六顆の秘め事

Aomine × Akashi


「あ?赤司お前一人かよ」

 黄瀬に1on1を強請られ一汗かいたあと、青峰はタオルを部室に忘れたことを思い出して一人部室に足を運んだ。もしかしたら鍵がかかってるかもしれない、と思ったが電気が点いていたので扉を開けると案の定そこにいると思われた人物に視線で出迎えられた。

「黄瀬とゲームしてたのか」

 汗だくの青峰を見て、最近入部した黄瀬と青峰の関係を知っていた赤司は部誌に走らせていたペンを止め青峰にタオルを投げる。それを受け止めて礼を言った青峰は部室に視線を彷徨わせた。

「残ってる部員はもうお前たちだけだぞ。紫原は用事があるとかで今日は先に帰った」

 口を開く前に思っていたことを全部言われて相変わらずだな、と水分補給をする。いつも大型犬のように赤司に寄り添っているでかい体が見当たらないのが不思議だったがそういうことならば納得が行く。横に座り部誌を覗き込むと、難しい漢字がたくさん使われていて詳しい内容はわからなかったがどうやら新しいフォーメーションを考えているらしい。

「うん?お前も何か要望があるなら――」

 覗き込んで何も言わない青峰に気付いて赤司は顔をそちらに向けると思った以上に青峰との距離が近く、二人揃って「うわっ」と声を上げて飛び退いた。までならまだよかったのだが、ベンチの端に座っていたのが悪かったのか驚きすぎたのか悪かったのか、赤司がバランスを崩してベンチから落ちそうになったのを見て青峰は咄嗟に彼を支えたが、黄瀬とのゲームで体力を使い疲れていた体では踏ん張りが足りなかったらしく、運動神経の良いはずの帝光バスケ部1軍の二人は揃ってベンチから落ちて普段では絶対に見られないような体制で着地をした。

「……」
「……」
「……怪我はないか」
「……ああ」

 無意識にだが受身をしっかりととっていたのでお互いに怪我らしい怪我はない。それでも二人共動こうとしないのは、今必死に現実を受け入れているからだろうか、それとも現実から目をそらしているからだろうか。確実に言えることは、今この瞬間この部屋に誰かが入ってきたらその人物を逃すわけにはいかないということだ。

「しにたい」
「……生きろ」

 ポツリと青峰がそう漏らし、赤司はオレの台詞でもあるぞとは言わずにそっと生を促した。

 今の状況を説明しよう。赤司がベンチから落ちかけるという滅多にない出来事に驚いた青峰が赤司を掴んだが助けにはならず二人は一緒に床へと倒れ込んだ。赤司は尻から床に着地し怪我はせず、青峰も受身を取ったのと赤司の上に落ちたことで擦り傷も負わなかった。だがその青峰が倒れ込んだ場所がいけなかった。赤司の下半身、それも股間の上という大変際どいところである。見ようによってはじゃれているようにも見えるが、動かないところから変な想像をされそうな体制だ。しかもボタンかファスナーかに青峰の髪の毛が引っかかってしまったらしく身動きが取れない。

「っおい動くな青峰」
「いっ、どうなってんだこれ!」

 頭を上げようとするとビン、と髪の毛が引っ張られ元いた位置へと戻る羽目になる。しかし離れなければお互いに気まずい位置に青峰の頭はあり、少し動くぞ、と赤司は体を捻り何かを机の上から取った。

「おっ、おいなにするつもりだ」
「なにって、切るんだよ」
「切るってオレの髪の毛だろ!?」
「制服を切るわけにはいかないだろう」

 そう言って赤司は躊躇なく青峰の髪にハサミを入れようとしたが青峰が赤司の腕を掴み遮られた。

「おい」
「お前に任せたら大変なことになりそうな気がするんだよ!」
「今も十分短いから変わらないだろ」
「くっそお前もう黙ってろ!オレが自分で取る……っ」

 どうなっているか見えないがたぶんなんとかなるだろ、と繋がっている部分を触る。想像以上に複雑に絡まっているらしく、恐くは先ほど少し暴れたことも関係しているのだろう。居心地が悪そうに赤司が少し動くが今は赤司を気にしている場合でもない。こんなところを黄瀬や一緒に練習をしていた黒子に見られでもしたらどうなることか。

「おい赤司、ズボンのボタン外すぞ」

 そう言った途端露骨に嫌そうな気配が漂ってきた。

「何故お前の前で開けなければならないんだ」
「オレだって人のもん目の前で見たくねえよ!」

 状況を理解しやすいようにシャツのボタンは外しても何も言われなかったが、流石にズボンとなると抵抗があるらしい。だがそれは青峰とて同じことだ。間近で見るとテツといいこいつといい肌白いな、とは思ってしまったがそれ以上は無い。
 舌打ちをしつつも赤司はズボンのボタンを外す。やはりボタンとファスナーの両方に絡まるように青峰の髪の毛が絡まっているのが見え、どう見てもこれは切るしか方法が無いように思える。青峰がうるさいので暫く好きなようにさせていたが今度こそ諦めて言うことを聞いてもらうしかないだろう。

「これどうなってんだ……」

 それにあまり触られて嬉しい場所でもない。変なところを青峰が触ってしまう前に再びハサミを手に取る。

「もう諦めろ。動くな。切るぞ」
「あっちょっと待っ……」

 ザク、と音がして青峰は頭が自由に動かせるようになり、赤司は立ち上がり髪の毛を払い落とす。ファスナーに絡まっているので仕方なく動かしにくいそれを下ろして髪の毛を取る。
 はあ、と二人同時にため息を吐いた。余計な体力を使ってしまったとありありと顔に書いてある赤司を見て少しカチンと来た青峰は余計なことを口走る。

「ハンッ、少し息荒げてたもんな」

 健全な若い男子、そのことを考えれば敏感な部分の上で動かれて反応をしてしまってもおかしくはないことではあるが、赤司という人間を知っている者ならばその言葉は彼のプライドに障る物言いだと分かるはずだ。案の定赤司はギロリと鋭い視線で青峰を睨みつけるが青峰はそんな赤司の反応を引き出せたことが嬉しいようでニヤニヤと笑っている。
 そうか、そっちがその気なら、と言われたような気がした。服装を直す手を止めて床に座ったままの青峰の股間に赤司の足が伸びる。

「っ!?」

 敏感な部分を足蹴にされ、怒りよりもまず恐怖が先立った。

「ふん……さっきも思っていたが少し勃ってるじゃないか」
「これはゲームで……!」
「分かってるさ。黄瀬とのゲームだろう?興奮もするよな」

 全力での運動、それも楽しいゲームが出来るプレイヤーが相手だとしたら高ぶって血液がわかりやすい部分に集まることもある。同じ男ならばそれもわかっているはずなのにあえてそれを揶揄してくる赤司に文句を言ってやりたいが楽しそうに、しかも強弱をつけつつ刺激を与えてくるものだから上手く言葉が発せない。それになにか癇に障ることを言おうものならば容赦なく踏み潰されそうで怖い。

「はは、息が荒いぞ青峰?」
「悪魔かてめえ……っ!」

 青峰の慌てる姿を見て満足したのか赤司が足をどかそうとした瞬間、少し離れた場所から黄瀬と黒子の話し声が聞こえてきた。おそらく帰りの遅い青峰を探しに来たのだろう。流石の赤司も少し慌てる。
 乱れたまま直していない赤司の服装、床に落ちたハサミ、股間を踏まれて息の荒い青峰。『なんつープレイをしてるんスか女王様プレイっスかそうなんスか』という黄瀬と『心底軽蔑します青峰君死んでください』という黒子が一瞬にして想像できてしまい青峰も真っ青になる。
 目を見張るような速さで赤司が扉に鍵をかけ、これで職員室へ鍵を取りに来るまで開けることはできないはずだから早くそれを治めろ馬鹿、と声を出して中に人がいることを知られるわけには行かないので目線だけで青峰に指示を出し青峰もお前の所為だろう馬鹿やろうと赤い顔で睨みながらも頷く。

「あ。鍵が……」
「オレオレ!鍵持ってるっすよ〜」
「ナイスです黄瀬君」

 なんでこんな時に限って気が回るんだよオメーは!と青峰の言葉を聞いて若干落ち着いていた赤司も「余計なことを…!」と悪態を吐いて慌ててボタンを閉めようとするが、鍵の差し込まれる音を聞いて間に合わない!と思った青峰は赤司を乱暴に掴んで近くにあったロッカーに自分ごと押し込め無理矢理扉を閉めた。

「おっ、おま」
「そんな姿見られるわけにはいかねえだろっ」
「お前が余計なことをしなければこんなことにならなかったんだぞ!?」
「うっせえなもうどうしようもねえだろ!つか自分だけ棚に上げんな!」

 小声で怒られ自分自身も思っていたことなだけに耳に痛いので逆ギレで返したが二人が部室に入ってきた気配を感じて青峰と赤司は押し黙る。

「誰もいないっスね」
「でも電気点いていて誰かがいた跡があります。少し席を外しているだけでしょうか」

 元々男が二人も入るように設計されていないロッカーの中は当たり前だが狭く、ガタイもある青峰に潰される形で赤司が押し込められている。赤司はロッカーの壁に向かい合い、その後ろから青峰が覆いかぶさっているような状況だ。バスケでは有利になる長身や長い手足が今では邪魔なものでしかなく、両腕は赤司の頭の横についていて開いた両足の間には赤司が立っている。
 狭くて身動きが取りづらいのが不快なのか先ほどから赤司は妙にゴソゴソと動いて居心地が悪い。早く出て行けよお前ら……、と少しだけ見える隙間から外を覗くとベンチに座って談笑(と言っても黄瀬が一方的に黒子に話しかけている状態)を始めていて青峰は聞こえないように舌打ちをした。
 密着しているせいか、少し汗をかいたからか、目の前の赤司からふわりといい香りが漂ってきて青峰は意識を自分の胸にすっぽりと収まっている赤司へと戻した。どこかのモデルと違って香水なんて付けるガラじゃないだろう赤司のことだ、これは恐くシャンプーの匂いだろう。暫くこのままってマジかよ……生殺しにも程があるじゃねえか。と、先ほど覚えた疼きを思い出し心の中でも舌打ちをし、視線を下ろしたことを後悔した。息苦しいのか先ほどの影響か、ほんのりと赤くなった赤司の首筋が視界いっぱいに入ってきたからだ。先ほど赤司に好きに扱われ、血が上っていたことも原因の一つだろう。

 ああもう駄目だ、と心の中での迷いは一瞬で、青峰は口を大きく開いた。

「い゛……ッ!?」

 突然首筋に歯を突き立てられた痛みに我慢できずに赤司は声を上げてしまう。慌てて口を閉じこんなときに何を考えているんだ、という意思を込めて青峰の足を思い切り踏みつけるが後ろの男は気にした様子もなくそのまま赤司の首筋を喰み続ける。むしろそうしたことで余計に煽ってしまったのか、青峰は口を離すどころか強弱をつけつつやわやわと首筋に吸い付き、その甘い痺れに人間の急所を抑えられている恐怖からか強ばっていたが赤司の体から徐々に力が抜けていく。
 その様子を見て青峰は少しずつ上へと移動し耳の軟骨を柔らかく噛む。口を手で押さえているらしい赤司は今度は声を出さず、だがびくりと揺れた体を間近で感じた青峰は調子に乗って耳腔へと舌を差し込む。

「っ、」

 滅多に見れない赤司のこんな姿に青峰は気が大きくなり、壁についていた腕を下げて赤司の顔を掴んでやりやすいように傾ける。左腕は赤司の体に巻きつけ、ただでさえ狭く窮屈だったものを更に体を密着させる。流石に赤司も身じろいだが、この狭い空間に余計な隙間はなく大した抵抗にはならない。

「んっ、んぐ……、あお、峰っ」

 ワリー赤司。と心の中で詫びるが火のついてしまった以上ここで止める気はない。外の二人に気づかれるくらい大きなことはするつもりはないが、青峰の中で今の行為はまだセーフだ。左手で赤司の体をまさぐりシャツの中へと手を入れようとボタンを外した瞬間赤司の顔の近くにあった右腕を思い切り噛まれた。

「ーーーーっ!!」

 体を自由に動かせない故の抗議行動らしく動きを止めた青峰を見て赤司は鼻でフンと笑った。だが逆にそれが青峰を煽る行動だったとは気づかなかったらいく、この野郎……と青筋を浮かべた青峰はボタンを閉める前にこの場所へ押し込まれまだ前が開いた状態だったズボンの方へと手を伸ばした。

「っ!やめっ――」
「今なんか音しなかったっスか?」

 !!という漫画に使われるマークが赤司から飛び出したように青峰は見えた。おそらくは自分からも出ていたはずだ。流石に調子に乗りすぎたか、と冷や汗が出てきたが黒子の「気のせいでしょう」という言葉を聞いてほっとした青峰は止まっていた手を再び動かし赤司のズボンを膝の辺りまでずり下ろす。

「っなに考えて……!」

 慌てて赤司がズボンを引き上げようとするがこの身動きの取れない空間の中では膝を曲げることなど出来るはずもなく、手が届かないことに加えて赤司の両足の間に青峰が片足を差し込み更に動きを封じられ赤司は舌打ちをしそうな勢いで青峰を睨みつける。そんな赤司の視線を受け流し、青峰は体を前に傾けて体重をかける。もう隙間などないほどに壁と青峰に挟まれた赤司は肺から空気が押し出されるのを感じながらも奥歯を噛み締めて声を出さないよう努める。赤司の抵抗を封じ、シャツの中に入り赤司の肌をなぞる青峰の手の熱さに青峰が妙なスイッチを押してしまっていることに危機感を覚える。
 シャツの中をまさぐっていた青峰の手がついに胸の突起に触れ、赤司は今すぐにこの場から逃げ出したいのを抑えて息を飲んだ。その様子を勘違いしたのか青峰は強弱をつけてそれをつまみ、押しつぶし、試すように指を動かす。
 女ではないのだからそんなところを触られても痛いだけだ、もうやめてくれ、と懇願するのだけは負けたような気がして嫌だった。だが強すぎる青峰の力で触られたそこはじんじんと熱く熱を持ち、軽く触れられるだけであらぬところが熱を持ち始める。
 いやだ、こんなのはおかしい。と頭では理解しているがこの姿のまま出ていき二人に見られるのはもっと嫌だ。そんな赤司の心境も知らずついに青峰の手が下半身に伸びる。それを感じて青峰の手を掴み阻止するが、足の間にある青峰の太ももが赤司の臀部を持ち上げるように動く。壁に押し付けられ、我慢しきれずに吐息が漏れる。手を振り払われて下着越しに半分勃ち上がっていた性器を掴まれ息が止まる。

「すげ……」

 耳元でそう囁かれて一気に体温が上がる。何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのか。頭に血が上った赤司はねじるように手を動かし、青峰の下半身を乱暴に掴んだ。

「おぁっ!?」

 熱くて固い。先ほどから腰のあたりに固いものが当たっていると思っていたが、予想通り青峰の性器も勃ち上がっていた。間近で青峰の興奮を感じていたので予想通りではあったのだが、他人のものをこんな風に触る機会などなかったので赤司はどうすればいいのかとひるんだ。
 一方青峰はあまりそういったことに抵抗がないのか赤司の性器をゆるくしごいて快感を与える。主導権を握られているようでむっとして声を出さないように気をつけて赤司もそれを真似して手を動かす。いつの間にか赤司の性器も完全に勃ち上がり、酸素の薄さもあって朦朧とする頭で気持ちいい、と大きく息を吐いた。その瞬間、青峰のポケットの中にあった携帯が突然震えだした。
 比喩ではなく体が飛び跳ねてガタ、と肩をぶつける。「あれ?」という黄瀬の声がやけに大きく聞こえ赤司はあまり意味がないとわかっているが体を縮こまらせて息を止める。そして少しだけ冷静になった頭で今の状況を客観的に見て一気に青褪める。

「く、黒子にこんな姿を見られたらオレはっ……」

 なんでお前はそんなにテツに甘いんだよ……と突っ込みを入れる余裕はなく急いで青峰は携帯のバイブを切ってそのまま電源も落とした。あ、切れた。という黄瀬の間の抜けた声が聞こえてきてバクバクとうるさい心臓を押さえる。赤司もどうやら同じく心臓が飛び跳ねたらしく、密着している部分から赤司の心臓の音が伝わってくる。

「今一瞬バイブの音鳴らなかったっスか?」
「ロッカーから聞こえてきたのでカバンの中に置いてあるんじゃないですか」
「そっスよねー。もー青峰っち携帯しないで何が携帯電話っスか!」
「元々携帯電話は学校で持ち歩くの禁止ですよ」
「固いっスよ黒子っち!あっそうだ黒子っちの番号教えて欲しいっス!」
「ボク持ってません」
「今いじってるそれはなんスか!!?!?」

 どうやら話題は別の方向へと行ったらしい。ふう、と一息入れて赤司は肩の力を抜くが再び青峰が手に力を入れたのを感じてどんな神経をしているんだ、こんなことをして本当に楽しいのか、見つかったらどうするつもりなんだ、と罵倒が一瞬にして浮かぶが同時に頭の中で試合開始の音が鳴ったような気がして赤司も先ほどより強く手に力を入れて青峰のものをしごき始めた。帝光中学バスケ部は人一倍負けず嫌いが集まる場所である。





 身動きが取れない。酸素が薄い。体温が高い。人肌に触れている。近くにはチームメイトがいる。
 普段では滅多に体験できないような状況下に置かれ、妙な高揚感を覚えてしまった。本当はこんなことをしたいわけではないのに、しかしこの状況がこうすることを許してくれる。
 こんなのはおかしい、普通ではない、とぐるぐると頭の中で赤司は考えても胸の突起を指で潰されいつのまにか下着をずり下ろされ好き勝手に下半身を責め立てられ、自分も左手でチームメイトのそれを扱いている。首筋に荒い息がぶつけられ、獣になった気分になる。
 青峰、お前一体どんな表情でこんなことをしているんだ。それが気になり赤司は少しだけ体を捻って顔を青峰へと向ける。その途端赤司の唇は青峰に噛み付かれ、ただでさえ少ない酸素を奪われて頭がクラクラする。
 勢いで噛み付いてしまったらしい青峰は一度口を離し、息を吸ってからもう一度赤司の唇を塞いだ。酸素を求めて薄く開かれていた赤司の唇を割って中に侵入し、赤司の舌を吸い口内を舐る。くぐもった赤司の声に脳が溶ける。
 人間の舌というのは、こんな感触なのか。と頭の中のどこか冷静な部分で赤司は考える。ガツガツと飢えたように口内を蹂躙され、朦朧とした頭で深くまで侵入してきた舌を噛む。ビクリ、と青峰が震え、甘噛みだったがやはり舌には神経が多く通っているのだなとなんだか面白くなりもう一度今度は強く噛む。痛さのあまりかくぐもった声が青峰の喉の奥から聞こえてくるが意地でも自分からは離れようとはしないらしい。おもしろい、と目の奥に鋭さを増させた赤司を見て青峰はぐ、と先走りで濡れた赤司の先端に爪を立てた。突然の激しい刺激に驚いた赤司は限界が近かったこともありそのまま青峰の手の中で達してしまい、そんな中手加減など出来るはずもなく強く噛み締めてしまう。

「っ、てぇ……」

 流石に我慢の出来る痛みでは無かったらしく青峰が赤司から顔を離す。こんな場所で達してしまうなんて、と呆然として止まってしまった赤司の手を青峰は左手で包むように握り、自身を扱く。されるがままでぼうっとしている赤司を見て、舌に響く痛みのお礼はどうしてやろうと青峰が考えているとやけに白い赤司の足が目に入る。ズボンと下着は足首あたりまで下ろされて、足の付け根からふくらはぎまでのラインまで、普段は見えないところまで目の当たりにし喉が鳴る。何がなんだかわからなくなっているのは青峰も同じだ。特殊すぎるシチュエーションに物事の判断が上手く行えない。左手はそのままに、右手で赤司の尻を撫で上げる。あまりにも狭く視覚でそこを捉えることはできないが、手探りで動かし目当ての場所に手を潜り込ませ、先ほど赤司が吐き出した精液をそこに塗り込みゆっくりと指を差し込む。

「っ?…………ぅ!?」

 驚いた赤司が体を強ばらせるのを無視して、青峰の長い指は更に奥へと進む。信じられない場所に指が侵入してきて混乱した赤司は逃れたくて身を捩るがそれは抵抗にはならず、ついに指一本を全て飲み込んでしまう。つい手に力を入れすぎたのか青峰が苦しそうに息を吐き出す音が聞こえて続いて手の中に熱いものが溢れた感覚がした。
 なんなんだ、なにが起きているんだ。と先ほどからありえないことが続きすぎて気がおかしくなりそうだ。しかしそうしている内に大丈夫だろう、と思ったのか青峰がもう一本の指を侵入させてきて、圧迫感に上手く息ができなくなる。そんな赤司の様子を見て青峰は再び赤司の性器に刺激を与え、思わず仰け反った赤司の首筋に噛み付いた。痛みや快感が体中を襲い意味がわからなく涙が滲んでくる。
 ずるりと指を引き抜かれ、苦しさから解放されて赤司はようやく息を吐き出す。しかし安心したののつかの間、すぐにもう一度、今度は指など比較にならないほど熱いものが宛てがわれ赤司は一瞬思考が遅れた。まて、流石にそこまでは許すわけにはいかない。熱に浮かされながらもそこは譲ってはいけない部分だと赤司の頭の中で警鐘が鳴り響く。
 ぐ、と体を押し付けられ、熱さと共に後ろが押し広げられる感覚に一気に汗が吹き出す。

「ぁ、や……め、っあお、みね……――」

 だが身動きが取れず、碌な抵抗もできないまま青峰は懇願する赤司に喉を鳴らして腰を進め――

「やっぱり音するっスよ。なんかいるってこれ!」

 ひ、と悲鳴に近い小さな声が漏れた。青峰が動きを止めたことは不幸中の幸いではあるが、このまま見つかることとこの中で忘れられない中学の思い出を作ってしまうことどちらがマシかと聞かれたら即答はできない。

「もしかしてロッカーの中で男女がエロいことしてたりして!」

 大正解。男女ではなく男同士、しかもチームメイトという目も当てられない違いはあるがおおよそは合っている。図星を突かれておいそれ以上はやめてくれ、と二人が願うが黄瀬にそれは届かず確かめよう!とまで言い出す始末だ。

「黄瀬君はAVの見すぎだと思います」
「ちっ違うっスよ!?てか健全な男子ならそういうことに興味があってもおかしいことじゃないっスから!」

 一拍の間を置いて黒子が黄瀬に突っ込む声が聞こえた。その声は氷河期の到来を思い起こさせるほどに冷え冷えとしていたが、黄瀬はそれでもめげずにいたらしい。

「でも本当にいたら面白いじゃないっスか〜」

 バン、という音と共に遠くのロッカーが開かれた音が聞こえた。流石の青峰も体を固くさせてちっ、と小さく舌打ちをした。いくらなんでもこの状況を見られて思い浮かぶ言い訳が見つからない。赤司の様子を伺うと可哀想に思うくらい血の気が引いているのが分かる。というかあのアホ実際にロッカーの中でそういうやつがそういうことをしていたら見つけた方も気まずいだろうが!

「実際そういう人がいるのを見つけてしまったら気まずいと思うんですが」

 まるで青峰の思考とシンクロしたかのように黒子が黄瀬に言うのを聞いて青峰は流石相棒だぜテツ!と心の中で賞賛を送った。

「馬鹿なことしていないで早く帰る準備してください」
「え、青峰っち待たないんっスか?」
「ここまで待って来ないとなるともう帰ってしまった可能性もあります」
「カバンを置いてっスか!?さ、さすがにそこまでだったとは信じたくないっスけど……」
「もう時間が時間ですしボクたちも帰りましょう」
「でも……」
「行きますよ黄瀬君。青峰君にはボクから連絡しておきます」
「あっ待って下さいっス黒子っちー!」

 扉が閉まる音が聞こえた。声が聞こえないところまで離れ、もう完全に戻ってこないことを確信した瞬間赤司は青峰を強く押し退けロッカーの中から這い出た。そして素早くタオルで汚れた場所を拭き取り乱れた服装を直してお茶の入ったペットボトルを掴み浴びるように飲み始める。
 一度射精をしているのと先ほどの黄瀬の暴挙で萎えた一物をしまった青峰も中から出て少し気まずい思いをしながら赤司を見る。雰囲気に流されて取り返しのつかないことをしかけてしまったような気がする。今思えば何故あんなことを、と思うがあのときはあの行動は間違っていないと思い込んでいた。
 赤司が座り込んだベンチの少し離れた場所に青峰も腰を下ろし、なんと声をかけるべきか、声をかけずに去った方が良いのか。と何も言わないこちらを見向きもしない赤司への対応を迷っていると、突然振り向いた赤司は青峰の股間の間へと近くに置いてあったハサミを突き立てた。

「っぎゃあああ!?てってめえなんてことしやがる!!?」

 一瞬何が起きたかわからなかった青峰だが、ビィンと足の間に突き立てられたハサミを視認した瞬間叫んだ。しかし赤司はそんな青峰を見て詫びることはせず、冷たい目で見据える。

「次あんなことをしたらお前の大事なものを二度と使えなくしてやる」

 今はこれで勘弁してやる。と冷え切った視線が語っていた。
 確かに妙な状況下であったとしてもあれはやりすぎた、と青峰も理解していたし何より赤司の目が本気で恐ろしかったので素直に頷いておくことにした。それを見て赤司はため息を吐く。

「今後の自分への課題が確認できた点に関してだけは礼を言っておこう」
「課題だあ……?」
「どんな状況下であれ流されない精神力」
「……」
「当然、他言無用だ。そして今日の出来事はできるだけ速やかに記憶から消し去れ」

 髪をかき上げて疲れたように言っているところを見ると赤司も中々に忘がたい経験をしてしまった記憶を努めて抹消している最中らしい。
 結局途中だった部誌は自宅で仕上げることにしたらしく赤司がテキパキと机の上のものをカバンにしまう様を見て、青峰はそういえば先ほど黒子が自分宛てにメールを送っておくと言っていたことを思い出した。ポケットの中の携帯を取り出して電源を入れると、あの後も何度か黄瀬から着信があったらしく履歴が残っている。とりあえずそれを全て消去してから黒子のメールを開くと頭の中でビシリと氷が割れたような音がした。




from テツ
title Re:



誰と何をしていたのかは聞きません。
今度マジパのシェイクが飲みたいです。

---END---




 あれだけ黒子にバレることを嫌がっていた赤司だ。このメールを見せると今度こそ自身の命が危ないことを察知し、青峰はそっと携帯を閉じた。きっと相手は誰かなんて分かってないし、そもそもロッカーの中でのことを指しているとも限らない。だから大丈夫、大丈夫なんだ!と自分に言い聞かせるようにして青峰は立ち上がり、訝しげに視線を送ってきていた赤司を無視して急いで着替えることにした。

「オレは先に帰る。鍵を絶対にかけ忘れるなよ」
「ああ……」

 既に全ての仕度が終わっていた赤司に言われ軽く頷き、青峰は赤司を見送った。完全に無かったこととして処理されてしまったらしくいつもの赤司と同じ振る舞いだったが、少しだけ扉を閉める力が強かったのは気のせいだろうか。

『あお、みね……――』

 脳裏にこびりついて離れないあの赤司の痴態、未だに鈍痛を発している舌の傷。忘れることなど本当にできるのか。と青峰は頭を抱えながらオレは巨乳が好きだオレはふくよかな胸が好きだオレはいつか爆乳で窒息するのが夢だ!と暗示のように何度も唱え、とりあえず今度黄瀬に勝負を挑まれたときは全力で叩き潰しにかかろう、そして勝ったら何かを奢らせてやる。と心に誓った。


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