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「俺、秋に嫌われてんのかな」


 どう思う?
 と、耀は受付嬢の一人に問い掛けた。受付嬢はやはりマニュアル通りの美しい笑顔で、「さあ」と首を傾げた。

「あいつ、絶対何か隠してたと思わない?」

 受付嬢は、「どうでしょう」と相槌を打つ。

「なーんか俺を避けようとしてたよね」

 受付嬢は、「そうですかね」と応えて困ったように笑った。

「学に用事、ってのも怪しいよなぁ」

 もうほぼ「独り言」に近かったので、受付嬢は相槌をやめ、微笑んで頷くだけにした。

「うん。絶対何か隠してる、あいつ。それも、俺に言えないようなこと」

 耀のほうも相変わらず緩んだ口元で。まるで「どうでもいいこと」みたいに淡々と言う。

「きっとそのことで学に相談しに行ったんだよ。俺には言わないけど、学には言うんだ。薄情な野郎だよなー」

 そう思わない?

 と、耀が訊くと、受付嬢はほんの少しも微笑みを絶やさず、「そんなこと、ちっとも思ってらっしゃらないくせに」と応えた。

 耀は目をぱちくりさせて、「聞き流されてると思った」と笑った。

「あなたが仲間を悪く言うような人ではないことも、あなたが仲間から悪く思われるような人ではないことも、存じておりますよ」

「はは! 年上のオネーサンにそんなこと言われちゃ、惚れちまうよ!」


 受付嬢は、にっこりと


「それも、思ってないくせに」


 微笑んだ。






  
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