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耀はヘラヘラと笑いながら秋のあとを歩いた。───いや、ヘラヘラと笑っているように見えるだけで、彼本人は笑っているつもりなどないのかもしれない。
「なんでついて来るんだよ」
「暇だもん」
「やっぱ暇なンじゃねェか!!」
などとやり取りをしつつ、彼らはエントランスホールを突っ切って、正面の受付窓口まで歩を進めた。
「あら、困りますわ」秋の姿を見るなり、受付嬢が眉を顰めて言う。「刃物を剥き出しで持って歩かれては」
言われて、秋も言い返す。
「そのことで来たンだよ。開発部の連中に鞘≠注文してたんだが、届かねェ」
ちょっと連絡取って貰える?と、秋は台をコンコンと小突いて催促した。受付嬢を急かしているのではない。「開発部の連中」に苛立っているのだ。
「インテリ野郎は約束一つ守れねェのか」
開発部の正式名称は〈護豪業人頭脳派科学局開発部〉───護豪業人専属機関の一つで、開発部は〈科学局〉に属するその名の通りの部署である。
秋の言う「インテリ野郎」とはすなわち〈科学局〉に所属する職員たちのことで、彼らはタワーの中でもエキセントリックな集団として一線を画されているのだ。
「連中だって忙しいんだよ」
耀は秋の期待通り≠フ返答をした。
「お前はあのツルッパゲのジジイと仲良いもんな」
ツルッパゲのジジイこと陳(チン)は、〈科学局〉のトップに君臨するタワーの重鎮である。年齢不詳の怪しい老人だ。さらに〈科学局〉のトップということは、言い換えれば「エキセントリックの王者」でもあるので、そんな人間と仲良くしているなんてある意味希少種だ、と秋はいつも思っている。
そうやって、分け隔てなく人と接するのは彼のいいところでもあるが───。
「秋、お前何か隠してねぇ?」
時に、鋭すぎる彼の勘にひやりとしてしまうのである。
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