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「あ、そうだ」
迅はつと私に目を遣った。
「どうして僕は武器を持ってないかって話だけど───」
と、その時。
「っあー!」
そんな叫び声と同時に、小屋の扉が勢い良く開いた。
私は驚いて一瞬首を引っ込めたが、迅はさして驚いてはおらず、徐に振り返って「おかえり」と微笑む。
そんな彼の向こうをひょいと覗くと、不機嫌そうにずかずかと小屋に入ってくる秋の姿が見えた。
「どうしたの」と迅が尋ねる。
「どうもこうもねェっての。なんで鞘ひとつにあれだけの金払わなきゃいけねェんだよ!」
ぼったくり連中が!
と、秋は吐き捨てた。
そういえば、今の彼は数時間前とは違い、あの大きな凶器をちゃんと鞘に収めている。その鞘は見るからに頑丈そうな革製で、便利なことに肩から斜めに提げられるベルトまで付いている。
左肩からひょっこり見える大刀の柄には、ほんの少し、臙脂色が付着している。───私を助けた時についたのだろうか。
「しょうがないよ。その革、貴重なものなんだから」
宥めるように迅が言うと、秋は「それにしたってアレはねェぜ」と口を尖らせた。あどけない感じがするのは迅のほうだけれど、子供っぽいのは秋が勝る───子供っぽいというか、ガキっぽいというか。
私が黙って窺っていると、ちらりとこちらを見遣った秋と目が合った。気怠そうに見えるのは単に彼が垂れ目だからか、それとも、私が彼に疎まれている所為か。
「……話、聞いたか?」
どこか遠慮がちに、秋は私にそう問いかける。
私は「だいたいのことは」と答えた。
すると彼は愛想無く「そっか」と応えて須臾黙り込み、ぽりぽりと頭を掻きながら、
「お前、オレたちが保護することになったから」
と告げて、すっと私から視線を逸らした。
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