×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






「さあやってまいりました筋肉大会! ステージに立っているのは予選を勝ち抜いた男たちだ!」

とある島で鍛え上げた美しい筋肉をアピールする大会が開催されていた。司会の男が声を上げると、観客席から歓声が上がる。
優勝賞金があるため、ナミに優勝して賞金を取ってこいと言われた麦わらの一味も数名参加していた。

「私は参加しなくてよろしかったのでしょうか?」
「あんたのどこに筋肉があるのよ。それより渚はどこに行ったの。また厄介ごとに巻き込まれてないと良いけど」
「渚さんの好きそうな大会ですよね。ヨホホホ、最前列で見てたりして」
「確かに……。前の方に行くわよ」

ナミとブルックは人混みをかき分けて彼女を探した。一方ステージでは自分の筋肉をアピールする男達が並んでおり、審査員の1人が司会者からマイクを渡され話し出した。

「1番の方は筋肉量はあるんですけどね、魅力的なのは筋肉量だけではないんです。どの筋肉も美しく鍛え上げられているのが1番良いんです」

真剣な表情で語る女は、2人が探していた彼女だった。

「あれ、渚さんじゃありませんか?」
「馬鹿……ッ!」

ナミは審査員として話している彼女を見て頭を抱えた。

数十分前、1人の審査員が腹痛のため参加が難しいとのことで司会者たちが慌てていたところに彼女が出くわした。事情を聞いた筋肉好きの彼女は審査員に立候補した。
突然現れた女に司会者やスタッフはどうしたものかと頭を悩ませていた。しかし女が目を輝かせながら筋肉の魅力について語る姿を見て、任せてみようと思った。

「あの子、今までで1番生き生きしてるわね……。ていうか審査員ってことは味方じゃない! 渚! 誰でも良いからうちのクルーを優勝させなさーい!」
「ヨホホホホ。3人しか見えませんね」
「うちからは5人出てるはずだけど……あれ、ゾロは? あいつはどこ行ったのよ! ルフィはちゃんといるってのに。フランキーもいないじゃない!」

出場する予定だったゾロは、会場がどこか分からずに道に迷っていた。


-------------------


筋肉大会、なんて幸せな大会なの。鍛え上げられた筋肉がずらりと並んでいる。ずっとここで鑑賞していたい。こんな幸せな空間、最初で最後かもしれない。筋肉が見れて、評価させてもらえるなんて夢のようだ。

2番目に出てきたのはオドオドしているピンク頭だった。周りの大男たちに比べて彼は身長が低いので小さく見えるけど、身体は鍛えられていてあれだけ強いのも納得だ。

「よっ! コビー大佐、良い筋肉してるぜェ!」
「ヘルメッポさん……騙しましたね……」

観客席の最前列にいたヘルメッポさんとコビーさんの会話から察するに、コビーさんはこの大会に出るつもりはなかったらしい。でも折角良い筋肉をしているんだ。アピールしないなんて勿体ない。
マイクを持って彼にポーズのリクエストをした。

「2番さん、両手を頭の後ろに回してお腹に力を入れて腹筋をよく見せてください!」
「えっ!? 渚さん!?」

慌てながらもこうですか?と言われた通りにしてくれるコビーさん。

「次は背中を向けて力こぶを作って、上半身だけこちらを向いて下さい」
「は、はい!」

脇腹の筋肉、腹斜筋最高……。えへへへと涎を垂らしながら見ていた。多分だらしない顔をしていると思う。

それから司会者に止められるまで、彼に沢山ポーズのお願いをした。真面目で素直な人だな、なんて思いながら疲れ果てているコビーさんを見てふふっと声が漏れた。

「コビースッゲー! 渚の言ってたポーズ全部やってたぞ」
「渚さんはいつもあんな感じなんですか?」
「おもしれーやつだろ!」
「つ、疲れた……」


3番目に司会者に紹介されたのはサンジだった。普段彼はスーツをきっちりと着ているので、筋肉を曝け出しているのは珍しい。というかじっくり見るのは今回初めてだけど、想像してたより鍛え上げられている。流石麦わらの一味。

「渚ちゅわーん! どうだいおれの体は!」

くるくると身体を回転させて審査員席まで近づいてきたサンジ。彼の身体は普段見慣れていない分、刺激が強い。
割れた腹筋を見ていたら顔が熱くなって……鼻血が出た。

「おっとー! 審査員が鼻血を出して倒れたー! 刺激が強すぎたか!?」
「渚ちゃん!?」

視界の端に救急隊員らしき人たちが担架を持ってくるのが見えた。退場は絶対に嫌なので鼻を手で押さえながら大丈夫だということを伝えた。

「3番の方は言う事なしの、素敵な筋肉だと思います」
「大丈夫かい!? 鼻血が……」

10点満点の札を上げた。サンジはずっと私の心配をしていて、筋肉アピールできず他の審査員の人達からの点数はあまり良くなかったので、全力で謝った。

サンジに続いて、ウソップとルフィが前に出て色んなポーズをしていく。2人とも本当に良い筋肉をしている。勿論満点だ。

そういえばフランキーが出るって言っていたのに姿が見えない。机の上に置いてあった出場者リストを確認すると、フランキーの名前の隣に予選落ちと記入されていた。理由はサイボーグだから、らしい。彼の落ち込む姿を想像したら笑ってしまった。

突然、良い匂いが会場に漂った。周りを確認すると近くの出店で煙が上がっていた。ルフィは肉だ! と目を輝かせて反応し、今にも肉へ向かって走り出しそうだ。ウソップが止めたがルフィは肉の方へ腕を伸ばして飛んで行った。棄権である。

そしてルフィの声が聞こえたのか、入れ替わるように緑頭が会場へやってきた。

「何だここ」
「おっとー! 飛び入り参加か!?」
「あ?」
「ゾロ! 今までどこ行ってたんだよ」
「何でそんな格好してんだ。寒くねェのか」
「お前もこの大会に出る予定だったんだよ!」

ゾロはウソップに話しかけながらステージに上がってきて、会場がざわつく。多分ずっと迷っていたんだろうな。

司会者と審査員が彼をどうするか悩んでいたので、手を挙げて提案をした。

「彼の筋肉を見てみるのはどうでしょうか! 上半身脱いでもらいましょう」
「そうだな。服の上からでも分かる、彼は良い体つきだ。君、ちょっと脱いでくれるかな?」

審査員のおじさんがゾロに話しかけると、彼は「なんでだよ」と眉間に皺を寄せた。

「良いから脱げ! 優勝しないとナミに怒られるんだよ。ルフィはどっか行っちまったし」

ウソップがゾロの服に手をかけ服を脱がそうとする。やめろと抵抗しているが、必死なウソップの顔を見てゾロは渋々大人しくなった。

上半身何も纏わない彼の後ろ姿は広背筋も三角筋も素敵で溜息が出た。暫く眺めた後、10点の札に丸を書き足し札を上げた。

「文句なしの100点です。彼の筋肉が優勝です!」
「!? 何してんだこんな所で」

ゾロは私の存在に気づいてバッと勢いよく振り返った。ハァ、大胸筋が素敵……。

「ふむ、確かにとても良い筋肉だ」
「しっかり鍛え上げられているわね」

他の審査員もゾロを見て満点の札を上げた。優勝はゾロに決まった。

「ななななんと、飛び入り参加の男が優勝だー!」

司会者の声に続いて観客から声が上がる。優勝者にトロフィーを渡すように司会者から言われたので、小さなマッチョの金のトロフィーと賞金をゾロに渡しに行く。

「おめでとう、優勝だよ!」
「優勝? 何だこの大会」
「筋肉大会。これからも筋トレ頑張ってね」
「お、おう」

優勝者が決まり観客が帰っていく中、司会者と審査員の人達が私の元へと集まり、お礼を言われた。

「君、良ければまた審査員をしてくれないか!?」
「ごめんなさい。とっても魅力的なんですけど、旅の途中で」
「そうか、残念だ。またこの島に来たら寄っていってくれ。歓迎するよ」
「ありがとうございます」

こんな素敵な大会の審査員に誘われるなんて嬉しい。トリップしたのがこの村だったら、了承していたなァなんて思った。

「ふふっ、今日はよく誘われる日だ」
「他にも何か誘われたのか?」
「うん。うちに来ないかってトラ男くんが」
「はァ!? ……それで返事は」
「断ったよ」
「たりめェだな」

チラリとゾロの顔を見ると、彼は真剣な表情をしていた。何を考えているのだろう。彼の服の裾を掴んでクイッと引っ張ると、彼の右目と目が合う。

「……トラ男くんのところに行った方が良かった?」
「なに馬鹿なこと言ってんだ」
「いたっ」

コツンと頭を小突かれる。さっきまでの真剣な顔が崩れて、少し安心した。受け入れてくれるのは嬉しくて、服の裾を先程より強く引っ張った。

「下りろって言われるまで離れないからね」
「……お前にそんなこと言う奴、うちにはいねェ」

そう言ってもらえるなんて嬉しいな、と笑うとゾロは私をジッと見て何か考えた後、背中を曲げて私の耳元ヘ口を近づける。
そして「下りてェっつっても逃さねェけどな」と無駄に良い声で囁いた。ビクッと体が震えて耳から顔が熱くなった。

「へェ、お前そんな顔できんのか」
「なっななな!?」

彼はニヤリと口角を上げて私の両手首を掴む。手で顔を必死に隠そうとするも、外側に開かれて真っ赤であろう顔が見られる。

「もっと見せろ」
「ちょっ、ちょっと待って」
「いつもやられてばっかじゃ性に合わねェからな」

いつもの仕返しだと言って笑った彼の顔はまるで悪戯っ子のようだった。顔の熱は暫く冷めそうにない。

手が解放されたので逃げるようにしてゾロから離れると、前からナミ達が歩いてきた。名前を呼ぶと、ナミは手を振ってくれた。

「渚! 審査員に紛れ込むなんてやるじゃない」
「ナミ……ゾロが虐めてくる」
「ハァ!? ゾロあんた何してんのよ!」
「別に何もしてねェよ」

ナミの後ろに隠れて服をギュッと掴んだ。隣にいたブルックがいつもの笑い声を上げている。

それから数時間後、皆集合して船へと戻る。彼らは大会の各部門で優勝していたようで、ナミは満面の笑みで賞金を抱えていた。いよいよこの島ともお別れだ。美味しかったお酒を沢山買い込んで船は出航した。


-------------------


サニー号が出航する数時間前、肉を食べに行ったルフィと筋肉大会予選落ちで落ち込みどこかへ行ったフランキー、そしてロビンを探すことになった一味。
フランキーとロビンは電伝虫が繋がったため、船に集合しようと伝えることができたが、船長のルフィだけ電伝虫が繋がらなかった。
そこへ偶然にもトラファルガー・ローが通りかかった。

「トラ男じゃない。うちの船長見てない?」
「麦わら屋ならそこの屋台で肉を食っていたぞ」
「ありがとう。渚、行きましょ」
「うん」

ナミと渚はルフィの元へ歩いていく。ローは彼女たちの後姿をじっと見つめていて、それに気づいたサンジとゾロはローの前で足を止めた。サンジは煙草を持った手でローに指差す。

「うちのレディ達に手を出すなよ」
「誰が出すか」
「ナミさんもロビンちゃんも渚ちゃんも、みーんな美しいからな」

呆れたと言わんばかりにローは溜息を吐いたが、ゾロは彼のその行動に眉を寄せた。

「渚のこと仲間に誘ったそうじゃねェか」
「何ィ!?」
「……ああ」

ローは遠くで笑っている彼女の方へと視線を向けた。タイミング良く振り返った彼女は、彼と目が合い驚きつつも微笑みながら自身の顔の前で手を振った。その仕草にごくりと喉を鳴らした彼を2人は見逃さなかった。

「まさか渚ちゃんに気があるんじゃねェだろうな」
「……黒足屋には関係ねェだろ」
「トラ男、テメェ何歳だ」
「突然何だ。……26だが」

ローが自分の年齢を答えると2人はニマァと口角を上げた。

「何だ」
「あいつ、年下は恋愛対象外らしいぞ」
「は? お前らは年下だろうがおれには関係ないだろう。そもそも誰があいつの事なんて……。待て、あいつはおれより年上なのか?」
「27だとよ。残念だったな」

まるで慰めるかのようにゾロとサンジはローの肩に手を置いて、ルフィ達の元へ歩いて行った。残された彼はふざけんじゃねェ、と頬を引きつらせた。


一方、屋台で肉を食べていたルフィの元にナミと渚がやって来た。2人を見た店の男は目をハートにしてサービスだと2人にジュースを差し出し、それを喜びながら受け取る2人。

「ナミと渚じゃねェか。なにしてんだ?」
「あんたを探してたのよ。そろそろ出航するでしょ」
「おう、行くぞ!」

肉をたらふく食べたルフィの後に皆が続く。
渚は足元の段差に気付かず躓き地面に膝をつきそうになる。しかしゾロが彼女の腕を引っ張り転ばずに済んだ。彼女はホッと息を吐くのと同時に自分の手に持っていたジュースの存在を思い出した。

「ゾロ、ありがと。……あれ? ジュースは?」

彼女の手から落ちたジュースは石ころに変わり、地面に落ちていた。ジュースを探す彼女の前に、ローがそれを差し出した。遠くにいた彼が何故それを手にしているのかと目を丸くした。

「今、なにが起こって……」
「おれの能力だ」
「え!! すっごい!」

ローは悪魔の実の能力者で物の位置を入れ替えることが出来ることを彼女に教えた。以前麦わらの一味の心を入れ変えられたこともあり、大変だったとナミが彼女に伝えていた。

目をキラキラさせてもっと能力を見せてほしいとお願いした彼女にローは応えようとするが、麦わらは彼女の腹に腕を伸ばしグルグル巻きにして自分の方へと引き寄せた。そしてそのまま彼女を抱えたまま、行くぞ!と走り出す。

船長の後を追って走る一味を見つめ、ローは帽子を深く被りなおした。