「オラ黄瀬、へばってんじゃねぇよ!!」
「無理っスよ!!アンタはまだ現役バリバリかもしんないスけど、こっちは製作の片手間程度にしかバスケしてないサークルっスよ?!」
あんだよ、張り合いねぇな、
なんてぶつぶつ文句を言いながらゴールへ向かう青い髪に、
あぁ、今日も眩しいな
と目を細めた。

俺たちが高校を卒業してからもう2年が経とうとしている。
今の俺がバスケを片手間に、息抜きにしているとあの頃の自分が知ったら何と言うのだろうか。
無意識に鞄からクロッキー帳を取り出した手を見てふと思った。

高校2年の秋、バスケ雑誌に掲載されていたこの人の写真に、ただ綺麗だと見惚れた。
それと同時に、自分がこの人を一番綺麗に魅せられるようになりたいと強く思った。
それが俺が絵を描くようになったきっかけだ。
今となっては、美術大学で絵を学ぶ傍らこうしてバスケをしている。
あの頃は、抱いていた想いが叶って、こうしてこの人と過ごせるようになるなんて思ってもいなかった。
どれもこれもあの頃とは大きくかけ離れていて、
ふとした瞬間、全部夢なのではないかと怖くなる程だ。

そんなことを考えながらも、俺の手は止まらない。
圧倒的な存在感、それでいてしなやかな体の動き、
普段はがさつで横暴な青色が、誰よりも美しく輝く一瞬を逃さないよう紙上を駆けるペンシル。
ただがむしゃらにボールをもつその背中を追い駆けていたあの時とはまた違った高揚感がたまらなく好きで

「お前また描いてんのかよ、飽きねぇな。」
出来上がった絵の微調整をしている間に移動してきたのだろう、目の前でじっと俺の手元を眺めていた彼のその言葉で俺の手はやっと止まった。
「そりゃあ飽きないっスよ。好きっスからね、スケッチ。」
「ま、じゃなきゃ美大なんて行かねぇよな、、、。」
へぇ、とつぶやいたあと、納得したようにそう言ってスポーツドリンクの入ったボトルを煽る。
その首筋を流れる汗ですら綺麗だと思ってしまった俺は末期なのかもしれない。

「ん、、、つーか、お前そのお絵かき帳もうすぐなくなりそうだな。」
徐ろにクロッキー帳に目を向け投げかけられた言葉にはっとして手元を確認すれば、
確かにあと3枚ほどしか残っていない。
「本当だ、、、あっ、つーか!!お絵かき帳じゃなくてクロッキー帳だっつってんだろ!!!」
何度言っても覚えてくれないバスケバカにもう一度そう言うと、
「どっちも同じだろうが。」
と興味のなさそうな声が返ってきた。
「違うんスよ!!!」
「あーあー、っせーなわぁったよクロッキー帳な、はいはい。」
「うっぜー!!!」
そこから、いつもみたいにくだらない言葉の応酬をしながら帰る準備をはじめる。
今日もこの後は一緒に飯食ってから帰って、と考えていると、
おい黄瀬、と呼びかけられた。
「なんスか」
「飯行く前に文房具屋行くぞ。新しいお絵かき帳、買ってやるよ。」
何食うのかの相談だろうと顔も向けずに投げかけた応えに続いたその言葉に驚き、
「・・・へ?」
数秒間相手の顔を見つめたあと、そんな間抜けな声が口をついた。
「元モデルがとんだアホ面だな。おら、早く行くぞ。」
目元にくしゃりとしわを寄せ小さく笑い、俺の額を小突くとくるりと背を向ける青
あぁ、今の笑顔も、いつか描いてみたい
そんな場違いなことを考えながら、俺は今日もまぶしい青を追い駆ける

いつでもきみを

だぁから!!お絵かき帳じゃなくてクロッキー帳!!!
あぁ、はいはクロッキー帳な、






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