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龍は最後に涼しい顔をして、吐き捨てた。「俺は手ぇ貸さねえけどな」
そして野郎は自室へ消えた。本当に何もしない気だ。―――もちろん、助けてくれ、なんて言うつもりは毛頭無いのだが。
もう嗚咽は止んでいる。迷ったが、しばらくそっとしておくことにした。それからちょっとだけ考えてみた。―――例えば自分が、知らない世界へやって来てしまって、知らない人間に囲まれて、見たこともない化け物に襲われたら、どうだ。
どうして来たか解らない。どうやって来たかも判らないから、どうやって帰るかも判らない。いつになればこの「夢」は覚めるのかと、きっと心は急くだろう。長い長い絶望が、心を支配するに違いない。
オレなら、発狂するかな。
―――そんなことを考えると、ふと、あんなに華奢で見るからに脆そうなあの女が、実はとても強いんじゃないないかと思い至った。
だからこそ、
泣き声が耳にこびりついて離れなくなったのだ。
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