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人間を捨てた人間───。
「豪は、幽云の血を自らの体内に取り込んでいた」
迅はさらりと言ってのけた。
「幽云の血液中に含まれるMB-5≠ニいう物質には、獣じみた力と闘争本能を呼び覚ます性質があってね。それが豪の身体にも作用したんだと考えられた」
敵を斃すために、敵の力を借りる───いや、それどころではない。
自分自身を
敵と混ぜ合わせた≠フだ。
「………………」
難儀そうな顔をする私を見て、迅はクスリと笑った。「ある意味狂気だよね」
確かに。
「だから豪は初め、このことを秘匿していた。───化け物と呼ばれることを怖れたからじゃなく、」
これは賭けだ。
「化け物の血を借りて、自分がこのまま生きていられる保証がなかったから」
死んだっておかしくない。
だってそれは、「輸血」とは大いに違うんだから。
「けれど、彼の身体は一年経っても特に重大な異常を示すことはなく、それどころか、戦えば戦うほど自分が強くなっていることに彼は気付いた。───例のMB-5≠ノは、進化するという性質もあったんだ」
もうそうなってくると『人間の皮を被った化け物』とも言えそうだ。
「そして、豪はこの事実を世間に公表することを決めた。
そもそも豪は既に英雄≠セったから、いまさら何を公表したところで、非を打つ人は少数派だった。そして彼に共鳴し、幽云を斃すべく立ち上げられた組織───それが、」
〈護豪業人〉。
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