいつの手当てをしないとな」
「おれを無視して話してんじゃねー!!」
「危ないっ!」

 青年は男の拳を受け止めて、お腹に向かって拳を放つ。男が見えないところまで飛んでいくほどの威力だった。

「あっありがとうございます」
「病院に行った方が良いな。近くの病院がどこにあるか分かるか?」

 首を横に振ると青年はうーんと唸った後、ナミを見て何かに気付いたのか声を上げた。

「もしかして、ルフィの仲間か?」
「えっ、そうです。どうして……」
「ん? ああ。おれはルフィの兄だ」
「お兄さん!?」
「じゃあこの島にルフィがいるって事だな。船に医者はいるか? いるなら船に戻った方が良いな」
「確認します!」

 電伝虫でチョッパーに連絡を取って、船で合流することになった。
 青年はサボと言うらしい。ルフィにお兄さんがいるなんて初耳だ。気を失っているナミを背負おうとしたら、代わると言って彼はナミを軽々しく持ち上げた。

「ルフィがこの島に来てるって噂を聞いてさ。仲間に会えて良かったよ」
「本当にありがとうございます」
「もうお礼はいいって。それにおれがぶっ飛ばしたのは一人だけだしな。アンタ、ルフィの新しい仲間か?」
「はい。でも私、強くなくて」
「別にルフィは強いから仲間にしてるわけじゃねえだろ? 気に病むことはねェさ」

 そう言って向けられた笑顔はルフィに似ていて心が温かくなった。

 サニー号に戻るとチョッパーが待っていてくれた。チョッパーは彼を知っているようで、挨拶を交わした後医務室に案内した。

「手当てはしたから安静にしてたら大丈夫だ」
「でもナミ、気を失ったまま……」
「大丈夫。そのうち目を覚ますよ」

 ナミの手当てが終わり、チョッパーは医療品を片付けた。突然ガチャリと医務室のドアが開いてルフィが入って来た。

「ナミが怪我したのか?」
「ああ。今は気を失ってるけど軽傷だ」
「そっか、良かった」
「ルフィ」
「サボ! 何でここにいんだ!?」

 彼らが再会を喜び合う中、私は目を閉じたままのナミを見て涙が溢れ出た。皆に気付かれないように泣いていたつもりがすぐに気付かれてしまって、ルフィにポンと軽く頭を叩かれる。

「大丈夫だってチョッパーが言ってるだろ」
「……私のせいなの」
「ちげえ」
「私が何も出来ないから」
「何言ってんのよ。あんたのせいじゃないわよ」
「ナミ!?」

 いつの間にか起きていたナミと目が合う。彼女は包帯の巻かれた首に触れて一瞬顔を顰めていた。

「ナミ、大丈夫か?」
「こんなのかすり傷よ。渚、あんたどんだけ泣いてんのよ。ベッドが濡れるでしょ。気にしないの」
「うん、ごめん……。本当にごめんね」

 ナミに怪我を負わせてしまったことが本当に申し訳なくて、背中を丸めると髪をわしゃわしゃと撫でられた。ナミかと思ったら何人かの手で、多分この場にいる全員に頭を撫でられていた。


********************

 翌日、ナミはすっかり回復していた。そしてルフィのお兄さん、サボとわかれてサニー号は出航した。

 そろそろ筋トレの時間なのでゾロの元へ行って誘いに行く。

「ゾロ、筋トレしよ!」
「しよって、渚はしねェだろ」
「今日は私も一緒にするの」
「は? 珍しいな」
「強くなりたいの」
「……昨日のこと気にしてんのか?」

 彼の問いに頷いた。昨日の出来事は全員が知っている。気にしないでって言われてもやっぱり気にしてしまう。

「自分の身くらい自分で守れるようになりたい」
「お前は強くならなくて良い」

 「やだ」「うるせえ」と、このやりとりが何度か続く。痺れを切らしたゾロは私の後ろの壁をドンと音を立てて叩いた。

「おれが守るっつってんだよ」

 鋭い目と目が合って、何となく気まずくなって目を逸らした。

「……ゾロがいなかったらどうしたら良いの」
「呼べ」
「呼んでも来れないよ。ゾロ、方向音痴だし」
「ごちゃごちゃうるせェな。お前が呼んだら駆けつけてやるって言ってんのに分かんねェのか」
「ほんとに?」
「ああ」
「ほんとにほんと?」
「おう」
「……」

 どう言い返したら良いのか分からなくなって頬を膨らませた。そんな私の顔を見てゾロは眉を顰めて首を捻る。

「なんだよ、その顔」
「ずるい」
「何が」
「そんなの言われたら筋トレ出来ないじゃん」
「するな。それにちょっと筋肉つけただけですぐ強くなるかよ」

 ゾロは溜息を吐いてジムに向かったので、その背中を追いかけた。