04

 咄嗟に彼女は身を強張らせてぎゅっと瞼を閉じた。

 迫り来る「肢」の尖端は、悪鬼羅刹か魑魅魍魎を思わせる。───「獣」の域を越えているのだ。


「いやあっ!」


 と、
 彼女が声を振り絞った その時だった。





 ドシュッ と、
 聞き慣れない音がして───



 一段と強かな風が
 彼女の目の前を通過した。





「…………───」

 彼女は徐に瞼を持ち上げる。
 まず視界に飛び込んできたのは、一面赤黒く染まった大地。

 それから───





「怪我、してねェよな?」





 右手に大刀を握り締めた、ひとりの少年の姿。

 その極悪非道な「凶器」は、柄のほうまで真っ赤に染まっている。───彼が、「黒い塊」をそれで斬ったのは明白であった。

 黒い「肢」は真ん中あたりで真っ二つに裁断され、ドロリと血を垂らしている。

「…………っ」

 彼女は思わず口元に手をあてがい目を逸らした。気持ち悪いものが、喉の奥から込み上げてくる。

 立て続けに起こる理解不能な出来事に、彼女の脳は、遂に思考を停止させてしまった。「頭が空っぽ」という表現が、まさに今の彼女にはぴったりであった。





  
4/63



「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -