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談話室(一般住宅だと居間にあたる)はがらんとしていた。
時刻は午前八時過ぎ。
任務の要請も無いのでソファーに寝そべって『オレももう十八か』などと物思いに耽っていると、案の定、心地良い二度寝に突入してしまったのだ。
次に目が覚めた時には、あれからもう分針が三周ほどしていた。
しかも───
『寝るならテメエの部屋で寝ろ』
向かいのソファーには龍が居て、こちらも見ずにそう吐き捨てた。
『……お前だって今まで寝てたクセに』
体を起こし、頭をぼりぼり掻きながら言い返すと、龍は『俺はきのう遅かったからだ』と冷めた眼をした。迅と違って奴は滅多に笑わないし、オレと違って口数も少ない。───護豪業人であるということを除いて、オレたちには共通点が殆ど無いのだ。
しかし、だからこそ、上手い具合に均衡を保っているのかも知れない。
それから間もなくのことだった。まず龍の通信機が鳴り、任務が出された。オレたちが拠点とする地域霞巽≠フ東に隣接する砂里≠ニいう砂漠地帯において、人間の存在を確認したというのである。砂里は楼蕊随一の「幽云多発地帯」であるため、一般人の立ち入りは禁止されている。そのド真ん中で人間らしきものの存在を感知したので、連れ戻せ、という内容の任務だった。
そして間髪入れずにオレの通信機も鳴り響いたのだが、オレへ充てられたのが、霞巽よりさらに南に位置する地域での幽云討伐任務で、北のタワーに用があるオレとしては、まあ、ぶっちゃけ不都合だったわけで。
そんなこんなでオレは、龍と任務を取り替えっこ≠オて、砂里へ向かうことになった。オレのなかでは、砂里でその不法侵入者とやらをとっ捕まえて軽くボコって追い出して、その足でタワーに行って科学局に───という予定だった。
しかし、そんなものは所詮「予定」でしかなくて。ふと気付いた時にはもう、オレは───いや、オレたちは、狂った歯車の中に居たんだ。
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