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『緊急。緊急。庚里(コウリ)北西部4号地において、一般人より幽云群に遭遇との入電有り。数および形態は不明。直ちに急行し、確認また撃退せよ。繰り返す―――』


 談話室で待っている。散歩がてら外に連れてってやるから、服を着たらさっさと来いよ。という秋の仰せの通り、琉奈は服を着るとすぐに談話室へ足を向けた。そして、ちょうどそこに秋と迅の姿を認めた時、彼らの無線機からザザザッという雑音と共にそんな報せが飛び込んで来たのだ。

 秋は僅かに照れた様子で琉奈を見たが、無線機から音が鳴ると、本来の自分を取り戻したかのように真剣な顔付きになり、彼女からぱっと視線を外した。

「庚里の北西4号地って、ここから目と鼻の先じゃねェか」

 言って、彼はすくっと立ち上がり、ソファに立て掛けてあった愛用の大刀を肩に提げた。―――琉奈はなんだか置いてきぼりにされた気がした。

「僕も行こうか?」

「いンや、平気だ」

 彼の頭の中にはもう幽云のことしか無いようで、去って行く背中はこちらを振り返ることもなかった。

 使命を帯びた戦士が、駆けてゆく。

 ―――彼の姿が闇に掻き消されるのとほぼ同時に、再び無線機がザザザッと鳴いた。


『緊急。緊急。タワーから霞巽スキルドマスター各位へ。庚里南東部2号地において、常駐の護豪業人よりスキルドマスターへ救援要請有り。至急向かわれたし。なお、幽云は進化形態2番が三体。進化形態2番が三体』


 これを聞いて、暗闇から秋が叫ぶ。

「迅!」

「わかった、僕は救援要請に当たるよ!」

 談話室がただならぬ雰囲気に包まれる。琉奈は、自分がどんどん置き去りを食っているのを身に染みて感じていた。まるで蚊帳の外だ。いや、実際に蚊帳の外に居るのだ。何もできない。傍観者だ―――。



「琉奈!」



 いきなり名前を呼ばれて、すぐには反応できなかった。二、三度呼ばれて琉奈ははっと声の主へと視線を向けた。

 秋が、地上へ続く薄暗い階段から、ひょっこり顔を覗かせている。「来い」と言っているらしかった。

「え、私も行くの、なんで―――」

 驚きのあまり逡巡していると、迅に手を掴まれた。にこりと笑って彼は言う。

「琉奈をひとりにしておけない」そこには優しい温もりがあった。「僕らと居るほうが、きっと安全だから」

 ね、と言って迅が微笑むと、魔法にかけられたみたいに琉奈の足は自然と前へ動いた。

 それを見て秋は踵を返し再び駆け出した。真っ暗闇の中で、琉奈は、その背中を感じながら確かに進んだ。側壁に触れると手の汚れるのを知っていながら、それでもがむしゃらに進むしかなかったのだ。






  
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