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「ここに来るまでに、おっきな塔があったでしょ?」
タワー? と、私は応えた。
「そう。あれが〈護豪業人総轄局〉といって───……まあ、その名の通り、護豪業人をまとめて管理する所。
本当は、タワーで働いている人は殆ど護豪業人≠チて肩書きを背負ってるんだけど、今はその中でも〈戦闘派〉に属する僕らみたいな人間を『護豪業人』と呼ぶことが多い」
「……タワーには、他にどんな『護豪業人』が居るの?」
「研究を専門とする〈頭脳派〉と、医療を専門とする〈医療派〉があって、一番上には幹部が居る───ってハナシ」
え?
「幹部≠チて存在は、実のところ僕もよく知らないんだ。あの巨大なタワーのてっぺんに居るってハナシだけど、誰も見たことないしね」
あれだけ大きな組織のトップが、そんなあやふやなものだなんて。
「……豪って人じゃないの?」
私が至極妥当な線を言うと、迅はかぶりを振って「違う」と応えた。「だって、豪はもう三十七年も前に亡くなってるもの」
…………そうなの?
「護豪業人という組織が創設された当時、豪は二十七歳。その三年後に子供ができたんだけど───その子供が十歳になる年、豪は死んだ」
英雄≠ヘ、往々にして薄命なものだ。何故なら───
「人間に恨みを買って、殺されてしまった」
どこの世界も、哀しきかな。
「タワーがあるのと同じ区域内に、〈中央ビル〉と呼ばれる建物がある。そこに居るのは、この国の政府>氛氛沐゙らは、僕ら護豪業人を良く思ってはいないんだ。……まあ、正義を誓ったとはいえ、僕らは〈人間〉を捨ててるからね」
迅は、「仕方無いっちゃあ、仕方無いんだけど」と、複雑そうに微笑む。
「……豪は政府の人間に殺されたの?」
「僕は見たわけじゃないけど、そう伝えられてる。英雄は政府の罠に掛かって殺された、と」
私は言葉を失った。
渇仰の的が、そんなにもあっけなく死んでしまったことに。
「琉奈も、」
突然迅の声音が変わって、神妙な雰囲気になった。
「政府の人間には気を付けて」
誰かを恐喝するような───黒くて、強かな口調。
「彼らは、きっと君を狙う」
目つきも、さっきと違う。
「愛らしい少年」なんかではない。
「地球の人間だと知られてはいけない」
「戦士」の眼だ。
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