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「起きて渚、サンジ君が朝食作って待ってるわよ」
「ウフフフ、まだ眠いのかしら」

ナミ、ロビン、すぐ起きるから待って。でもおかしいな、いつもなら朝食のいい匂いがするのになんか変なにおいーーーー


瞼を開けると目の前には彼女達ではなく赤鼻の男がいた。まだボーとする頭で思ったことを口にした。

「あかはな……」
「誰が赤鼻のデカッ鼻だァ!」
「えええッ!?」
「デカッ鼻は言ってないだがね」

目の前で怒鳴られて一気に目が覚めた。
誰だろう、この人たちは。赤鼻の人はピエロっぽいし、サーカス団の人たちだろうか。……そういえばゾロを探していたら、後ろから誰かに口を塞がれて眠らされたんだ。どうしよう、皆心配しているだろうな。手を動かそうとしたら、自分の手足は縄で縛られて動けない状態にされていることに気付いた。

多分私はどこかの島に連れてこられたんだろう。さっきまでいた島とは全く違う景色だったので、眠らされている間に移動したようだ。
それにしてもこの年になって誘拐されるとは。この世界だから何が起きるか分からないのは分かっているけど。

「それで何だァ? この女は」
「偶然寄った島でこの女が麦わら達と一緒にいたので連れてきました! 弱そうなので人質になるかと」
「見たことねえが麦わらの仲間なのか? ハデに知らねえな」
「手配書にはない顔だね」

もし仲間だと答えたらそのまま人質になってしまうかもしれない。仲間ではなく自分は一般人だということを伝えると、赤鼻の男はこのスットンキョーが! と言って私を連れてきた男を殴っていた。会話から察するに、おそらく彼らはルフィの敵の海賊でありサーカス団ではなさそうだ。

すると黒髪女性と髪を3の型に整えている男が私に近付いてきた。

「仲間じゃないにしても麦わら達と一緒にいたのは事実なんだろ」
「一緒にご飯を食べてました」
「この女どうするだがね」
「元いた島まで運んでもらえると助かります」
「元いた島って言ってもねえ……」
「離れたところまで来てしまった感じでしょうか」
「誰がデカッ鼻だ! 殺されてェのか!?」
「エェェ! 言ってないです!」

離れたところって言っただけでやばいなこの人、面倒くさい。何か大丈夫な気がして緊張が解けてきた。
すると突然電伝虫が鳴って、赤鼻の男が話をしていた。

「どうするんだい」
「あー勝手にしやがれ。やるなり島へ帰すなり好きにしろォ! おれは出る用が出来た」

どうやら電伝虫から聞いた内容が重要だったらしく、赤鼻の男は面倒くさそうな顔をしてどこかへ歩いて行った。溜息を吐く黒髪女性に声をかけた。

「元いた島はいいので近くの島まで送っていただけないでしょうか」
「仕方ないねえ。近くの島までは送ってやるよ。そこからは自分でなんとかしな」
「ありがとうございます」

良かった、殺されはしないようだ。こんなところでは死にたくないし、もし死ぬなら死ぬ前にちゃんと皆にお礼を言いたい。

それから赤鼻の男の部下たちに連れられ、近くの有人島へ下ろしてもらった。一文無しだということを伝えたら、3の髪型の男が溜息を吐きながらお金をくれた。髪型と話し方が変わっているけど優しい人なのかもしれない。

送ってくれた船がどんどん小さくなって見えなくなった。これから住み込みで働かせてくれるところを探さなければならない。まさかルフィに相談したことが、こんなにも早く本当になってしまうとは思いもしなかった。

もう日が暮れているので今日は宿を借りよう。働き先が決まるまで宿を借りて暮らすしかないかな。
お金をもらってなかったら野宿になっていたところだ。3の人ありがとう。

ルフィ達に連絡を取る方法がわからないので、今はこの島で生活できるようになってからまた考えよう。もしかしたら彼らがこの島に上陸するかもしれないし。
寂しい気持ちはあるものの、こんな状況になってしまったものは仕方がないと思い、夜空の月に向かって拳を上げた。

「よし、頑張るぞ!」


***

それからひと月、私は島の暮らしにすっかりと馴染んでいた。住み込みで働かせてもらってお金もある程度貯まってきたし、何とかなるものだなと思った。島の人は皆優しくて親切で、突然この島に来た私を受け入れてくれた。
鍛えられている筋肉が見れない刺激のない日々だけど、私はいつか彼らに会うために毎日頑張っていた。お金がたくさん溜まったら船を買って島を出るのもいいかもしれない。

そんなことを考えながら今日はお酒でも飲みに行こうと近くのバーに足を運んだ。

久しぶりのお酒で最初の一杯は一気に飲み干し、それから何杯も飲んで気分が良くなってきたところで後ろから大きな笑い声が聞こえて振り向く。
お酒を飲みながら楽しそうに笑う男達。彼らの姿がルフィ達に重なって目頭が熱くなった。
刀や銃を持っているから海賊だろうか。この島に海賊が来ているらしいから気を付けて、と街中で聞いたけどこの人達のことかもしれない。

「すみません、ハイボール下さい」
「嬢ちゃんよく飲むねえ。はいよ」
「ありがとうございます」

これで最後にしよう。まだ飲みたいけどお金を使いすぎるのはよくない。

「あーあ、飲み放題だったら良いのにな」
「さっきから見ていたが、若いのに良い飲みっぷりだな」

瞼に傷のある男が私の隣に腰かけた。胸元が開いたシャツを着ていて、大胸筋を見るにとても鍛えていることがわかる。久しぶりの鍛え上げられた筋肉にうっとりしてしまい、思わず大胸筋をじっと見つめてしまった。
彼も酔っているのだろうか。ニコニコと楽しそうに笑っていた。

「まだ飲み足りないです」
「どうだ、ここはおれが出す。好きなだけ飲んで良いから一緒に飲まねェか?」
「良いんですか!?」

なんて親切な人なの。筋肉は素晴らしいし。
……でももしかしてお酒を奢る代わりに何か差し出さなければならないのでは。

「どうした? こっちに座ると良い」
「あの、奢る代わりに身体で払えとか言わない……ですよね?」
「だっはっはっは! おれはそれでも良いぞ?」
「ごめんなさい聞かなかったことにして下さい」

男はまた大声で笑って、私を仲間の輪の中に連れて行った。失礼だけど顔が怖い人ばかりで正直この輪の中に入るのは怖い。だけど……皆揃いも揃って筋肉が……素晴らしい。
特に近くに座って煙草をふかしている男の人なんて、上腕二頭筋と上腕三頭筋が鍛えられていて今すぐしがみつきたいくらいだ。

「おっ、お頭が女をひっかけて来やがった」
「美人が隣にいた方が酒が美味ェだろ。名前は何て言うんだ? おれはシャンクスだ」
「しゃん、くす……?」

ーーこの帽子はシャンクスの帽子だから。
ルフィの言葉を思い出した。もしかして、この人がルフィの麦わら帽子の……。

「どうした?」
「ルフィを……知っていますか?」
「ん? ああ、友達だ」

まさか会いたいと思っていた人とこんなところで会えるとは。ずっと会いたいと思ってましたと伝えると、彼は一瞬目を見開いて私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「渚と言います。前にルフィの船に乗せてもらっていて」
「そうか! これも何かの縁だ。色々聞かせてくれ。おーいお前ら。この嬢ちゃん、ルフィと旅をしていた子らしいぞー」

皆ルフィを知っているようで、嬉しそうな顔で近づいてきた。ルフィの事を話すと、変わってねえなと笑っていて、彼はこの人たちに可愛がられていたんだなと思った。
中にはウソップの父だという人もいて、ヤソップさんというらしい。顔は似ているけど鼻の長さは違った。ヤソップさんからウソップの顔を思い出して鼻がつんとした。

「ウソップ……みんな……」

ヤソップが泣かしたぞ!と周りの男性が茶々を入れる。シャンクスさんに頭を撫でられて、一気に涙が溢れ出た。

「何か事情がありそうだな。おれ達でよければ聞くぞ」

ルフィ達と上陸して島で一人になった時に、赤鼻の男の部下に攫われてしまったこと。その後この島に送ってもらったことを彼らに伝えた。シャンクスさんは赤鼻の男というワードに引っ掛かったようで、顔がどんどん険しくなっていった。

「赤鼻?」
「それって……お頭」
「……バギーだな」
「バギーと呼ばれてました。お知り合いですか?」
「昔同じ船に乗ってたんだ。そうか、バギーが迷惑をかけた。これは詫びだ」

ドン、とテーブルに置かれた宝石がたくさん入った袋。シャンクスさんが謝ることじゃないのにな、と思って首を横に振るが受け取ってくれと強引に押し付けられる。申し訳ない気持ちになりながらも受け取ることにした。
他に出来ることはないかと聞かれたけどもう十分だと伝えたら、シャンクスさんは眉を垂らして好きなだけ飲めと私の背中を叩いた。



目が覚めると、私を含め皆バーで酔いつぶれていたらしく、私はベックマンさんの腕にしがみついていた。謝りながら離れると彼はフッと小さく笑って煙草をふかしていた。これが大人の余裕というやつか。
昨日は久しぶりにたくさん飲んでしまったので、欲望のまま行動してしまった。しかし最高の上腕筋だったな。

彼らは今日島を出ていくというので、見送りに海岸へと向かった。皆から励ましの言葉がかけられ、胸がジーンと熱くなる。

「シャンクスさん、お元気で」
「ああ、またな」

大きな海賊船にシャンクスさんが乗り込むと船は進みだす。私は船が見えなくなるまで手を振り続けた。




これがシャンクスさん率いる赤髪海賊団との出会いだった。