04
咄嗟に彼女は身を強張らせてぎゅっと瞼を閉じた。
迫り来る「肢」の尖端は、悪鬼羅刹か魑魅魍魎を思わせる。───「獣」の域を越えているのだ。
「いやあっ!」
と、
彼女が声を振り絞った その時だった。
ドシュッ と、
聞き慣れない音がして───
一段と強かな風が
彼女の目の前を通過した。
「…………───」
彼女は徐に瞼を持ち上げる。
まず視界に飛び込んできたのは、一面赤黒く染まった大地。
それから───
「怪我、してねェよな?」
右手に大刀を握り締めた、ひとりの少年の姿。
その極悪非道な「凶器」は、柄のほうまで真っ赤に染まっている。───彼が、「黒い塊」をそれで斬ったのは明白であった。
黒い「肢」は真ん中あたりで真っ二つに裁断され、ドロリと血を垂らしている。
「…………っ」
彼女は思わず口元に手をあてがい目を逸らした。気持ち悪いものが、喉の奥から込み上げてくる。
立て続けに起こる理解不能な出来事に、彼女の脳は、遂に思考を停止させてしまった。「頭が空っぽ」という表現が、まさに今の彼女にはぴったりであった。
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