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気づいたら海の上だった。正しくは大きな海の上に浮かぶ小さな船に私は乗っていた。辺りには島一つない。私の記憶が正しければいつも通り仕事を終えて帰宅してお風呂に入って寝て。そう、寝て起きたらここにいたんだ。

私は何かの事件に巻き込まれてしまったのかもしれない。助けて小さな名探偵。船の上には何もない。食料もないし人もいないし島もない。溜息を吐いて三人くらいしか乗れない小さな船の上に寝転んだ。波に乗って揺れる船に身をゆだねることしか出来ない。

お腹減ったな。最近ダイエット中で昨晩は野菜しか食べてない。このまま空腹で死ぬんだ、そう思い目を閉じた。
それから少し時間が経った頃、船の大きな揺れで目が覚めた。こんな状況でも寝る私って大丈夫?なんて思いながらもどうしたって死ぬんだからもう何も考えないでおこうと思った。

突然視界が暗くなったかと思えば、見たことのない生物が数メートル上を飛んでいた。

「は、」

思わず声が出る。何あれ、見たことない。変な色で魚のようなそうじゃないような、大きな生物。私の存在に気づき、上から私を飲み込もうと大きな口を開けて下へ落ちてくる。

よく分からない生物に食べられて死ぬのか。コツコツ貯めたお金も今まで勉強してきたことも毎日会社で働いていたのも全部一瞬で終わるんだ。……乾いた笑いしか出なかった。


目を閉じ痛みを待つ。もしかしたら死ぬのは一瞬で痛みもなくいつの間にか死んでいるのかもしれない。しかし待っても痛みはやってこないし思考も停止していない。大きな音がして船が大きく揺れる。先程よりも大きな揺れに目を開けると自分の身体は船から落ちそうになっていた。このまま落ちて海に沈んで死ぬんだなんて考えていると、どこからか飛んできたロープがお腹に巻き付いてこれは何だと考えている暇もなく引っ張られ身体が空を飛んだ。

「あんなとこで何してたんだ? あのままじゃお前食われそうだったぞ」

ジェットコースターのような速さで移動し終わったかと思いきや、頭の上から声がふってきた。目を開けると少しの間視界が回っていたが、はっきりした視界に映り込んできたのは鍛え上げられた綺麗な腹筋だった。視線を上にあげていくと麦わら帽子をかぶったどこかで見たことがあるような男。

「むぎ……」
「むぎ?」
「ルフィー、何か釣れたかー?」
「!!」

そうだ、ルフィだ。ワンピースだ。誰もが知っている有名アニメ。必ずどこかで目にするから主人公の周りにいるキャラの名前は何人かは分かる。それに目の前にいるルフィがゴム人間だということも知っている。しかしそれくらいしか分からない。

「釣れたぞ!」
「おっ、何だ大物か!?……って人ーー!?」

釣り竿を持って現れたのは鼻の長い男、ウソップだ。彼は私の存在にオーバーリアクションで驚いていた。

「誰だどこから連れてきた!?」
「お前誰だ? どこから来た!」
「えっと、渚と言います。気が付いたら船の上で」
「訳ありっぽいな。どうするルフィ」
「そうだなーとりあえず肉食うか!」
「はァ!? ……行っちまった。渚って言ったよな。こっち来れるか?」
「う、うん」

ルフィは肉が食いてェと走っていき、その背中をウソップが呆れて見ている。主人公のところならきっと命は安全だろうと、ウソップの後をついていった。

「来たわねウソップ……って後ろの子は?」
「それがルフィが釣ってきた子なんだけどよ。訳ありっぽくて」
「釣ったのか!? じゃあお前魚なのか!?」
「人間です」

船の中にはナミ、チョッパー、サンジにゾロ、それから綺麗な黒髪女性と骨と大きなロボットがいた。どうしよう、本当に数名しか名前が分からない。

「何と可憐なレディなんだ! 麗しのレディ、どうぞこちらの席へ」
「あ、ありがとうございます」
「戸惑っている様子がなんとも愛らしい……!」

サンジが椅子を引いてくれたので腰を下ろした。

「おいルフィ。誰なんだソイツは」
「海王類に食べられそうになってたから釣った。ま、悪いやつじゃねェだろ!」
「ハァ!? まァ見るからに弱そうだけどよ」
「おいアホ剣士! レディに向かって失礼だろ」
「うるせェクソコック」

その後自己紹介を交わし、私の知らないキャラはロビン、ブルック、フランキーだと分かった。



ーーここまでが私の経緯だ。そんなこんなで麦わらの一味にお世話になることになり、それから数週間の月日が経った。
元々ワンピースにそれほど詳しくなかったため、悪魔の実って何それ状態だった。身元も分からない一文無しの私の面倒を見てくれる彼らは、流石主人公と仲間たちというべきか、優しい人しかいない。ここの世界の知識を教えてくれて生活にも慣れてきた。

島が見えたぞー!とルフィの声が外から聞こえ、顔を上げたらサンジと目が合った。

「渚ちゃん、島を見に行くかい?」
「うん。サンジも行こ」
「キミのお誘いならおれはどこへだって行くよ」
「ありがと」
「くゥー! クソ可愛い!」

サンジとのティータイムを中断して腰を上げた。彼の作るものは何でも美味しくてティータイムに誘われたらいつも誘いを受ける。サンジは女性の扱いにはとても丁寧だし一緒に居て心地が良い。

甲板に行くと皆揃っていて、遠くにある島を見ていた。彼らに拾ってもらって初めて島に上陸する。皆も久しぶりの上陸らしく、買い出しがたくさんあるようで船番が決まらなかったため、今日の船番はジャンケンで決めることになり、私とゾロが負けてしまった。

「しゃーねーな。寝るか」
「私は何してようかな」
「渚ちゃーん! 食材買い揃えたらすぐに戻ってくるからねー! アホ剣士には近づいちゃ駄目だよ」
「ゆっくりで大丈夫だよ。待ってるね」
「渚にとっては初めての上陸なのに可哀想だなァ」
「じゃあ変わって欲しいな、ウソップ」
「そいつは無理なお願いだぜ! まっ、明日は島でゆっくり出来るだろうし今日だけ辛抱だ!」
「分かった」

サンジとウソップが船を降りた。いつの間にかルフィ達も船を降りていて、船にいるのが船番とナミとロビンだけになっていた。二人は行かないのだろうかと思っていると目が合った。何だか不安そうな顔をしている。

「渚大丈夫?」
「ナミ? 大丈夫って?」
「だってアンタ、ゾロのこと苦手なんじゃないの?」
「えっ!? 苦手じゃないよ」
「いつも視界に入れないようにしていたわね」

ナミに加えロビンまで。確かにゾロが近くにいる時は視界に入れないようにしていた。二人とも恐るべし観察力。

「ちっ違うの! 苦手とかじゃなくて……近くに来られると緊張しちゃって」
「えっまさかゾロの事好きなの!?」
「フフ、そういうことだったのね」
「それなら心配はいらなかったわね。渚ってサンジ君といることが多いから彼が好きなのかと思ってたわ」
「作ってくれるご飯は好きだよ。サンジの事は好きだけどナミやロビンに対しての好きと同じだよ」
「そうだったのね。じゃ、上手くやんなさいよ!」
「また後で話を聞かせて頂戴」

二人の中で話が完結し、ナミからは背中を押されて彼女達は船を降りた。誤解が凄い。後で誤解を解いておかなければ。
皆行ってしまったけど、船番って一体何をしたら良いのだろうか。お腹も空いてないし眠くもないし、掃除でもしようかな。

掃除用具を出してきて、船を磨いていく。遠くの方にいるゾロはずっと夢の中だ。彼を見て歩いていたからか、足元にあるバケツに足を突っ込んでしまい転けてしまった。転けた音は思ったより大きな音を立ててしまってゾロが起きた。

「何だ? 敵襲か?」
「こ、転んだだけだから気にしないで……」
「転ぶってお前、何してたんだよ」
「掃除」

大丈夫か、と言ってこちらに近づいてくるゾロ。どうしよう、これ以上近付かれては……。視界に入れないようにギュッと目を閉じた。

「……何してんだお前」
「き、気にしないで下さい……」
「気にするなっつっても、目の前でそんなブッサイクな顔されて気にしねェ方が無理だろ」
「君の身体は目に毒なので」
「何言ってんだ。オラ、目ェ開けろ」
「ちょっ、乱暴はやめて下さい。うわァ!」

視界が見えないまま突然腕を引っ張られたので、バランスを崩して尻餅をついてしまう。

「お、おい。大丈夫か?」
「いてて。お尻が……カハッ!」

目を開けると目の前にはゾロの身体があって、私の中の何かが限界を超えた。

「おい鼻血出てんぞ!? 今鼻打ったか!?」
「す、素敵な胸筋……」
「…………は?」
「あ。……ここっこうなるからゾロは視界に入れないようにしてたのに!」
「ハァ!? 訳わかんねぇ事言うな! てかさっさと鼻拭け。あとどう言うことか説明しろ」

鼻を拭くとゾロは早く話せと言わんばかりに腕を組んで私が話し出すのを待っている。もう打ち明けるしかないのか。

「誰にも言ってなかったんだけど、実は私、筋肉フェチで」
「筋肉フェチだァ?」
「鍛えられた筋肉を鑑賞するのが好きで。触れたりしたらもっと嬉しいんだけど。その、だから、ゾロみたいな鍛え上げられた筋肉を目の前で見るのは刺激が強すぎてですね……?」
「……」
「ほら、ゾロって皆と比べて一段と筋肉量が凄いでしょ」

自分のフェチを打ち明けると、ゾロは下を向いて黙ったままだった。沈黙に耐えられず、口を開く。

「引いた!? 引いたよね!? バレないように頑張ってたのにー! もう私ここにいれないィィ!」
「別に引きやしねェよ。誰でも好きなもんくれェあるだろ。……こちとら嫌われてるとばかり」
「嫌いじゃないよ! ごめんね、誤解させるような行動をとっちゃって」
「じゃあこれからは普通にしろよ」
「が、がんばる」
「おいまた鼻血垂れてんぞ」

普通ってこのフェチを曝け出して良いってことだよね。そうだよね。鼻血が出ても筋肉鑑賞して良いって事だよね。

それからまたゾロは寝てしまったので、私は寝ているゾロの隣でずっと筋肉を鑑賞していた。呼吸によって上下する筋肉が魅力的でずっと見ていていられる。涎が垂れたけどすぐに拭いた。


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「渚ちゅわーん! 帰ったよー! ……って何ィー!?」
「あらあら」
「上手くいったみたいね」

サンジ、ロビン、ナミの三人が船に戻ってきたが、船番の二人の寝ている姿を見てサンジは驚き女性二人は微笑ましい気持ちで見つめた。頭の下に手を入れて寝るゾロの隣で、渚はすやすやと眠っていた。触れていそうで触れていない近い距離だった。

「んナミさぁーん! ロビンちゃーん! 戻る時間が同じなんてこれは運命!? ……って上手くいったってどう言う事だい!?」
「渚ってばゾロに気があるみたいなのよ」
「な、何だって!? おれとのティータイムをいつも楽しんでくれていたのに、このマリモの事が……!? そんな……う、嘘だー!」

サンジが項垂れているのを横目に、ナミとロビンは自室へ戻った。


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「あんた達、そろそろ起きないと風邪ひくわよ」

遠くの方でナミの声がする。右肩だけはほのかに暖かいけど足が冷えていて寒い。ぼんやりとした意識の中、右側でもぞもぞと何かが動いた。多分ゾロだと思う。ゾロの服を軽く引っ張る。

「ん? あー、よく寝たな。……何してんだお前、起きろ」
「寒い、お母さん布団ー」
「誰がお母さんだ。ダァー! 腰に巻き付くな!」
「なんて素晴らしい弾力……ずっとこうしてたい」

さっさと離れろ、とゾロに引きはがされる。片手で私の身体を軽々と持ち上げたので、もう少し仲良くなったら片手で抱っこしてもらおうと密かに決めた。
辺りを見ると日が落ちていて、私はゾロと一緒に長い時間ご飯も食べずに昼寝をしていたのだと驚いた。筋肉鑑賞していたらいつの間にか寝てたんだな。

戻ってきた皆と夕食を食べる。ルフィやウソップ達はまだ戻ってきてないけど外でご飯を食べているだろうから、今いるメンバーだけでご飯を食べることになった。

「サンジありがとう。運ぶの手伝うよ」
「いやレディはゆっくりしていてくれ」
「あ、うん」

何か変。いつもと同じような返事だけど、何となく素っ気ないような。軽くため息を吐きながら椅子に腰かけると、隣にいるナミがどうだったのよとニヤニヤ顔で聞いてきた。

「ちょっと仲良くなれたと思うけど、そういうのじゃないから。誤解だからね!」
「照れちゃってー」
「違うってばー!」

聞く耳を持たないナミに呆れながらも、女の子は恋バナが好きだもんなと納得してしまう。逆の立場だったら私もこんな感じになっていると思う。
でもナミ達にも私にフェチについて話さないとなぁ。目の前に素晴らしい筋肉があったら涎も鼻血も出ちゃうし。皆が揃った時にでも打ち明けようかな。

それからサンジが作ってくれた料理を口にする。味も見た目も高級レストランで出てくるような料理が毎回出てきて、私の胃袋は完全に掴まれている。ご飯を食べ終わるとナミ達は部屋に戻っていった。一人、食器洗いをするサンジに声をかけようと思ったが、きっとまた断られてしまうだろうなと思ってダイニングのドアに手をかけた。
そのまま出ていこうとしたら水道の音が止まったので、思わず足を止めると後ろから声が掛かった。

「渚ちゃん……」
「どうしたの?サンジ」
「マリモと付き合っているのかい?」
「え? 私誰とも付き合ってないよ。ここでお世話になってる身だし」
「気になってるっつーのは」
「あっ、それナミ達でしょ。誤解してるの」
「じゃあ一緒に寝ていたのは?」
「寝ているゾロを見てたら眠たくなっちゃって。いつの間にか寝ちゃってたんだよね。……サンジ、そんな怖い顔してたら周りの女の子逃げてっちゃうよ」
「……そうだね」

サンジの眉間をちょんと突いて微笑むと彼は眉尻を下げてごめんと謝った。誤解で気まずくなるのは嫌なんだけど、どうしようか。

「デザート、いるかい?」
「うん、ほしい! 甘いのが良いな」
「お安い御用さ。実は冷蔵庫に冷やしてあるんだ」
「サンジの作るもの全部大好き」
「クッ!! 上にクリームを乗せるからちょっとだけ待っててくれ渚ちゃん! とびっきり美味しいスイーツを君のキュートな口へ届けるよ」

あ、いつものサンジに戻った。鼻歌を歌いながら冷蔵庫からスイーツを取り出す彼の背中を見て、ふと思う。あのスーツの下はどんな筋肉が隠れているのだろうかと。スラっとした体形だし彼は料理人だ。きっと身体はそんなに鍛えていないだろう……いや、袖をまくったことによって見える腕はふっくらしていて、前腕筋が鍛えられているのが分かる。
……触ってみたい。あぁいやいやダメだ。抑えるんだ、私。今日はゾロの胸筋と腹筋を思う存分眺めたではないか。しかしスーツに筋肉は相性が良すぎて涎が。

「お待たせプリンセス。……おっとこりゃあ待たせすぎたかな。渚ちゃん、口元失礼するよ」
「ん、あ、ありがと……」
「林檎のように顔を真っ赤にして可愛いね。どうぞ、ガトーショコラだ」

ナフキンで垂れた涎を優しく拭われた。めちゃくちゃ恥ずかしい。ガトーショコラを口に運ぶと甘くて、美味しくて。幸せな気持ちでいっぱいになった。

「美味しい! こんなにおいしいガトーショコラ初めて」
「そりゃ良かった」
「サンジは食べないの?」
「幸せそうに食べている君を見てお腹いっぱいさ」
「そう? でも一口だけ」

一口サイズにフォークで切ってサンジにあーんと持っていくと、目を見開いていた。戸惑って中々口を開けない彼にもう一度あーんと言うと、恥ずかしそうにしながら煙草を手で持って口を開けた。

「美味しいでしょ」
「……あァ」
「流石サンジだね。あ、これ間接キスだね」
「!!」

サンジの口から離れたフォークを自分の口元に持っていく。間接キスなんてそんな気にするような人ではないだろう。でもちょっとは照れてくれるかなと期待したけど、彼の表情は固まったままだ。
突然彼は立ち上がり、足音を立てながらキッチンへ向かう。何をするのかと戸惑いながら見ていれば、思い切り水道から水を出して頭から水をかぶっていた。

「さっサンジ!? どうしたの!?」
「気にしないでくれ」

気にしないでと言われてもなぁ。俯いたままの彼にタオルを渡そうとしても反応がなかったので、タオルは彼の近くに置いてダイニングを後にした。


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