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 医療棟はたいして混雑してはいなかったが、受付で「学を出せ」と言うと、申し訳ないが少し時間がかかると言われた。龍は仕方無く待っていることにしたのだが、そこで、ひとりの男に出会った。

「きのうぶりー」

 男はへらへらとそんな挨拶をして腰に提げていた刀を外し、龍の隣にどかっと座った。

「何か用か」

「なんでさ。俺が白衣の天使に呼ばれるのを待ってんのがそんなに不思議か?」

「戦いもしねえテメエがここに居るなんざ、誰かに用か、冷やかしとしか思えねえよ」

「おお鋭いこと。実は龍、お前に用があったのだよ」

「……わざとらしい。栄泉に入った瞬間から俺を尾けてたろうが」

 龍は舌打ちをして、そっぽを向いた。―――彼に隠し事を悟られぬために、だ。

「何が知りてえんだ、耀。お前が喜ぶ情報なんざ俺は持ってねえぞ」

 耀の眼は、全てを穿たんと輝いている。見透かされる。何もかも、彼の前では―――。



「 砂里 」



 耀は短く言い放って、にやりと笑った。龍の目は瞬きもしない。至って堂々としている。


「……がどうした」

「行ったんだろ?」

「誰に聞いた」

「俺が掴んだ情報さ」

「仕事が早えな。護豪業人辞めて、いよいよ情報屋でも始めようってか?」

「まあな。でもこれだけじゃあ誰も買ってくれねぇよ」

「……言ったろ。お前が喜ぶようなネタはねえよ」

「ほんとか?」

「ああ」

「じゃあ、砂里で起こってる、護豪業人の失踪事件については何か知ってるか?」

「知らねえよ」

「……そうかい」

「悪いな、転職に協力できなくて」

「いや、十分さ」

 向こうに、学が見えた。彼は二人に気付いて寄ってくる。

「なんだ、龍、お前も学に用事か?」

「……お前も、って―――」

「きのう俺、お前に会った後にさ、秋にも会ったんだよね。あいつも学に用事があるってんで、俺に構ってくれなくてよ」

 龍は少しはっとした。

 心の中で畜生、と吐いた。



「秋の野郎、何か隠してたぜ?」







  
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