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 大刀をぶんと振り下ろすと、刀身に付着していた血液がぼたぼたっと飛び散った。赤いインクを溢したみたいに、一面、朱に染まっている。琉奈はしばらく突っ立ったまま、ぴくりとも動かずに居た。不快な鉄の臭いがする。息絶えた化け物がそこらじゅうに転がっている。そして、次第に朱が黒色に変色していくのに気が付いた。死骸も、溶けるようにだんだんと貌を失っていく。少しずつ、少しずつ。

「幽云は死ぬと砂になる」

 秋は物騒な大刀を背中の鞘に収めながらそう言った。琉奈は彼に視線を遣ろうとはしなかった。

「肉も骨も血も、砂になる」

 どんどん、どんどん、周りの景色が黒ずんでいく。けれど、汚い黒ではない。木漏れ日を反射してキラキラと光っている。

「黒くて、細かい砂になって、」

 秋は慈しむように言った。



「―――空に還るんだ」



 木の葉が揺らいだ。

 十二体の幽云が全て砂に変わるまで、そう時間はかからなかった。目の前をキラキラと舞い天に昇っていくその黒い砂を、琉奈はじっと仰ぎ見る。―――綺麗だと、思った。


「任務完了だ」

 言って、秋が踵を返した瞬間だった。来た道に幼い少女が立っていて、秋と目が合うと、彼女は途端に泣き喚いて逃げ去って行くのだった。

 無理もない。


 ―――どちらが化け物≠ゥ、琉奈にだって判らないほどだったのだから。


「こんな血塗れの男に出逢ったら、誰だって逃げ出すわ」


 琉奈が言うと、秋は「はは」と嗤って歩き出した。何もかも観念して、全てを投げ出したかのように、感情のない乾いた笑みだった。






  
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