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ポーラータング号が島へ上陸するとのことだったので、私も島に下りて良いのか聞いたら船長は首を縦に振ってくれた。潜水艦の中は暑かったから、久しぶりの地上の空気が冷たく美味しく感じて大きく息を吸う。

海賊らしき人達もいるけど、沢山店が並んでいて栄えた町だった。

「何か買うものってある? 私おつかい行くよ」
「いや、食料調達はペンギン達に任せてる」
「ローはどこ行くの?」
「本屋に用がある」
「そっか。じゃあちょっと近くを歩いてくるね」
「ああ。……っておい待て!」

ご飯でも食べに行こうかな。でも一人になるといつも厄介ごとに巻き込まれるし、やっぱり誰かと一緒にいた方が良いか。振り返るとローが後ろに立っていて胸筋に顔をぶつけた。顔を上げると彼は眉間にしわを寄せて怒っているように見える。

「良い胸筋ですね……?」
「一人で行動するな」

行くぞ、と彼はスタスタと歩いていく。しかし後ろの方が急に騒がしくなって振り向いた瞬間、爆風に吹き飛ばされた。

「渚!!」

ローが手を伸ばしてくれるけど届かなくて、このまま地面や壁に当たったら痛いだろうなァと考えていたら、ガシリと誰かに首根っこを掴まれた。

「何だこの女」

赤い髪に鋭い目つき、赤いファーのついた派手なコートを着ている男が私を見下ろしている。見るからに危険な人だ。でもこの人手配書で見たことがあるような……あ、ルフィやローと同じ最悪の世代の一人だ。

それよりも何で爆風が。一体どこから、と周りを見ると海賊同士が闘っているのが見えた。

「ユースタス屋、それはうちのだ。返せ」
「通りで見たことあるツナギだと思ったぜ」

どうやら二人は知り合いのようだ。宙に浮く手足をバタバタさせるが離してくれないらしい。ローより身長高いなこの人。というかガタイが良い。

不意に男の腕に目を向けて衝撃を受けた。何この太い上腕筋は! この腕に私は片手で持ってもらえてる!? ……ああ、でも今は感動している状況じゃない。

「ROOM……」
「させるか」

男は私の首根っこを掴んだまま、家の屋根に飛んだ。そして何故か金属や何かの部品が男に集まってきて、ローの上に落とす。彼も能力者なのだろうか。

「チッ、返せ」
「飛んできた落としもんを拾ったんだ。拾ったおれのもんだろ」
「ハア!?」

どうしようとおれの勝手だと、威張る男。素晴らしい上腕筋だけど、自分勝手だこの人。そして男は私の顔をじっと見た。

「随分気に入られてるようだが、トラファルガーの女か?」
「いえ、違います」
「強ェのか?」
「全く戦えません」
「じゃあ何故アイツが執着する」
「何ででしょう」
「まあいい。テメェがトラファルガーの弱みになるなら連れて行って損はねえ」
「え、ちょっと待って」
「黙ってねえと舌噛むぞ」

とてつもないスピードでどこかへ向かう男。また私は攫われてしまうのか。折角ハートの海賊団に拾ってもらったのに。

ルフィとは違った感覚に目を回していたら、いつの間にか恐竜の頭がついている船に到着した。

「キラー、戻った」

キラーと呼ばれた白と青のストライプ柄の仮面をした男は、私の存在に気付きこちらを指さした。

「……横腹に抱えているものは何だ、キッド」
「トラファルガーが執着してたからよ」
「それで奪ってきたのか」
「おう」
「返してこい」

拾われた犬の気持ちだ。私を攫った人はキッド、仮面の人はキラーと言うらしい。仮面の方はまだ常識人だと思われる。急に手を離されて膝を強く打った。

「いたっ! この人の言う通りです。貴方バカでしょう!」
「アァ!? なんだと? 殺されてえのか」
「やめろキッド」
「この女を船に乗せる。トラファルガーの弱みになるからよォ」

痛む膝を擦りながら立ち上がり、ニヤリと口角を上げるキッドを睨んだ。もう敬語をつかう必要がない気がしてきた。

「ならないってば! 私、数週間前にローの船に乗せてもらったばっかりの新人なんですよ!?」
「だから何だ。仲間奪われて黙ってる船長じゃねえだろあれは」
「きったない人間ですね!」
「ハッ、なんとでも言え」
「バーカバーカ!」
「テメェ……よっぽど殺されてェみてえだな」
「抑えろキッド」

キラーさんにキッドを刺激しないでくれと溜息を吐かれながら言われた。このままじゃ本当に攫われてしまう。出航する前に何としてでも船を下りなければ。

それにしてもこんなにふっくらした大胸筋の人が目の前に二人もいるのは耐えられない。目をギュッと閉じると、上から頭を片手で掴まれた。

「飽きるまでかまってやるよ」
「飽きたら捨てられるんですね。ロー迎えに来てー!」


結局、強制的に船に乗せられた。腕の中で暴れてもびくともせず、力の差を感じさせられただけだった。

「とりあえず着替えさせるか。これに着替えろ」
「嫌です」

フイッと顔を逸らすと大きな音が鳴った。何だと振り向いたら、周りにある金属が彼の腕に集まっている。もしかして磁力を操る能力者なのかもしれない。金属の塊は見る見るうちに大きくなって、思わずヒッと声が出た。

「歯向かうなんてしねェよなァ?」
「脅すんですか、卑怯者! 着替えます! 着替えるからどこか部屋に入らせて」
「最初からそうしとけ」

乱暴に部屋に入れられる。なんて俺様な人なんだあの人。

お気に入りだったツナギを渋々脱いで、用意された服に腕を通す。ずっとツナギを着ていたからか、露出が多くて落ち着かない。それに高そうな服だ。着替え終わって部屋から出ると、キッドは壁にもたれて待っていた。私を下から上まで見ると、彼は口角を上げた。

「ツナギで分からなかったが、中々イイ女じゃねェか。今晩相手してやろうか?」
「いえ。私、年下は対象外なので」
「おれがお前より年下だってのか?」
「だってやること子供じゃないですか」
「……何歳だ」
「27」

年齢を答えると彼は目を丸くした後、舌打ちをした。どう見ても私の方が年上なのに驚かれる理由がわからない。彼は何歳なのか言うのを待っていたら、23とぼそりと呟いた。

「ほら」
「対象にしてやろうか?」
「結構です!」
「そういやお前、名前は」
「……」

この人の名前は知ってるけど、素直に答えるのは何となく嫌だ。また彼から顔を逸らすと、キラーさんが近づいてくるのが見えた。

「キッドが迷惑かけてすまない。おれはキラーだ」
「渚です」
「オイ! おれを無視すんじゃねえ!」
「上腕筋を触らせてくれたら許します」
「じょうわ……腕か? 別に構わないが」
「えっ良いんですか!? お金は……」
「金? 迷惑かけた詫びだ。腕を触るだけで良いなら」

えっ良いの!? 差し出された腕は太い上腕筋で、キラーさんの片腕に両手で触れる。なんて太い上腕筋……。太すぎて腕を手でつかむことが出来ない。うっとりして涎も垂れてきた。

「お前、痴女か」
「ちッ!?」

ガーン、とキッドに言われた言葉がショックすぎて体が固まった。体の力が抜けて膝から崩れ落ちる。

「もう立ち直れない……」
「キッド、言いすぎだ」
「本当のことを言っただけだ。……めんどくせえ女だな。海に沈めるか」
「……」
「飯の時間までに彼女の機嫌を直してこいよ」

キラーさんの言葉にキッドは舌打ちをした。面倒やらなんでおれがとブツブツと文句が聞こえる。
おいと何度か話しかけられるが無視を貫き早一時間。ぐう、と腹のなる音が聞こえた。

「あー! いつまで拗ねてんだ。ガキかよ!」
「無理矢理連れ去られるし心に大きな傷を負わされるしもうやだ」
「チッ、悪かったって」
「思ってもないでしょ」
「腕でもなんでも触りゃいいだろ! おら、好きなだけ触れよ」

頬を膨らませてキッドに近づく。恐る恐るピトリと上腕筋に頬をくっつけた。彼は無反応で、私が満足するのを待っている。この際だから大胸筋も……と思ってふっくらした大胸筋にツンと触れる。

「幸せ」
「……そーかよ」

呆れた様子のキッドが、じゃあ飯……と言いかけた瞬間、船内が騒がしくなった。敵襲ー! と叫ぶ声が聞こえ、船員の一人にキッドが声をかける。

「相手は」
「トラファルガー・ロー率いる、ハートの海賊団です」

ローが迎えに来てくれたんだ。ホッと息を吐いた瞬間、いきなり目の前に彼が現れた。

「ロー!」
「渚は返してもらうぞ」
「ほらよ」
「は?」
「興味本位で連れてきただけだ。もう気がすんだ」
「ハア!?」
「こいつが拗ねてたせいでおれは腹が減ってんだ。さっさと失せろ」

乱暴に背中を押されて、ローの胸に飛び込む。ローは優しく受け止めてくれたけどとても怒っていて、行こうと服を引っ張ると首を縦に振った。一瞬でここに来たんだ、きっと一瞬で戻れるはず。

「ロー、最後にキッドにひとこと言わせて」
「? ああ」
「キッドのバーカ!」

私の叫び声は船内に響き渡った。二人は驚いたのか目を点にして固まっていたけど、すぐにハッと意識を取り戻す。

「やっぱぶっ殺す!」
「逃げよう、ロー」
「……お前、良い性格してるな」
「ふふっ」

ローの能力でポーラータング号に一瞬で戻った。やっぱりすごい能力だ。キッドの船を確認すると甲板でキッドが何か叫んでいるのが見えた。
逃げるためにポーラータング号は海に潜るとのことだったので、ローと一緒に船内に入った。

「ありがと、迎えに来てくれて」
「ああ。何もされなかったか」
「うん。だいじょ……ああ!!」
「何だ」
「ツナギ……ツナギがキッドの船に……」
「ツナギはいい。だが何で服が変わってるんだ」
「着替えろってキッドに服渡されて」

事情を説明すると彼は大きく舌打ちをして、やっぱりアイツ潰しておくかと怖いことを呟いていた。

「その服、脱げ。あと風呂も入ってこい。ユースタス屋くせェ」
「そんな動物じゃないんだから匂わないでしょ」
「別のツナギを持ってくる」

私の言葉を聞かないローに口を尖らせながら、風呂場に向かった。