08

 確かに、夢現といえばそう。
 頭が呆とする───いや、やっぱり「夢現」と表現するのが妥当だ。
 しっかりと自分の足で立って歩いても、ふわふわと宙に浮かんでいる気がしてならない。

 そして私はふとあることを考えた。

 このセカイに居る私が、実は本当の「私」で、地球に居た私というのは、この「私」の見ていた夢ではないのかと。

 そんなことを思うと、自分という存在がひどく曖昧なものに感じられた。


「まるで胡蝶の夢ね」


 自我≠フ在処なんて、実のところ誰も分かってなどいないのだ。───だったら、夢も、現実も、明確に区別する必要なんてない。
 「夢だ」と思って見ているものが、実際は「現実」なのかもしれないんだから。


「ああ、あんた名前は?」

 少年───秋は左手に無線機らしき物を握り、私に尋ねた。
 電波が悪いのだろうか。手の高さを変えたり、軽く振ったりと忙しそうだ。



「霧生琉奈(キリュウルナ)」



 と、私はごく普通に答えたつもりだった。

 しかし、彼はまたぞろ血相を変え、勢いよく私のほうへ振り返った。その拍子に、左手の無線機が地面めがけてスッと落ちた。

「…………え?」

 私何か変なこと言いました?

 珍しい名前ですね、とはよく言われるけれど。そんなに驚かれても困る。



「……悪い。先に言うべきだった」

 彼は険しい顔をして、言う。

「この世界では、他人に気安く姓≠名乗らねェほうがいい───というか、」





 ───名乗っちゃいけねェんだ。







  
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