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私は今ローの部屋にいた。船長兼船医でもある彼に医療知識を学んでいる。何かを探している様子の彼に、これだろうと思う本を渡した。

「はいどうぞ」
「……、何故分かった」
「何となく、これかなって。一緒に生活してると分かってくるよね。この前まで全然ローの事分からなかったのに」

ローは少し黙った後に、そうかと呟いた。受け取った本を開くことなく、彼は私をじっと見つめる。

「どうしたの?」
「明日上陸する島に麦わら屋達がいる」
「そうなの!?」
「戻りてェか?」

心臓がドクンとはねた。彼らの元に戻りたい、ずっとそう思っていたけど、ここでの生活は居心地が良くて。ローはたまにおかしくなってしまうけど、私を大切にしてくれる。戻りたいけど戻りたくない。優しくしてくれたローやハートの皆と別れるのはつらい。

どうしていいのか、彼の言葉になんて返したら良いのか分からない。温かい手が私の頭の上に乗った。

「別に困らせてェわけじゃねえ。明日までに答えを出しておけ」
「うん……」

ちゃんと、考えなきゃ……。


********************

一晩、たくさん考えた。私を最初に拾ってくれたのは麦わらの一味で、彼らとはぐれて一人になった私を拾ってくれたのはハートの海賊団。答えは決まった。
ポーラータング号は海の上にいて、甲板にローが立っていた。後ろから声をかけようとしたら、不意に振り返ったローと目が合う。

「ロー、私やっぱり……」
「……そういう約束だったしな」
「ありがと。私を見つけてくれて、ずっとそばにいてくれて」

泣きそうなのをグッと我慢した。前に大きな島が見えてきて、島をじっと見つめる。ルフィ達があの島にいる、でもここにいる彼等とお別れ。いろんな感情が入り交じった、複雑な気持ちになる。

島が見えてきたぞと船員たちが甲板に集まって来た。背中をポンと押されて振り向いたらペンギン君とシャチ君がいた。

「渚ちゃんどうした? 寂しそうな顔して」
「そういや麦わら達もこの島にいるって」
「そっか、じゃあお別れか」
「ありがと、2人とも。お世話になりました」
「こちらこそ。元気でな」
「寂しくなるなー。な、ベポ」

シャチ君がベポに話しかけると、ベポは両手を広げて私の名前を呼んだ。そのまま凄い勢いで走ってきて、吹き飛ばされるんじゃないかと思いながら両手を広げたら抱き上げられた。

「渚ー、ガルチュー」
「ガルチュー」
「またね、渚。楽しかったよ」
「私もすっごく楽しかった。ありがと、ベポ」

ベポと頬を合わせていたらイッカクが駆け寄って来て、彼女は私とベポをまとめて抱き締めた。

「渚!」
「イッカク!」
「お別れかー、寂しい!」
「お世話になりました。ツナギ、ありがと」
「いえいえ。麦わらのところならまた会えるだろうしまたね」
「うん、また」

他の船員たちにも挨拶をしてローと一緒に船を降りた。遠くを見るとサニー号らしき船がある。彼らは船にいるだろうか、それともこの島にいるのだろうか。しばらく会えなかったけど私の事を忘れていないだろうか。また受け入れてくれるだろうか、と不安な気持ちでいっぱいだった。

サニー号へ行くが、船には誰も乗っていなさそうだったので、島に探しに行くことにした。

「……厄介だな」
「どうしたの?」
「この島、海兵が多い」
「えっ」

辺りを見回すと確かに海兵が歩いている。逃げないと、と引き返そうとしたら頭に帽子が乗る。

「これ被っとけ。お前は海賊じゃねェんだろ」
「ありがと。でも、逃げなくて良いの?」
「気づかれなければ良いだけだ」

前から海兵が数名、歩いてきているのが見えた。海兵がこちらに気付く前にローが隣で何か言っていて、気付いたら建物と建物の間の狭い道にいた。目を丸くさせていると、何事もなかったかのように彼は行くぞと言った。

「追いかけられるのも面倒だしな」
「ありがと。ほんと、すごいね」

「お前ら逃げるぞーー!」

「!!」

よく知っている声が島中に響いた。この声ってまさか、と思って騒がしい方へ走るとルフィ達、麦わらの一味がいた。ルフィを先頭に皆が海軍に追いかけられている。久しぶりの彼らの姿に視界がぐにゃりとゆがんだ。

「麦わら屋のところに飛ばしてやろうか?」
「いいの?」
「ああ。渚とはここで……」
「ロー、ちょっと屈んで」
「?」

ガルチュー、と言って頬を擦り合わせた。ゆっくりと顔を離し、帽子を彼の頭に返してありがと、とお礼を言う。ローは顔を隠すように帽子を深く被りなおした。

「……ズルい女だ」
「でも大好きでしょ」
「次会った時は掻っ攫ってやる」
「ふふっ」
「じゃあな。ROOM……」

シャンブルズ、と彼が言ったのと同時に私は空を飛んでいた。正確には走っている彼らの上にいて、重力のままに落ちていく。
ロー、飛ばし方雑じゃない!? ガルチューされて怒った?

彼らに気付かれなければ私は地面に激突して死んでしまう。何とか気付いてもらおうと声を上げた。

「皆ー!!」
「あれ、渚か!?」
「ハア!?」
「渚ちゃーん!?」
「何でここに……!?」

次々に彼らが驚きの声を上げる中、私は下へと落ちていく。どうしようこのままだと死んでしまう。息を大きく吸って必死になって叫んだ。

「受け止めてー!」
「任せろ!」

そう言ってくれたのは麦わらの一味の頼もしい船長。しっかりと私の身体を受け止めた後、また走り出して私を肩に担いだ。ルフィの後ろを走っていたナミと目が合い、彼女が私に向かって叫ぶ。

「渚! アンタ今までどこにいたのよ!」
「実は誘拐されまして、その後色々あって……」
「その話は後だ。船に戻ってからにしろ」
「マリモ、テメェ……渚ちゃんとの再会を素直に喜べねえのか」
「状況を考えろっつってんだ。今追われてんだぞ」

そうだ、話は船に戻って海軍から逃げ切れてからだ。


********************

無事に海軍から逃げ切り、久しぶりのサニー号に感動している暇もなく、私は甲板の芝生の上で正座していた。

「それで、どこで何してたの。一体何があったのよ」

ナミが私の前で腕を組んで立っている。ローにも同じ質問されたな。私を囲むように他の皆も立っていて。……あれ、知らない人が一人いる。

「えっと、迷子のゾロを探しに行ったらバギーって人の部下に誘拐されて。人質にされそうになったんだけど、麦わらの一味の仲間じゃないことを伝えたら解放してくれて、別の島で下ろされてその島で暫く暮らしてたの。そしたらローが偶然その島に来たから、ハートの海賊団にお世話になってました」

今までの事を話すと、皆は驚いていたり怒っていたり溜息を吐いていたり様々な反応をしていた。

「……なんで仲間じゃないなんて言ったんだ」

下を向いたルフィがいつもより低い声で言った。多分彼は怒っている。

「ルフィ。そう言わないと渚ちゃんの身が危険だった」
「人質になって、迷惑をかけたくなくて」
「仲間ってのは迷惑をかけて良いんだ」
「な、かま……」

仲間、その言葉が涙腺を崩壊させた。出会ってから仲間になれと言われたことはなくて、私は彼らの何なのかずっと考えていた。

「仲間って……」
「当たり前だろ」
「言われたことなかった」
「おれ達はずっと仲間のつもりだったぞ。ニシシ」

仲間……。私は彼らに仲間だと認識してもらえていたんだ。久しぶりの皆の顔をしっかりと見たいのに涙で視界がぼやける。

「渚ちゃん。君の美しい涙をこれで拭ってくれ」
「ありがと」

サンジから受け取ったハンカチで涙を拭うと、ナミに抱きしめられた。ギュウ、と強く抱きしめられて、彼女の背中に手を回したいのに回せない。馬鹿ね、と震えた声が耳に届いた。

「心配かけて、ごめんね」
「無事で良かった。渚は足を滑らせて崖から落ちたんじゃないかって皆言ってたわ」
「いや、それロビンしか言ってねえよ」
「本当にありそうだから怖い!」

ロビンとウソップの優しい笑みにまた涙が込み上げてきた。

「渚! 怪我はしてねえか?」
「全然。かすり傷一つないよ、チョッパー」
「そっか! 良かった」
「それにしてもトラ男のところにいたなら、連絡出来たんじゃねえか?」

フランキーの一言に皆が確かに、と頷く。連絡出来るならしたかったけど……。

「連絡取りあえるの?」
「トラ男の電伝虫ならここに」
「だって、連絡取れないかって聞いたら『さあな』って」
「取れないとは言ってねえな」
「あの野郎……絶対わざとだな。レディと一緒にいたくて」

そうだったんだ。でもここまで送ってくれたし、ローやハートの皆の事もたくさん知れた。それにたくさん勉強にもなったし結果的には良かったのかもしれない。

「よく生きてたな。渚は死なねえとは思ってたけどよ」

ずっと黙っていたゾロがようやく口を開いた。怒っていたのかと思ってたから突然の優しい言葉にまた涙が溢れ出てくる。

「泣きすぎだ」
「ゾロ! ……ウッ! 刺激が強い」

胸元が開いた服を着ているゾロの大胸筋は輝いて見えて、眩しくて目を閉じた。

「二年振りに再会した時のサンジ君みたいね」
「あん時は大変だったなー」
「ヨホホホー! 渚さん、感動の再会の記念にパンツ見せて貰ってもよろしいですか?」
「今日は、」
「見せるかっ!! 渚も確認しなくていいわ!」

「渚が帰って来たんだ。今日は宴だー!!」

おー! と皆と一緒に声を上げた。じゃあ渚から一言! とウソップからマイクに見立てた棒を渡されて皆の視線がこちらを向く。

「私ずっと皆のことばっかり考えてて。こんなにも皆の事大好きだったんだなって」


帰ってきたんだ、帰ってこれた。大好きな皆のところに。仲間のところにーーー