09

 
「オメーの部屋、シャワーなんか付いてンの」

 歩きながら秋は問うた。

「うん、あったよ。あんたのとこには無いの?」

 歩幅は、琉奈に合わせてやる。

「ねぇよ。風呂は共同―――あ、ここ」

 秋はつと進行方向右側の扉を指差した。琉奈は一瞥して「ふうん」とだけ返した。秋の身体が邪魔で、あんまりよく見えなかったのだ。

「………………」

 二人して黙っていると、すぐに突き当たりに到った。琉奈の部屋は右手、秋の部屋は左手に在る。つまり二人の部屋は向かい合いに在るのだ。

 琉奈は自室の扉に手を伸ばして、ほんの少しだけ秋のほうを振り返った。

「……じゃあ、」
「何考えてンだよ」

 ―――秋は意図的に、彼女の声に自分の声を重ねたように思われた。だから琉奈は手を止めないわけにはいかなかった。

「……何が?」

「さっきから、何か考え込んでねェか」

 秋は気怠そうな目をしている。

 だが、真剣な表情だった。

「私が?」

 考え込む、だなんて大層な表現は正解ではないように感じたが、しかし、色々と思うところがあったのは事実だ。またそれを秋に―――こんな鈍そうな男に指摘されたのが、驚きだった。

「あのね。私だってちゃんと考えて生きてんのよ。何も考えてないとでも思ってたの?」

 琉奈はくるりとその身を秋のほうに向けて、言ってやった。

「そうじゃねェよ」

「だったら何なの」

「だから、アレだ、その、なんて言うか……」

 急にしどろもどろする秋を、琉奈は怪訝そうに見つめる。その彼が手に持っている太刀を除けば、秋はただの少年≠セ。


「……何も心配すんなっつーことだよ」


 ただの少年みたいな戦士≠ェそこに居るということが、どれだけ琉奈の心をほぐしてくれるか、彼女自身、理解している。

 けれど、彼のあくびにつられるみたいに、彼がいちいち耳を真っ赤にするのを見ると、こちらまで頬が染まるから、いつもちゃんと面と向かって話ができない。


「……ぷっ」

「なんで笑うンだよ」

「いや、なんか、格好良いこと言うんだなと思って」

「う、うるせーな、さっさと寝ろ」

「寝るのはあんたでしょ」

「……んと可愛くねェ女」

 琉奈が再び扉のほうに向き直ると、秋も、自室のドアノブに手をかけた。

「起きたら連れて行きなさいよ、外に」

 今度は琉奈の声に、秋がぴたりと手を止める。


「……へえへえ、あとで≠ネ」


 ばたん、と同時に扉は閉まった。







  
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