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何も変わらない朝だった。
自室を出るとちょうど迅と鉢合わせして、当たり前のように 当たり前の挨拶をした。『おはよう』
それから迅は『誕生日おめでとう』と、挨拶の延長線上みたいにさらっと言った。オレは言われて初めて気が付いた。ああ、今日はオレの誕生日か、と。
過ぎてく日なんか数えやしない。いつか来る何月何日を待っているわけでもないんだから。───オレが指折り数えるものは、斃した幽云の数だけだ。
『僕は今から任務に出るけど、秋は?』
『いンや、オレは何も。もうちょい陽が高くなったらタワーに行く』
『そう。僕もお昼には片付くよ。帰ったらみんなで誕生日のお祝いしようね』
『や、やめろよハズいだろ!』
『もし龍が任務に出たら言っておいて。早く帰って来てね≠チて』
『言えるかァ!!』
───何も変わらない朝だと思った。けれど、たった一つの小さな歯車から、少しずつ、少しずつ、世界は違う轍を描く。
オレたちの 知らぬ間に。
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