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顔を真っ赤にしたサンジと船に戻り、熱を冷ましてくると言って彼は部屋に入った。あんなに分かりやすく喜んでもらえるなんて嬉しいけど、きっと彼はどの子にされてもああなるんだろうな。

「バカ1名、ちゃんと連れて帰って来たみたいね」
「うん、ばっちり!」

みかんの木からひょっこり顔を出したのはナミだった。他に甲板には誰もいないし、多分他の人はまだ帰ってきていないのだろう。

「王女からどうやって引き剥がしたのよ。キスでもした?」
「何で分かったの?」
「えっ、キスしたの!?」

驚いて大きな声を上げるナミに頬にね、と付け足したら彼女は口を尖らせた。彼女的にはビッグニュースを期待していたらしい。

そこへ突然、ルフィが船内から飛び出てきた。キョロキョロを辺りを見回して私と目が合うと、いた! と指を差される。え、私?

「渚! 肉だ!」
「肉?」
「食いに行くぞー!」
「お、おー!」
「ちょっとルフィ!?」
「渚借りんぞー」

訳もわからず返事をしたら、いつの間にかお腹にルフィの腕がグルグル巻きになっていて船から一気に遠ざかる。
ナミの姿はあっという間に小さくなった。肉だって言っていたけど、一緒にご飯を食べるってことだろうか。
それにしてもルフィから誘ってくれるなんて嬉しいな。上陸したらいつも飯だと叫んで一人で先に行ってしまうし。

絶叫マシンのような感覚から解放されたかと思えば、もうお店の前だった。下ろされて地面に足を付けるとふらふらと左右に揺れる感覚が残っていた。飯だーと嬉しそうに両手を上げて飯屋に入るルフィに可愛いなと思いながら後ろをついていった。

カウンター席に並んで腰かけて、ご飯を注文する。料理が運ばれてきて棒付きの肉をルフィと同じように食べる。

「うんめー!」
「ふふ、美味しいね。でも何で今日はご飯誘ってくれたの?」
「渚の食い方おもしれーし、それに一緒に食った方が美味ェだろ?」
「一緒に食べた方が美味しいのは分かる。でも食べ方面白いって、ルフィの真似して食べてるだけだよ!」
「おれはそんな汚ねえ食い方してねえ!」
「デジャヴ……」

気まぐれで誘ってくれただけかな、なんて思いながらふと肉のなくなった棒を見つめる。

「何考えてんだ?」
「えっ」
「お前いつも楽しそうにしてるけどさ、たまーに寂しい顔すんだろ?」

ドクン、と心臓がはねた。

なんで、分かったのだろう。彼はそういうことには無関心な人だと思っていた。皆といると楽しい。だけど家族や友達がいないこの世界に時々寂しく感じる時がある。
彼に見つけてもらってなければ、今ここにはいない。死んでいたかもしれない。一つ考えると他にたくさん出てきて考え込んでしまう。

「ね、ルフィ」
「んー?」
「私を拾ってくれてありがとね」
「なんだー? 急に変な奴だなー」

ルフィはもぐもぐと肉を食べながら返事をした。思っていたことを話してもいいだろうか。ましてや何歳も年下の彼に。
でも彼にとってどうでもいいことは聞き流してくれる気がして、ずっと聞きたかったことを口に出した。

「私ってこのままこの船に乗ってて良いのかな」
「何でそんなこと聞くんだ?」
「だって皆のように夢も目標もないし、帰る場所もない。偶然ルフィが見つけてくれて船に乗せてもらってるけど……。皆優しいから降りろとも言わないしそれに甘えてる自分もいる」
「……」
「どこかの島で降りて、そこで働いて暮らした方が良いんじゃないかってふと思う時があるの。特別何か出来るわけでもないし、戦闘員でもない私は足手纏いでしかないなって」

黙って私の話を聞いてくれたルフィは呆れたと言わんばかりに、はあーと大きな溜息を吐いた。眉を寄せた彼と目が合って、動揺して息が止まった。

「お前バッカだなー。そんな小せえこと考えて」
「そ、かな……」
「守るって言っただろ。それに渚がいると皆楽しそうなんだ。戦えなくても、おれ達は渚に支えられてんだ」

真っ直ぐなルフィの言葉にジーンと胸が熱くなる。きっと嘘偽りのない言葉で、心からそう思ってくれているんだろう。ルフィって弟キャラなのに、なんでこういう時はしっかりして頼りがいがあるんだ。そのギャップにやられそうになる。

「ルフィ……一生ついていきます」
「おう! ついてこい」

心がスッと軽くなった。いつかナミやロビンに聞こうかと思っていたことを、まさか船長に打ち明けることになるとは思ってもみなかった。
彼にもう一度お礼を言って、並んでご飯を食べた。



はち切れそうなお腹のルフィと船に戻ると、皆が出港準備を始めていた。おーいとルフィが船の下から声を上げると、ナミが顔を出した。

「まーた食べ過ぎたのね、ルフィ」
「美味かったなー。腹いっぱいになったことだし出航するか」
「それがゾロが帰ってきてないのよね。ウソップとチョッパーが探しに行ったんだけど」
「迷子だよね、多分」
「そうだと思うわ」

困ったやつだなーとルフィが呆れ顔でゾロを探しに行った。出港準備は終わったようだし、私も探しに行こうかな。

「私も近くを探してくるよ」
「一人で大丈夫? サンジ君ならいるけど」
「んナミさーん! 呼んだァ?」
「大丈夫だよ。すぐ戻るね」

ナミとサンジから気を付けてと声がかかって、お礼の代わりに手を振った。それにしてもゾロ、この辺りで迷っていたら良いけど。あまり離れても私が迷うといけないし。

街中を歩いていると、走る緑頭を見つけた。どこだここって顔して辺りを見回している。その行動が可愛くて思わず声を出して笑ってしまった。また走って行って見失ってしまうのも困るので、声をかけようと息を吸った瞬間後ろから誰かに口を塞がれた。

「っ!?」
「お前、麦わら達といたな。人質になってもらうぞ」

後ろに人がいるのに気づかなかった。男が後ろから私の口を布で塞ぐ。体の力が抜けていき瞼が落ちる。
やっぱり一人になるんじゃなかったな、と後悔しても遅い。また、皆に迷惑をかけてしまう。



この時の私は知る由もなかった。まさか皆と長い間会えなくなるなんて。