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砂里に入って二、三分走ったところで、不法侵入者を発見した。───正確には、「不法侵入者が幽云に襲われている」のを目撃したのだが。
『言わんこっちゃねェな』
幽云に凄まれて完全に腰を抜かした不法侵入者は、逃げることも出来ず、ただ小刻みに身体を震わせていた。───女だと気付いたのは、その時だ。無駄に華奢な女だった。
『いやあっ!』
女は最後の力を振り絞るみたいに、叫んで、顔を背ける。
一瞬、その長い髪が、空中を彷徨った。
幽云の腕が、女に伸びる。
オレは柄を握る手に力を込めて一気に突っ込み、幽云と女の間に割り込んだ。───幽云をぶった斬ると、異常な量の血が飛散する。それが女にかかるのを防ぐためだ。
『………………!』
振り下ろした刃は、鈍い音とともに幽云の右腕を弾き飛ばした。
と同時に、眼下に赤黒い血溜まりができる。
『怪我、してねェよな?』
立てないようなら手を貸してやろうかと思ったが、やめた。───この女は、血だらけのオレの手なんかきっと取らないだろうから。
『………………』
不法侵入者とはいえ女なので、ボコるのもナシだ。このまま砂里から追い出して、もしタチの悪い女ならタワーに突き出そう。
───しかし。
女が単なる不法侵入者≠ナないと知ったのは、その少し後のことだった。
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