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 琉奈は一頻り笑うとすっきりしたのか、一転、穏やかな表情になった。それからゆっくりと田の字の窓に歩いていって、外の景色を眺めながら口を切る。

「さっき、」

 妙な間が空いた。

「監視してるのかなんて嫌味なこと言ってごめんね」

 空はどんどん暗くなる。
 陽が落ちて、落ちて、落ちてゆく。

「別に気にしちゃいねェよ」

 小屋の中もずいぶん薄暗くなったので、秋はそっと明かりを点けた。

「逃げ出してやろうと思った―――というか、ついさっきまで、ここから逃げ出してやるつもりだったの」

 鳥の鳴き声がする。

「でも龍に、」

 また妙な間が空いた。

「見つかって」

 秋が「何か言われたのか」と尋ねると、琉奈は小さくかぶりを振った。

「何も。……何も言わなかった」

 きっと龍は分かっていた。琉奈がアジトを出て行こうとしていることも、彼女の不安も、恐怖も。それでも琉奈を引き止めなかったのは、彼の優しさかもしれないし、もしかしたら単に無関心で冷たい性分であるからなのかもしれない。


「そういう奴だよ、アイツは」

 棘のある言い方ではなかったが、その言葉の意味が気になって、琉奈は秋のほうを見た。

「アイツは、何かを護るってことは、ずっとそいつの傍に居るってことじゃねェんだと解ってる。だから自由にもしてやれる。―――それは、オレや迅にはない強さ≠セ」

 言って、なんだか悔しくなったので、秋は眉根を寄せてちょっと口を尖らせた。

「まあ、けどよ、オレも龍も迅も、護るって決めたモンは絶対に護る。何があっても護り抜く。お前が、ここがもう嫌でオレたちとなんか一緒に居たくねェってんなら話は別だが、」

 今度は秋が妙な間を空けた。

「その、なんだ、」

 ぽりぽりと頬を掻きながら、斜め下を睨んでいる。

「……窮屈かもしンねぇけどよ、」

 そんな彼を見て、琉奈はまた可笑しくなった。


「オレたちがちゃんと護ってやっからさ」

 窓の外で木の葉がざわめいて、鳥の鳴き声がぴたりと止んだ。


「だから―――」
「うん」


 言おうとした言葉はこっ恥ずかしくて言えなくて、けれど彼の思いやりには応えなければと感じて―――。




「しっかり護ってよね」




 そんな言葉が、口をついて出てきたのだった。





  
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