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 それから彼は慣れた様子で砂地を進んだ。後ろを行く私に注意を払いながら。右手には例の「凶器」を持ったまま。
 こうして彼の後ろ姿と比較してみると、その「凶器」がどれだけ巨大なものかよく分かる。柄を除いた刃の部分だけでも、恐らく一メートルを優に越すだろう。加えてその刃の形状は少しいびつで、刃先がツンと上を向いている───つまり、刀身自体が曲線を描いているのだ。
 刃の大きさに合わせてしまうと彼の手の平では柄を握れないためか、区(マチ)に近付くにつれて刀身が細くなっている。まるで上弦の月に鐔と柄を付けたみたいだ。

 しかし鞘を持っていないところを見ると、彼はこのおどろおどろしい「凶器」を、抜き身で持ち歩いているのだろうか。だとしたら文字通り「歩く凶器」だ───などと考えていると、前を行く彼がぴたりと足を止めて、振り返り私を見た。

「そろそろここを抜ける」

 歩き始めて二十分ほど。ようやく砂地を脱出するらしい。彼はけろりとしているが、私はもう疲労困憊に近い。何しろこの暑さだ。体力の減りが早い。さらに、色んな意味で心臓が馬鹿騒ぎしてるものだから。

「……あそこまで行くのよね」

 と言って、私がタワーを指差すと、彼は「のつもりだったンだけど」と呟いて、考え込んだ。

「ここからだとアジトのほうが近いんだよ」

 アジト?

「アジトってェと大袈裟に聞こえっけど。───まあ、要するに家≠セよ、オレたちの」

「オレたち って……、ほかにも居るの?」

「ああ、あと二人。オレの仲間だ」

「……そこに行くってこと?」

「そうだな……。
 状況を飲み込めてないままタワーに行っても、混乱が増すだけかもしれねェ。あんたにはまず、この事態を把握して欲しいからな」

 彼曰く、「オレよりも説明上手な奴がアジトに居るンで、そいつから色々聞いてくれ」ということだ。

 ……どこに連れて行かれようと、私は暫く混乱してると思うけどね。






  
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