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子供の泣き声が聞こえて目が覚めた。昨日は甲板でそのまま寝てしまったんだ。皆も泣き声に反応して目を覚ます。

「誰の声でしょうか?」
「子供の声か?」

ブルックとチョッパーの後を皆でついていく。声のする方へ行くと、小学生くらいの男の子とゾロがいた。怖い顔をするゾロの前で男の子が声をあげて泣いている。

「何してんだー? ゾロー」
「こいつ、いきなりサニー号に乗りこんできて泣き喚いてんだ」
「迷子かしら?」
「でもどこから……」
「昨晩、ここの小島の近くを通ったわ」
「そこからサニー号に飛び乗ってきたってことか? スーパーなことしやがるぜ」

ナミが地図を広げて小さな島を指さした。チョッパーが男の子に近づき、怖くないぞーと宥めている。男の子は泣き止んだので、皆は彼が話し出すのを待った。

「近くの島まで乗せてほしいんだ!」
「おういいぞ」
「ルフィ、まず訳を聞かねえと」
「そうね。貴方は何故島を出てきたのかしら」

ウソップとロビンが質問をすると男の子は話し出した。

どうやらサニー号が昨晩近くを通った小さな島から彼はやってきたらしい。しかし元々住んでいたのは別の島らしく、知らない男たちに誘拐されてその小さな島に滞在していたようだ。住んでいた島に帰りたい、両親が待っていると男の子が話し終えると、フランキーが泣いていた。

「うおおおお、ルフィ。こいつを元の島まで返してやろうぜェ!」
「おう! 勿論だ」
「ありがとう!」

男の子はナミに島の場所を伝えて、皆がそれぞれ動き出す。そして朝ご飯を食べた後だった。男の子の態度が急変したのは。


「こいつを傷つけられたくなければおれの言うことに従え!」

背中に乗られて首に手を回され、顔の近くに刃物を突き付けられる。子供だからと完全に気を抜いていた。いくら子供と言えど、目の前に刃物を突きつけられるのは怖い。皆は一瞬動きを固めたが、ナミの溜息を合図に動き出した。

「選ぶ人間を間違えたわね」
「何だと?」
「確かにうちで戦えないのは渚だけど、その子に傷一つでもつけたらアンタ、ただじゃすまないわよ?」
「ハァ? そんなのやってみろってんだ!」

ナイフが更に顔に近づき息をのんだ。なあ、とルフィが口を開いた瞬間、肌がぴりついた。

「海賊相手にナイフを向けてんだ。命賭けろよ」
「ッ!?」

ルフィのいつもより低い声が男の子の身体を硬直させた。

「なんだ! こいつがどうなっても良いのかよ!?」
「いい加減にしなさい!」

ゴツン、とナミの拳骨が男の子の頭に落ちた。手から落ちたナイフはロビンが能力の手で拾っていた。

「いッッてーーー!!」

頭をおさえて足をバタバタさせる男の子。ナミの拳骨痛いもんなァと同情の目を向ける。

さっきまで刃物を向けられていたせいか、安心して膝の力がカクンと抜けた。尻もちをつくかと思ったらルフィの伸びてきた腕に支えられて、そのまま彼の元へ抱き締められるような形になった。

「大丈夫か?」
「うん、ありがと」

突然パリン、と食器が割れる音が聞こえたのでルフィから離れて振り向いた。誰が落としたのか分からないけど皆それぞれ何とも言えない表情をしていた。

「アンタたち落ち着きなさい。あれは恋愛感情じゃないって分かるでしょ」

ナミは目を閉じてそう言っていたので「アンタたち」が誰を示していたのか分からなかった。


「この子どうする? ルフィ」
「んー、そうだなァ」

ロビンの問いかけにルフィはうーんと首を傾げる。
すると突然、男の子は隠し持っていた刃物を私へ向かって振り上げた。咄嗟にできたのは頭を守るように手を頭の横に持っていくことだけで。まさかまたナイフを向けられるとは思ってもなかった。


カキン、と刃のぶつかる音が聞こえて目を開ける。

「その辺にしとけよ、ガキ」
「悪さが過ぎるんじゃねェか?」

ゾロが刃物を刀で受け止め、サンジの蹴りが男の子の顔の前で止まっていた。私も男の子も驚いて、身体が固まる。刃物も男の子の手から落ちていった。

「大丈夫か、渚!」
「う、うん。大丈夫。二人ともありがと」

チョッパーが慌てた様子で駆け寄って来てくれた。

「さっき両親がいる島に帰りたいって言ってたじゃねえか。ありゃ嘘か?」

サンジが煙草の煙を吐き出しながら話した。いつもの彼ではない殺気立った雰囲気に背筋が凍る。

「嘘さ! 父ちゃんはいないし、母ちゃんにはさっきの島に捨てられたんだ。この船で元居た島に戻って母ちゃんを殺してやるんだ」
「この船は海賊船よ? 子供一人に何ができるっていうのよ」
「うるせえ! おれがこの船を乗っ取ってやる」

そして男の子は大声で叫び、それと同時に私と男の子以外の全員が倒れた。

「えっ!? 皆どうしたの!?」
「おれが能力者とも知らずに見くびるからだ」
「……皆に何したの」
「気を失っているだけさ。それと、こいつらからお前の記憶を消してやった!」

私の記憶を消した? どうして、と混乱する私に男の子が両手を広げて笑ってみせた。

「なんかお前、皆に愛されてそうだからムカつくんだよ。だからお前の立ち位置とおれが入れ替わったのさ」

信じられない、と周りを見回していたらゾロ、サンジ、チョッパーが体を起こしたので、大丈夫かと駆け寄った。目が合った瞬間、いつもの彼らではないことがはっきりと分かった。

「……だれだお前」
「美しいレディ、貴女は一体どこから舞い降りてきたのですか?」
「だだだっ誰だ!?」

ゾロは警戒心剥き出しで私を睨みつけている。
サンジは変わらないように見えるけど全然違う。
チョッパーは部屋の端で頭を隠してこちらの様子をうかがっている。

ーーまるで皆、出会った時の様に。

忘れられた私とは逆に、男の子は以前から親しかったかのように皆と会話している。ルフィやウソップ達も目を覚まし、私の姿を確認しては誰だと声を上げた。

「お前誰だ? どこから来た!」

ルフィに初めて話しかけられた時の言葉だ。だけど以前とは違う、少し冷たい声色に冷や汗が出る。

「渚……と言います」
「あの人、船に勝手に乗り込んでこの海賊船を乗っ取る気なんだ!」
「なにィ!?」
「……サニー号を乗っ取るなんて出来ないよ」

男の子が私を指さして叫んだ。私が彼らにどれだけ信頼を得ていたのか分からないけど、その信頼が今はあの男の子に向いているんだ。私の言うことよりあの子を信じるに決まっている。

複数の疑いの目が向けられるのは怖くて、足がすくむ。

「お前がどれだけ強いのかはしらねェが、乗っ取るってんなら相手するぜ」
「おいクソマリモ、レディを傷つけるならおれが許さん」
「じゃあこいつが嘘ついてるって言うのかよ」
「いや、それはないのは分かってんだが」

目から零れそうな涙を必死に抑えて、下唇を噛んだ。ここに私の味方はいない。サンジも女だから優しくしてくれているけど、あの男の子の方を信じる。

「ちょっとその子と話させてくれる?」

ナミがゾロとサンジの間を割ってこちらに歩いてきた。
彼女に腕を引っ張られて女子部屋に連れていかれる。ロビンも後をついてきた。

きっとこの二人も私の事は覚えていないのだろう。今から何を言われるのだろうか。怖くて下を向いた。

「渚、何が起こってるか分かる?」
「……っ!? 私の事、分かるの?」
「何言ってんのよ。分かるに決まってるでしょ」
「皆、渚のこと知らないような口ぶりだったわね。反対にあの男の子とは親しげだったわ」

良かった、二人が覚えていてくれて。二人には男の子の能力は効いていないみたいだ。女性には効かないのだろうか。彼女たちに男の子の能力について話した。

ナミは女性には能力が効いていないことが分かっているのか探りに行き、ロビンは記憶を元に戻す方法について調べにいった。代わりにとナミが連れてきたのはサンジだった。

「この子は渚。私たちの大事な仲間なんだから絶対守ってね」
「渚ちゃん、なーんて素敵な名前なんだ! んナミすわぁんの頼みなら喜んでー!」

サンジは最初から優しかった。私の事を知らなくても女性には優しく接してくれる。キッチンに連れられてドリンクを出してくれた。いつも入れてくれるドリンクはいちごジュースが多かったけど、今日はリンゴジュースで胸がちくりと痛んだ。それでも優しくしてくれる彼に感謝した。

「どうして、優しくしてくれるの?」
「おれは女の涙を疑わねェ」
「私、泣いてないよ」
「おれには泣いてるように見えたのさ」
「……そっか」

リンゴジュースを見つめながら、ここで初めて食事をした時の事を思い出した。

ーーーー
ーー


「美味しい……!」
「君の口にあったようで良かった」
「こんなに美味しい料理初めて。盛り付けはおしゃれだしこのお肉はすっごく柔らかくてコクのあるソースととても合う。噛めば噛むほど味が出てきて美味しい」
「……」

ご飯が美味しすぎて溢れ出る感想を言うと、サンジは黙ってしまい不思議に思って顔を上げると、頬杖をついて微笑んでいた。ニコニコと笑っているだけで何も言わないので戸惑いながら話しかける。

「……あ、あの?」
「美味しそうに食べてくれるだけじゃなくてこんなにも感想をくれるなんて、君はコックを喜ばせる天才だね」
「だって本当に美味しくて」

そっか、とサンジは煙草をふかしながら嬉しそうに呟いた。

***

ガチャリと音を立ててドアが開いた。

「おいコック、なんか飲みもんねェか……って何でその女がここにいんだ」

キッチンに来たのはゾロだった。鋭い目の彼と目が合った。
仲間には優しいゾロだけど、そうでない人には警戒心が強い。最初もそうだった。他の皆が私を受け入れてくれた頃でも彼は私の事を受け入れてくれなかった。

ーーーー
ーー


突然現れた海賊船に襲われた時だった。飛んできた砲弾によって大きく揺れる船。身体が船から投げ出されそうになった時、ゾロに腕を引っ張られた。

「船の中に入ってろ」
「うん、ありがと」

彼がこういう行動をするのは意外だった。きっと私が危ない目にあっても気にもしないと思っていたから。

ホッと安心したら目の前の大胸筋に目がいってしまう。彼の身体を近くでマジマジと見るのは初めてだった。鍛え上げられた筋肉。今までどうして意識してこなかったんだろう。こんなにも素敵な筋肉を。

鼻血が出そうになって、鼻をおさえて急いで船の中に入った。それからゾロの筋肉を意識してしまい、鼻血が出て自分のフェチがバレてはいけないと彼を避けるようになった。

***

「懐かしいな……。ねえゾロ、ポケットに入ってる筋トレメニュー、誰が作ったと思う?」
「あ? そんなの入ってるわけ……」

ポケットの中を探って出てきたのは私が作った筋トレメニューだった。顔をしかめていることから、記憶がないのだろう。どこまで記憶が改造されているのか分からないけど、忘れられたことに段々とムカついてきた。

「いい加減、思い出して」
「……ッ!」

彼の両頬を両手で包む。思い出すよう念じながらゾロの目を見る。彼はやめろと言って顔を逸らした。その行動に頬を膨らませる。

「どうして忘れちゃったの」
「だからお前なんて知らないっつってんだろ」
「その大胸筋も上腕二頭筋も誰が育てたと思ってるの!」
「おれだろ」
「そうだけど違う!」
「違わねェだろ、何言ってんだお前」
「お前お前って名前ちゃんと呼んでよ! ゾロの馬鹿!」
「お前の名前知らねェんだから仕方ねえだろ」
「渚です」
「……」
「呼んでよ!」
「用もないのに呼べるか」

もー! と怒るとゾロは呆れた顔をしてキッチンから出て行った。

「はは……お前面白いな! おれの仲間になれ!」

いつの間にかキッチンに来ていたルフィ。彼の言葉にもちろん、と全力で頷いた。
記憶をなくしても仲間に誘ってくれるなんて。やっぱりルフィはルフィだな、と思った。


「皆ー、甲板に集まって」

ナミの声が船内に響いて皆が甲板に集まる。男の子の両サイドにナミとロビンが立っていて、男の子はばつが悪そうな顔をしていた。何か分かったのだろうか、と彼女達を見るとナミにウインクされたのでほっと息を吐いた。

「こうすれば良いみたいよ」

ロビンは男の子の頭の上から海水をかけた。まさか海水で記憶が戻るわけ……と思っていたら皆が周りをキョロキョロしていて、皆の前でナミが仁王立ちしていた。

「アンタたちこの子の事、分かるわよね?」

皆が口を揃えて私の名前を言う。聞かれた全員が何言ってんだって顔していて、気が抜けて笑ってしまった。
さっきまでの出来事を話し、男の子の身柄をどうするのか考えた。

 とりあえず近くの小さな島で男の子を下ろそうと船をつけたら逃げられてしまって、男の子を縛っていた縄を持っていたフランキーの記憶が一部消えていた。彼の記憶では男の子の存在がなかったことになっていた。
 今回、ナミとロビンの記憶は消されなかったから何とかなったものの、記憶を操る能力者には二度と会いたくないなと思った。