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麦わらの一味が今どこで何をしているのか知っておきたくて、新聞は毎日欠かさず読んでた。皆が載っていることを確認しては寂しい気持ちになっていたけど、皆元気でいるんだと安心していた。連絡を取る手段もないし、彼らと通じる知り合いもいない。このまま会えずこの島でずっと暮らしていくのだろうか、そう思っていた時だった。

ファーの帽子をかぶった高身長の男が前から歩いてきたのは。

思わず持っていた買い物袋を落としてしまい、その音で彼は私の存在に気付き目を見開いた。

「お前……」
「トラ男、くん? トラ男くんだー!! 会いたかった」

彼の元まで走って両手を広げて飛びついた。やっとだ。やっと知り合いと出会うことが出来た。トラ男くんが良い人なのは分かっているし、安心だ。安堵とうれしさでぎゅうと強く彼を抱きしめた。

「おい、はっ、離れろ!」
「うーー、会いたかったよォ!」
「いいから離れろ!」

両肩を持って後ろに押される。彼は何故か大量の汗をかいていた。大丈夫か聞こうとしたら先に彼が口を開いた。

「麦わら屋からは行方不明になったと聞いたぞ。どれだけ探しても見つからなかった、と。今までどうやって生きてきたんだ。何があった」
「そうだね、色々あったんだけどとりあえず家来る?」
「まさかこの島に住んでるのか」
「うん。家こっちなの、ついてきて」

落とした買い物袋を拾って、家までついてきてもらう。住み込みで働いていることを伝えて部屋に入ってもらった。

「何飲む?」
「茶はいい。早く教えろ」
「そうだね」

島でバギーの仲間に連れ去られたこと、そこからずっとこの島で暮らしてきたこと、ずっとルフィ達と連絡を取っていないことを伝えた。彼は暫くバギーに対して怒っていたが、何か思いついたのか私を見た。

「おれと、来るか?」

彼に誘われるのは2回目で、もし今私がルフィ達と一緒にいたらきっとまた断っていただろう。良い様につかってしまうようで申し訳ない気持ちになりながらも、うん、と返事をする。反応がないので顔を上げて彼の顔を確認すると、トラ男は目を見開いていた。そんなに驚くことだったのだろうか。
心配性で優しい彼の事だ。きっと私のお願いも聞いてくれるはず。

「ルフィ達の元まで連れて行ってほしいな。もちろん旅の途中で良いんだけど……」
「ハァ!? 何故おれがそんなことを」
「だめ、かな?」
「グッ……」

右手は彼の服の裾を掴み、左手は自分の口元に持っていってうんと可愛くおねだりしてみた。効果はあったのかもしれない。これが効くのサンジだけだと思うからちょっと嬉しい。

「この島を出る。荷物をまとめろ」
「お世話になった人たちに挨拶だけしてきてもいい?」
「ああ」

どこかで待っていてくれるのかと思いきや、彼は挨拶回りについてきた。おかげで結婚するために島を出ていくのだと誤解されて、お幸せにと何度言われただろうか。

「ついてきてくれてありがと」
「それ貸せ」
「いいの?」

重かった荷物を持ってくれた。彼は軽々しく持ち上げたので筋肉の造りに違いを感じて感動した。やっぱり彼は優しい。

「ねえトラ男くん。ルフィ達と連絡って取れない?」
「……さあな」
「そっかァ、残念」

トラ男と一緒にいることだけでも伝えることが出来たらなと思ったけど、やっぱり難しいか。
彼について行くと船の周りには彼の仲間たちが集まっていて、久しぶりだと挨拶を交わした後これまでの経緯を話した。

「渚屋をうちの船に乗せる」
「「「アイアイキャプテン」」」
「待ってトラ男くん」
「なんだ」
「渚屋って何」
「名前で呼んでるだろう、何か問題でもあるのか」
「あるよ。屋はいらない」
「何と呼ぼうがおれの勝手だ」
「渚って呼んでほしいなー……」

ジッと見つめると、彼は分かったと首を縦に振った。トラ男くんってこんなキャラだったんだ。もしかして扱いやすいかもしれない。

ハートの海賊団の船はポーラータング号といって潜水艦らしい。潜水艦なんて初めてでドキドキすると言って乗り込むと白くまに暑いから良いことないよと言われた。

「ベポ君、でしたっけ」
「うん、君付けとか敬語とか堅苦しいのはいいよ」
「そっか。じゃあ遠慮なく」

ここの皆ってルフィ達とは違うアットホームな感じがあるなァ。皆キャプテン大好きって感じが伝わってきて、和やかな気持ちになる。
この船でお世話になっている間は私もキャプテンって呼んだ方が良いかな。

「空いてる部屋があるからそこを使え」
「ありがと。荷物ずっと持ってもらってごめんね。持つね」
「いい」

こっちだと言って部屋へと案内してくれる。やっぱり優しいね、と言ったけど何も返事をしてくれなかった。私の部屋は彼の部屋の近くらしく、困ったことがあればいつでも来てくれていいとの事だった。

「トラ男くん」
「なんだ」
「ツナギ着てみたいなーなんて」
「ツナギ?」
「うん。皆お揃いで可愛いし。もし余ってたらで良いんだけど……」
「……」

彼は黙って部屋を出て行ったので荷解きをした。少しすると白いツナギを持ったトラ男が再び部屋を訪れた。やっぱり取りに行ってくれていたんだ、なんて思いながら渡されたツナギを受け取った。お礼を言うと彼は部屋に戻るとのことだったので、早速ツナギに着替えてみた。
部屋の鏡で確認するとやっぱり可愛くて、嬉しくなってトラ男の部屋のドアをノックした。

「早速何の用だ。入れ」
「見てみて、トラ男くん! ずっと着てみたかったの、このツナギ。似合ってる?」
「……ツナギに似合ってるもクソもねェだろ」
「えー、つれないなァ。サンジだったらいっぱい褒めてくれるのに」
「黒足屋みたいな恥ずかしい真似出来るか。それより後で誰かに船内を案内してもらえ。分からねえと不便だろ」
「はーい」

今のところ出入り口と私とトラ男の部屋しか知らないしなァ。
とりあえず船内を歩き回って誰かに声をかけてみようと思っていたら、正面から歩いてきたのはバンダナを頭に巻いた女性。彼女は私に気付いて手を振った。

「渚ー!」
「イッカクだー!」
「「久しぶりー」」

彼女とは前に会った時に意気投合した。明るい性格で話しやすい。

「そのツナギやっぱり渚用だったんだ」
「着たいって言ったら、トラ男くんが持ってきてくれて。これイッカクの?」
「そうそう。さっきキャプテンがいきなり余ってるツナギはないか聞きに来てさ」
「そうだったんだ。あ、もしよかったら船内案内してほしいんだけど……」
「いいよ!」
「イッカクー、掃除当番呼ばれてんぞー」

笑顔で頷いてくれた彼女だったが、こちらに歩いてきたペンギン君に呼ばれていた。どうやら掃除当番らしい。

「え!? そうだったっけ。ペンギン、今暇なら船内案内してあげて」
「案内?」
「よろしく!」

じゃ、と片手を上げてイッカクは走っていった。首を傾げたペンギン君は私の顔を覗き込んで、声を出して驚いていた。

「渚ちゃんだったんだ! ツナギ着てるから分かんなかった」
「へへ、着てみたくて」
「似合ってんね。あ、船内案内だっけ。行こっか」
「ありがと。よろしくお願いします」

ペンギン君に船内を案内してもらいながら、どれくらいここでお世話になるんだろうと考える。海は広いし連絡を取り合えなければ、合流することは非常に難しいと思う。でも一人で島にいるよりここは安心できる場所だし彼らに会える確率も高い。

でもここにおいてもらう以上は、何かしなければ。

「私何かできることあるかな。戦うことは出来ないんだけど」
「そうだなー、家事は得意?」
「大体できると思う!」
「じゃあその辺手伝ってもらう感じだなー。あとはキャプテンに聞いたら何か言ってくれるよ」

船内は大体把握できたので、彼にお礼を言って再びトラ男の部屋へ訪れた。入れと言われてドアを開けたら、彼は椅子に腰かけて本を読んでいた。

「お世話になるし何か出来ることないかなと思って。家事全般お手伝いさせてもらいたいなって思ってるんだけど」
「好きにしろ。船内は大体把握できたか」
「うん、ペンギン君に船内案内してもらったよ」

掃除当番に私も入れてもらおう。ご飯当番もあるのかな。イッカクに聞いたら分かるかな、なんて思っていたら目の前の彼は考えるように黙っていた。

「名前で呼んでくれない人は好きじゃないと言っていたが、自分はどうなんだ」
「えっ」

急に何の話だ、と頭をフル回転させる。名前で呼ぶ話今してたっけ。自分はどうなんだって私名前で呼んでない人いたっけ。

「私、皆のことは名前で呼ぶようにしてるけど……」
「おれの名前はトラ男じゃない」
「え!?」

ルフィ達はトラ男って呼んでたし、トラ男のクルー達はキャプテンって言ってるし。実はキャプテンって名前だったりするのかな。じゃあキャプテン? と首を傾げながら聞くと、勢いよく顔を逸らされた。えっ、怒った?

「違う、よね……? ごめん、ルフィからトラ男って紹介されたから名前知らなくて」
「トラファルガー・ローだ」
「だからトラ男君なんだ。じゃあトラ君って呼んだらいい?」
「それ変わってねェだろ。……ローでいい」
「分かった。ごめんね、今までちゃんと名前で呼んでなくて。ロー君って呼ぶ」
「君はいらねえ」
「分かった」

ルフィ達皆からトラ男って呼ばれてたけど、あだ名はあんまり好きじゃなかったのかな。でもやっぱり私があんなこと言ったのに自分はあだ名で呼んでたから怒ってる?

「ごめん。怒ってるよね」
「は? 怒ってねえ」
「ほんと?」
「ああ」

頷きながら彼は本に視線を戻したので、ほっと息をついて自室に戻った。
それから夕飯を食べてお風呂に入って。ハートの海賊団の人達は皆親切な人ばかりだった。

ここは安全な場所だ。一人じゃない。居場所をくれたローには感謝しないといけない。彼はまだ何を考えているのか分からないけど、優しいことには変わりない。


気持ちは落ち着いているはずなのに何故か眠れなくて、時間を見ると日が変わっていた。食堂に行って水を飲みに行こうと思い、足を運んだらペンギン君とシャチ君がいた。

「おっ?」
「渚ちゃんじゃん」
「こんばんは」
「どうした?」
「喉が渇いて、水飲みたいなって。二人は?」
「ちょっと腹減ってさ。夜食でも作ろうかなーって。ペンギンとどっちが作るか決めようとしてたとこ」

夜食かァ。そういえばサニー号に乗っていた時、サンジが作ってくれたっけ。



「サンジ、まだ起きてたの?」

お腹が減って目が覚めてしまったある日の夜、食べ物を探しにキッチンに行ったらサンジがいた。

「ああ。渚ちゃんこそこんな時間にどうしたんだい?」
「お腹、減っちゃって」
「今日はヘルシーなものが多かったからか……。ごめん、気をつけるよ」
「ううん。お菓子食べ過ぎて夕食は控えめにしてたんだよね。そしたらこんな時間にお腹減って」
「何か作るよ。何が食べたい?」
「良いの? じゃあおにぎり」
「お安い御用さ。具は何にしようか。何が良い?」
「お任せで」
「りょーかい」

彼が作ってくれたおにぎりはピンク色の桜でんぶおにぎりだった。とてもかわいくて美味しくて、お腹いっぱいになった後ぐっすり眠ったのを覚えている。



どっちが夜食を作るかじゃんけんをしている二人に私が作ろうかと声を掛ける。

「「マジで?」」

コクリと頷くと二人は手を握り合って喜んでいた。仲良いな。ゾロとサンジもこれくらい仲良かったら平和なのに。

「じゃあおにぎりとか……」
「おにぎりで良いの?」

夜食だしラーメンとか言われるのかと思ったら。驚いて聞き返したら勢いよく頷かれた。でもやっぱりこの時間はおにぎりが食べたくなるよね、分かる。
炊飯器からご飯を取って握ったおにぎりをお皿に置いていく。中身は夕食の余ったものを詰め込んでみた。折角だしお味噌汁も作ろう。

「女の子が握ったおにぎり! 感動なんだけど」
「めちゃくちゃ美味ェ……」
「ふふっ、2人とも大袈裟だよ」

お味噌汁も出すと、二人は泣いていた。喜んでもらえて良かった。結局私もおにぎりを食べて、その後ぐっすりと眠りについた。