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〈1〉
朝はすんなりやってきた。
地下に居る所為か、朝だという実感は湧かない。なのに、琉奈(ルナ)は自分が寝過ごしたであろうことには何となく気が付いた。
談話室へ向かうと、そこには既に秋(シュウ)が居て、せっせと刀を磨いている。一メートルを越す巨大な刀身は、隅から隅までピカピカだ。
「よう」
彼は琉奈を見るなりそんな短い挨拶をした。
「迅(ジン)はもう出たぜ。龍(リュウ)も呼び出されて、ついさっきタワーに向かった」
琉奈はこくりと頷いて、秋の向かいのソファに腰を下ろした。彼があんまり熱心に愛刀を磨いているので、話しかけて良いものなのか、ちょっと迷う。
「寝坊しちゃった」
「いいよ、どうせ待ってるしかねェんだから」
昨晩、秋は、琉奈がちゃんと寝付けたか心配になって、何度か彼女の部屋の扉に耳をそばだてる場面があった。部屋から物音がしなくなると、寝たか、と少しほっとしたが、静かなのはそれはそれで不安だった。生きてるかと問いかけたくなった。
だから結局、寝付けなかったのは秋のほうだ。いつもは一晩や二晩眠らないだけならなんてことはないのだが、今朝は何だか肩が重たい。
「……迅、大丈夫かな」
「心配すンな。上手くやるさ」
時刻は午前九時を回った。
護豪業人(ゴゴウギョウニン)総轄局―――通称タワー≠ヘ、この時間から大方の通常業務を開始する。手筈通り事が進んでいれば、迅は今頃、〈頭脳派〉のお堅い面々と対峙していることだろう。
「……ねえ」
「あン?」
「迅も、その、スキルド何とかってやつなのよね?」
「スキルドマスター」秋は素早く訂正して答えた。「きのう説明したろ。オレたちは三人とも、全域担当≠フスキルドマスターだって」
そうだ。琉奈はそれを聞いてぎょっとしたのだ。秋や龍ならまだしも、迅が―――あんなにも愛らしい少年が、凶器を手に勇者よろしく振る舞っているなんて、俄には信じがたい。というか、想像できない。
「だったら迅も、そういうの℃揩チてるの?」
琉奈は秋の愛刀を指差した。
秋も一瞬琉奈を見てから、彼女の指差すほうを見た。すると視線は行って帰ってきただけだった。
「迅がそんなの振り回してるなんて、考えられない」
秋はきょとんと間抜けな顔をしている。だのに手元の刃はギラギラ光っていて、それはそれは剣呑な画であった。
「―――迅に聞いてねェの?」
彼はまた琉奈のほうへとまた目を向けた。眉間に皺が寄っているが、垂れ目がちな所為か、やはりどこか締まらない。
「何を?」
ただ、腕の筋肉はやたらと引き締まっていることを、琉奈は昨夜知ったのだ。逞しい前腕に血管が這っているのを見ると、図らずもどきりとしてしまう。そんな自分が恥ずかしいからできれば見たくないのだが、彼はシャツの袖を捲り上げないと気が済まない質のようで。見せ付けられているみたいで鬱陶しい反面、やっぱりどうしても視線がいった。
「迅がサッケンシだってこと」
―――ほらまた。
見惚れていたら聞き逃した。
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