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受付嬢は窓口の向こうで、受話器を片手に、しどろもどろしながら喋っている。時折「はい、はい、申し訳ございません」と、見えない相手にペコペコ頭を下げたりもした。
結局、先方の回答は「ノー」だった。それを迅に告げる時も、彼女は「申し訳ございません」を繰り返した。そこまで謝られてはグウの音も出ない。駄目で元々。迅は「気にしないでください、どうもありがとう」とお辞儀をしてからカウンターを離れた。
タワーの中心を貫くぶっとい円柱には、護豪業人の間でちょっとした噂がある。―――実はこれが単なる柱ではなく、何らかのエネルギー装置≠セというのだ。ここから一種の電磁波が放たれていて、首都〈栄泉〉に結界を張っている、という。が、迅はそれを信じてはいない。だってこれ≠ヘ見るからにただの石だ。触っても、におっても、ただの石だ。特殊な何かが放たれているのなら、気付かない筈がない。この中にあるのはせいぜい鉄筋とか、合金とか、そんなものだろう。
「監理システムに何の用だ?」
そんなただの£撃フ陰から、声がした。柱を囲むようにして置かれたソファに、見知った顔が見える。「悪戯するなら手を貸すぜ」とでもいわんばかりにニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべている。
「やぁ、久しぶりだね、耀」
「そうかぁ?」
耀は、今日は既に龍にも秋にも会ったことを愉快そうに聞かせた。それについて迅は「君は基本的にタワーに居るものね」と、さして珍しくないことであるかのように聞き流した。彼が「久しぶり」と言ったのも、だから本当は、たいして久しぶりではない。最後に会ったのは四日前だ。
「―――で? 監理システムで欲しかったのは、どういった情報なんだ?」
耀はガキ大将みたいに目を光らせた。
彼が情報通≠ナあることは仲間内でも有名だ。どこから仕入れて来たかは定かではないが、とにかくあらゆる分野に関して、それこそ噂<激xルのものから実証済みのあれこれまで、耀は膨大な情報を持っている。
その中にはタワーのかなり上の立場にある職員でなければ知り得ないようなものもあって、キミは一体何者なんだと疑いたくもなるほどだ。
だから迅は、本当のことの全てを言わなかった。
「ここ数日〈砂里〉で起きた出来事について、タワーが何か隠してるんじゃないかと思ってね」
耀は少しも訝ることなく、悪戯大歓迎≠フ表情のまま、「そいつぁ興味深い」と言って立ち上がり、迅の脇を通り過ぎた。
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