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泣くのを止めた。泣いたところで「夢」は覚めなかったからだ。まだ心のどこかで希望を持っていた。―――目覚まし時計が耳元でけたたましく鳴り響いて、私ははっと目が覚める。そしてのっそりとベッドから抜け出して、いつものように、学校へ行く支度をするの。何事もなかったかのように。こんな「夢」など忘れてしまって、私はあのくだらない毎日を取り戻す―――そんな、とびきりつまらない結末≠思い描いていた。
けれどどうやらその結末≠ヘまだ先のハナシらしい。何度まばたきを繰り返しても、目の前の景色は変わらなかった。目覚まし時計のベルの音は、どれだけ耳をすましても聞こえなかった。
しばらくの間、私は頭を空っぽにして人形のように固まっていた。この薄暗い、しんとした空間に、息を潜めるように。綺麗に整えられたベッドに倒れ込むと、やはり骨組みがミシッと呻いた。それは悲痛な叫びに似ていた。
「―――……ああ、もう」
砂っぽいにおいがする。
肌はベタベタするし、髪の毛がまとわりついて鬱陶しい。土足で居ることも、不快だ。
シャワーを浴びたいと思った。
「うん、そうしよう」
そして、私の中の小さな小さな冒険心がこんなことを言ったのだ。
―――怖くなんかないわ。
さあ、勇気を出して此処から飛び出さなきゃね。
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