夢を見ているのだろう。
「…ん‥寒い‥。しんたろう‥布団」
目が覚めると隣には久しく見ていなかった赤色。
もう朝になれば肌寒いと思う程度には秋も深まった。
体を小さく丸め一度目を擦り、
うっすらと開いた目から微かに覗くやわらかい赤と金に、
どこか意識の遠くで色付いた紅葉のようだ、
なんて考えていた。
「しんたろうってば、、、」
「あ‥あぁ。」
くい、と力なく引かれた寝間着に我に返って急いで布団をかけてやり、
自分は布団から出てベッドに腰掛けた。
中学に入学してから、かれこれ4年間使用している
ダークブラウンのセミダブルサイズベッド。
布団の色はモスグリーン。
その中でもそもそと動いている赤色が枕の上で広がると、
いよいよ色付いた紅葉にしか見えなくなる。
気が付けば俺はその美しい赤に手を伸ばしていた。
さらさらと指の間を抜ける赤。
少し冷たく、もしかしたらこれは夢ではないのかもしれないとふと思った。
しかし、
「んぅ…。」
心地よさそうに俺の手に擦り寄ってきた軟い頬に
そんな考えは砕け散った。
知り合ってから、もう4年にもなろうという付き合いだが、
この男のこんな無防備な姿を見るのは初めてだった。
ふと、ヘッドボードに置いてあるデジタル時計が目に留まった。
指針を持たないそれは、
現在、11月10日土曜日の午前4時10分と6秒である、
ということを俺に知らせている。
11月の第一土曜日は学校が設備点検を行うため、校内立入禁止となっており、
全部活動の活動も禁止となっている。
勿論、バスケ部の活動もないため、久しぶりのオフであった。
毎日欠かさず視聴しているおは朝が始まるにもまだ時間がある。
時間を認識した途端姿を見せた睡魔に、
もう少しだけこの赤を見ていたいと思うも、体は言うことを聞かない。
だんだんと重くなり、ゆっくりとおりてくる瞼に、
仕方がないともう一度布団に潜り込んだ。
人肌により程よく暖められた布団の中、
小さく丸まる赤を引き寄せる。
意識が途切れる瞬間
「真ちゃん!これやるよ!!…は?なんでって、、、おいおい真ちゃん知らねーのかよ!今日はポッキーの日だぜ?」
と騒いでいた鷹の目を思い出し、
はて、何故昨日がポッキーの日だったのか、
と思い出そうとしたが、
腕の中の温もりはそれを許してくれなかった。

これは夢なのだろう。
「…お前、何故ここに居るのだよ。」
「なんだ、早かったじゃないか、おかえり、真太郎。」
今日も満足のいく一本が決まるまでの自主練習を終え、
騒がしいリアカーでの下校を経て家に入れば、
京都にいるはずの男は"おや"と不思議そうな顔をしたあと、
にこりとしながらこちらに近付いてくる。
「何故、と聞いていたね、真太郎。お前に先日メールを送っていたのに酷いじゃないか。」
どことなく艶かしい表情で、俺の学生服のボタンを外しながらそう言われ、
俺は少し焦った。
練習のこと、課題のこと、翌日の時間割のこと、
重要なことから下らないことまで頻繁にメールをしてくる男のせいで、
携帯電話は定期的にチェックしているが、
この男、司征十郎からの帰省の連絡を俺は確認していなかった。
「それにお前も返信してくれたじゃないか。」
その言葉に急いで携帯電話の受信ボックスを開き、
遡ってみると、確かに2日前に差出人が赤司のメールがあり、
返信済みのマークも付いている。
2日前に為された俺と赤司とのメールから得られた情報は、
実家の都合で1週間こちらに戻ってきている
その1週間のうちの2日を俺の家で過ごす
そしてその2日間、俺の両親は旅行へ行くため家を空けている
凡そこの3つであった。
俺は両親から旅行に行くなどという話は聞いていない。
やはり夢であるようだが、ヤケにリアルな夢である。
「思い出したかい?」
「ああ、悪かったな。少し疲れていて忘れていたのだよ。」
何だか、見たことのない、妙に悲しそうな顔をするものだから。
気が付けばそんなことを言っていた。
「そうか、よかった。よかった。」
もう一度、そうか。と嬉しそうにはにかむと、
「そうだ、夕飯を作るのを手伝ったんだ。」
"疲れているのならお腹も減っているだろう?"
これは夢なのに、
赤司が作ったと言う湯豆腐は、今までに食べた中で一番美味しかった。

ふと、目が覚めると、俺の腕の中で小さなぬくもりが震えていた。
「…赤司?」
「…っ‥真、、、太郎」
声をかけると、一度跳ね、時折震える肩。
まさか、いや、そんなことが。
まさか。
「泣いて、いるのか。」
一体何が起きているのだろうか。
ゆっくりと体を起こして、急いで眼鏡をかけた。
俺に向いている背中、俺に向いていない顔。
その頬を確かに小さな雫がつたっていた。
「どうした。何故、泣いているのだよ。」
初めてだった。
この男の涙を見たのは。
この男の弱さを見たのは。
何より、この男がそれを俺に見せたことが。
「分からない。分からないんだ、真太郎。」
それだけ言って再び震える肩。
こいつは、こんなに小さかっただろうか。
知らない。分からない。知らなかった。
そんな自分に腹がたって仕方がなかった。
何故、知らない。何故、分からない。何故、知らなかった。
小さな肩に手を置き、こちらに向けた。
布団に入り、白い頬に手をあて、目を合わせた。
レンズ越しに見える水を溜めた赤と金は、
ゆらゆらと揺れていてとても綺麗だった。
頬に残る涙をそっと拭い、
仄かに色付いた薄い唇に、そっと自分の唇を重ねた。
何も感じることはなかったのに、その唇は軟らかく、あたたかかった。

セミダブルサイズのベッドに横たわる2つの身体、緑と赤。
やわらかく、やさしく緩むその口許。
あぁ、なんて夢現。
ほら、また、そっと寄り添った。


*枚方様まぼろしと白昼夢提出作品






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -