26
◆
「俺、秋に嫌われてんのかな」
どう思う?
と、耀は受付嬢の一人に問い掛けた。受付嬢はやはりマニュアル通りの美しい笑顔で、「さあ」と首を傾げた。
「あいつ、絶対何か隠してたと思わない?」
受付嬢は、「どうでしょう」と相槌を打つ。
「なーんか俺を避けようとしてたよね」
受付嬢は、「そうですかね」と応えて困ったように笑った。
「学に用事、ってのも怪しいよなぁ」
もうほぼ「独り言」に近かったので、受付嬢は相槌をやめ、微笑んで頷くだけにした。
「うん。絶対何か隠してる、あいつ。それも、俺に言えないようなこと」
耀のほうも相変わらず緩んだ口元で。まるで「どうでもいいこと」みたいに淡々と言う。
「きっとそのことで学に相談しに行ったんだよ。俺には言わないけど、学には言うんだ。薄情な野郎だよなー」
そう思わない?
と、耀が訊くと、受付嬢はほんの少しも微笑みを絶やさず、「そんなこと、ちっとも思ってらっしゃらないくせに」と応えた。
耀は目をぱちくりさせて、「聞き流されてると思った」と笑った。
「あなたが仲間を悪く言うような人ではないことも、あなたが仲間から悪く思われるような人ではないことも、存じておりますよ」
「はは! 年上のオネーサンにそんなこと言われちゃ、惚れちまうよ!」
受付嬢は、にっこりと
「それも、思ってないくせに」
微笑んだ。
≪ ◎ ≫
26/63