29

「あ、そうだ」

 迅はつと私に目を遣った。

「どうして僕は武器を持ってないかって話だけど───」

 と、その時。



「っあー!」



 そんな叫び声と同時に、小屋の扉が勢い良く開いた。

 私は驚いて一瞬首を引っ込めたが、迅はさして驚いてはおらず、徐に振り返って「おかえり」と微笑む。

 そんな彼の向こうをひょいと覗くと、不機嫌そうにずかずかと小屋に入ってくる秋の姿が見えた。

「どうしたの」と迅が尋ねる。

「どうもこうもねェっての。なんで鞘ひとつにあれだけの金払わなきゃいけねェんだよ!」

 ぼったくり連中が!
 と、秋は吐き捨てた。

 そういえば、今の彼は数時間前とは違い、あの大きな凶器をちゃんと鞘に収めている。その鞘は見るからに頑丈そうな革製で、便利なことに肩から斜めに提げられるベルトまで付いている。

 左肩からひょっこり見える大刀の柄には、ほんの少し、臙脂色が付着している。───私を助けた時についたのだろうか。

「しょうがないよ。その革、貴重なものなんだから」

 宥めるように迅が言うと、秋は「それにしたってアレはねェぜ」と口を尖らせた。あどけない感じがするのは迅のほうだけれど、子供っぽいのは秋が勝る───子供っぽいというか、ガキっぽいというか。

 私が黙って窺っていると、ちらりとこちらを見遣った秋と目が合った。気怠そうに見えるのは単に彼が垂れ目だからか、それとも、私が彼に疎まれている所為か。

「……話、聞いたか?」

 どこか遠慮がちに、秋は私にそう問いかける。

 私は「だいたいのことは」と答えた。

 すると彼は愛想無く「そっか」と応えて須臾黙り込み、ぽりぽりと頭を掻きながら、



「お前、オレたちが保護することになったから」



 と告げて、すっと私から視線を逸らした。






  
29/63



「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -