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 「ねえ」秋のちょっと後ろを歩きながら、琉奈は彼に声をかけた。「なんで護豪業人になろうと思ったの」

 まだ黒い血の付着した彼の右腕を一瞥する。血も砂になるという彼の言葉通り、返り血も少しずつ剥がれ落ちていっているようだった。秋が一歩踏む度に、キラキラと粒子が飛散する。

「わかんね」


 先ほど坂の下に居た男が、秋を見つけてに駆け寄って来た。「もう終わったのか、ありがとうよ、助かった!」とたいそう嬉しそうに言って、秋の肩をぽんと叩いた。秋はただ「お安いご用だ」とだけ応えた。


「……ああやって、人に感謝される仕事よね、護豪業人って」

 人に感謝されたくて―――秋がそんな動機で護豪業人をやっているとは到底思えなかったが、訊いてみた。

「感謝、ねェ。……まあ、強ければ強いほどチヤホヤされンのは確かだけどよ、そんなの後付け≠カゃねェの?
 オレたちは戦うしかねェ。―――戦って、好かれようが嫌われようが、どっちだっていいんだ」

「……ふうん」

 生きてる次元が違うのだなと、いちいち痛感させられる。なんにもかける言葉が無くて、琉奈は黙って彼の後ろを付いて歩いた。



「ついでだし、タワーに行くか」

 秋は空を指差した。見遣るとちょうどタワーが見えた。天空からぶら下がっているみたいだ。果てしなく遠くにあるような気がする。

「迅を助けにいかなくて大丈夫?」

 琉奈の問いかけに、秋はケケッと愉快そうに笑った。

「そういや、迅に助けられることはあっても、迅を助けたことなんて、一度もねェな」

 生ぬるい風が頬を撫でる。黒い砂が煌めきながら空の向こうへ消えていく。そこには嵐の予感が見えた。けれど、希望の光をも見ることができた。脚の痛むのを我慢して、琉奈は秋の後ろに付いて歩く。何も考えてはいけないような気がした。何も考えなければ、果てしなく遠い場所にも、いつの間にか辿り着いていることだろう。






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