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「お前、本当に暇なのな」
目当ての品を頂いて再び受付へ戻ってくると、耀はいけしゃあしゃあとソファーに腰掛けていて、「十分ぶりー」などと言いながらヘラヘラ笑うので、オレは思わずぶん殴ってやりたくなった。
何故同業者≠ナあるこいつがこんなにも暇なのかというと、それは、こいつが担当する区域≠ェ少々特別なものだからだ。
耀の階級は中央分布>氛氛沍セい換えれば、「首都とその周辺」の担当である。首都、つまりオレたちが今居るこの〈タワー〉や、政府の〈中央ビル〉を含む区域「栄泉(エイセン)」を任されるぐらいだから、こんなチャランポランでも一応それなりの戦士であるのだ。
が。
タワーが四六時中特殊な電波を放っている所為で、栄泉付近には殆ど(というか全く)幽云が出ない。しかしそれでは生活に苦しむのでは───と思ったか? 甘いな。
この中央分布≠ノだけは何故か毎月「特別報奨金」とかいう別途手当てが支給されている。恐らく、「タワーを守ってくれてありがとさん」的な金だ。これは野郎一人の一カ月くらいなら簡単に賄える額らしく、実際、耀は、ほぼ幽云になんか手を出しちゃいない。
こいつは護豪業人のクセに、闘争本能ってモンが大いに欠けているのだ。いや、もはや無いと言ってもいい。護豪業人としてはある意味異常≠ネ存在である。もしこの男が刀を抜いて勇んでいる姿を見たら、次の日は大雪か嵐だと考えてもらって結構。
「まだタワーに用事あんの?」
オレが前を横切ろうとすると、耀は長ったらしい脚を放り出してそんな問いを投げ掛けてきた。
「医療棟に行くンだよ」
「は? 怪我?」
「……違ェよ」
「あ、気になってる娘でもいんのか?」
「もっと違ェ!」
「だよなー。医療派の女の子に手ぇ出すと、学(ガク)の奴かなりキレっからなー」
「……その学に会いに行くンだけどな」
「…………え、あ、何? お前らって、そういう───」
「ンなわけあるか!! オレは女が好きだよ!!」
だだっ広いエントランスホールにそんな怒鳴り声が響いて、オレはとんでもなく恥ずかしい思いをした。
……本当に、一発シャレにならないほどの力でこの男を殴らせて欲しい。
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