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 秋が無線機に向かって「話があるから上に@て」と言うと、無線機は少し訝るみたいに間を空けてから『わかった』と応えた。
 無線機からの声はとても中性的で、女性とも男性とも取れそうだが───「あどけない」と表現するのが適切であるようにも思う。その声の主が、秋の言う「説明上手な奴」なのだろうか。

 ……いや、その前に、「上に来い」というのは───



「名前、」



 私がひとりで思考に耽っていると、無線を切った秋がぽつりと呟いた。

 気怠そうな眼が、本日何度目かに私を映す。

「しくじンじゃねェぞ」

 お前の名前は琉奈だからな、と その眼が強く訴える。

「……今から来るのは、あんたの仲間なんでしょう?」

 そんな相手にも、姓を隠さねばならないのか。

「それでも駄目だ。
 現にオレは仲間の姓なんか知らねェし、仲間もオレの姓を知っちゃいねェ」

 はっきりと言い返されたところで、私が、出逢ったばかりのこの少年に本当の名前を名乗ってしまったことが、どれだけ重大な過ちであったかを教えられた気がした。

 魂の端を掴まれるのと同じ───そんな大袈裟な言葉が、途端に「大袈裟」ではなくなったのだ。



「でも、あんたは私の───」



 言いかけて、やめた。

 何故なら。



「どうしたの、秋」



 突然 床から頭が生えた───いやいや、正確には床が開いて≠サこからひょっこり人が現れた───からだ。

 私は驚いたが、声は出なかった。言葉を失って、口を閉じるのも忘れてしまって。
 そこでようやく、ここをアジト≠ニ呼ぶ理由を理解した。
 この小屋≠ェアジト≠ネのではない。



 この下≠ノアジト≠ェ在るのだ。






  
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