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琉奈はベッドが軋まないようにそろりと身を起こし、天井の真ん中に吊るされた裸電球が放つ光に目をやった。何てことない景色だ。が、時折チカチカと点滅するそれに、なんとなく視線を奪われてしまった。裸電球は今にも死にそうだった。単に寿命であるのか、あるいは、久しく点灯されなかった所為で光り方を忘れてしまっただけなのか。
ずうっと見ていると、目がおかしくなりそうだった。それでもまだ見つめていたい気がしないでもない。琉奈は目線を変えずゆっくり立ち上がって、何度かぱちりぱちりとまばたきをした。瞼の裏にはくっきりと残像が見える。ああ、こんな弱々しい光でも―――。
急に、なんとかしてやりたくなった。すっと手を伸ばして、裸電球に触れようと試みる。天井はたいして高くない。背伸びをすると容易く届いた。白くて細長い指が、熱を帯びたガラスに触れる。その温かさは、人肌を思わせた。炎のように熱くはない、けれど氷のように冷たくもない。―――なんだか、なんだか懐かしい、ぬくもりだった。
電球は細い指に押され、ゆらりと揺れる。そしてまたチカっと点滅して、さっきよりもっと光を弱めてしまった。琉奈は何かに気が付いて、一旦背伸びをやめた。それからまたうんと背伸びをして、今度は電球のガラス部分を優しく掴み、右に捻った。接続部がキュッと耳に障る鳴き声をあげたかと思うと、光は途端に強くなった。
どうやら、そういうことだったらしい。琉奈はちょっとだけ驚いて、眩しさに目を細めたが、言い知れぬ達成感のようなものが彼女の胸を占拠していた。裸電球は、振り子みたいに小さくゆらゆらと揺れ続けている。歓声でも聞こえてきそうなほど、嬉しそうに見えた。
部屋は一気に明るくなった。
光を、思い出したのだ。
たった一つの灯りで、
世界の色が変わって見えた。
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