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確かに、夢現といえばそう。
頭が呆とする───いや、やっぱり「夢現」と表現するのが妥当だ。
しっかりと自分の足で立って歩いても、ふわふわと宙に浮かんでいる気がしてならない。
そして私はふとあることを考えた。
このセカイに居る私が、実は本当の「私」で、地球に居た私というのは、この「私」の見ていた夢ではないのかと。
そんなことを思うと、自分という存在がひどく曖昧なものに感じられた。
「まるで胡蝶の夢ね」
自我≠フ在処なんて、実のところ誰も分かってなどいないのだ。───だったら、夢も、現実も、明確に区別する必要なんてない。
「夢だ」と思って見ているものが、実際は「現実」なのかもしれないんだから。
「ああ、あんた名前は?」
少年───秋は左手に無線機らしき物を握り、私に尋ねた。
電波が悪いのだろうか。手の高さを変えたり、軽く振ったりと忙しそうだ。
「霧生琉奈(キリュウルナ)」
と、私はごく普通に答えたつもりだった。
しかし、彼はまたぞろ血相を変え、勢いよく私のほうへ振り返った。その拍子に、左手の無線機が地面めがけてスッと落ちた。
「…………え?」
私何か変なこと言いました?
珍しい名前ですね、とはよく言われるけれど。そんなに驚かれても困る。
「……悪い。先に言うべきだった」
彼は険しい顔をして、言う。
「この世界では、他人に気安く姓≠名乗らねェほうがいい───というか、」
───名乗っちゃいけねェんだ。
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