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Kise × Akashi



 好き好き好きなんだ好き好き大好き好きだ好き好き好き好き怖いくらいに好きでたまらない好きだ好きだ。好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好き。

「よっ、黄瀬!」
「うおっ!?あ、青峰っち〜!なんスか急に、びっくりしたー!」
「はは、なァにぼーっと歩いてんだよ。ぶつかんぞ」
「もー、何も考えてないわけじゃないっスよ!オレだって色々と考えてるんですぅ」
「ああ?何も考えて無いような寝ぼけた顔してたくせに何言ってんだお前」
「なんつーことを言うんスか!青峰っちじゃあるまいし!」
「お前こそなんてこと言ってんだ!!」
「ぎゃー!ギブっス!!!」
「次体育合同だろ?もちろん勝負するよな」
「負けないっスからね!オレがちゃんと普段から頭使ってること証明してやるっス!」
「やっべー、オレの勝利が確定しちまったじゃねえか……」



 好きだ好きだ好きだ好きだここまで自分の気持ちが変わらないなんて初めてだ好きだ好きだ好きだ好きだ。

「最近よく物思いにふけっているな」
「え、……バレちゃってたっスか。やっぱ赤司っちはよく人のこと見てるな〜」
「プレイには支障が出ていないみたいだから今のところ問題にはしていないがな」
「わかった、次のテストのことでも考えているんでしょ!確か赤点取った人は補修あったもんね?」
「わーっ!桃っち!それは言わない約束っスよ!」
「ほう、黄瀬はテストを案じなければならないほど酷いのか」
「う……い、いや、そこまでひどくはないっスよ!?たまに先生に説教されるくらいの可愛いもんスよ!」
「先生に……」
「説教されているのか……」
「桃っちと赤司っちにそんな目をさせるほどのこと!?」

 好きだ好きだ好きだ好きだ優しいところが好きだオレの話に耳を傾けてくれるところが好きだ他の部員よりもオレを優先してくれている好きだ好きだ好きだ好きだ初めて見る表情だ好きだ好きだもちろんオレにしか見せたことの無い顔っスよねああなんて優しいんだ好きだ好きだ好きだそうっスよね赤司っちレベルなら先生に何か小言を言われるなんてことあるはず無いっスよね流石だ好きだ好きだ好きだ好きだ。



「赤司に何か用があるのか」
「……――緑間っち、……いや?そんなことないっスけど、なんでっスか?」
「いや、お前が随分と熱心に赤司を見ているなと思ってな。用があるなら早めに言うのだよ、赤司もあまり暇ではないのだから」
「緑間っちに言われなくともわかってるっスよ、口うるさいっスねー」
「貴様な……」

 好き好き好き好きオレなんて目にも入っていなくともオレ以上に赤司っちのことを分かっているという顔をしている人間がいようともオレは変わらずに好きで好きで好きで好きでこの気持ちがおかしいもののわけがないってちゃんとオレ自覚してるしだから何も問題なんて無いっスよね好きっスよ本当心の底から好きなんスよ。

「喧嘩ですか?」
「黒子っち!聞いてくださいよ酷いんっスよこの眼鏡がオレをいじめるー!」
「いじめてなどいないのだよ!」
「まぁまぁ二人共。緑間君が口うるさいのも黄瀬君が騒がしいのもいつものことじゃないですか」
「あっれ!?黒子っちそれフォローしてるんスか!?」
「お前たち、無駄なおしゃべりはそこまでだ」
「赤司、これは決してサボっていたわけでは無く」
「そ、そっスよそんな怖い顔で〜……、あれ、黒子っちがいない!?」
「逃げ足の早い……!」
「二人共今日の練習3倍、いってみるか?」
「鬼がいるっス!!!」

 好きだ好きだ好きだ好きだ好き好き好き好き好き好き、ああ!その瞳が、オレだけを!オレしか見なくなったら!それはどれほど幸せなのだろう?



「お疲れ様です。タオルです」
「っ、……ふぅ……、はぁっ、あ、ありがとうっス」
「しかし本当に3倍をこなしてしまうなんて黄瀬君は凄いですね。ボクなら無理です」
「あー……、黒子、っちはよく、体育館のスミで倒れてたり、してるっスもんね……」
「ボクなりに頑張ってはいるんですがね。でも赤司君の練習メニューの作り方は絶妙だと思います」
「確かに、絶対に無理なことはさせないっスからねウチのキャプテンは……」
「黄瀬君は赤司君のこと嫌いなわけじゃないんですよね」
「い……きなりっスね、どうしたんっスか黒子っち」
「いえ、何か理由があった訳じゃないんですけど、なんとなく」
「赤司っちのことっスか?まあ厳しいしスパルタだしできついところあるっスけど、嫌いなわけじゃないっスよ」
「そうですか、それを聞いて安心しました」

 ああ、あああああ!流石っス!流石黒子っち!でもそんなわけないじゃないっスか!オレのこの気持ちは!赤司っちへのこの気持ちは!!ああ赤司っち、赤司っち、好き好き好き好き好き好き好き好き好き!



「……黄瀬ち〜ん、お腹でも空いてんの?」
「そりゃ空いてるっスよ。早く帰ってメシ食いたいっス」
「ならなんで戻ってきたのさ」
「忘れ物っスよ〜、青峰っち達待っててくれてりゃいいんっスけど」
「ふーん……早く帰ったほうがいいよ、黄瀬ちん」
「そのつもりっスけど……。あ、あったあった、んじゃオレ行くっスね!――おあっ!?」
「っ、黄瀬、ドアは静かに開けろ」
「うわー、ごめんなさいっス!怪我とか無いっスか?」
「ああ、どこもぶつけてはいない。忘れ物か」
「そうっス!今から青峰っち達と合流して帰るところっスよ」
「そうか。また明日な、黄瀬」
「また明日っス!」

 好きだ好きだ好きだ顔がにやけてしまうなんて幸運なんだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好き好きああ嬉しい嬉しい嬉しい好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き、本当に。

 ――本当に?




「あー……」

 先ほどまで聞こえていなかったシャワーの音が、今はやけに大きく聞こえる。濡れて張り付く髪と、水蒸気で息苦しい呼吸が煩わしい。
 タイルの壁にもたれ掛かるように倒れている相手を見ながらこんなつもりではなかったと心の中で言い訳をするが、どこか高揚をしている自分がいる。しゃがみ込みそっと倒れている相手に触れると、トクン、トクン、と規則正しい振動が伝わってきてほっと息を吐き出す。大丈夫、気を失っているだけだ。
 熱の戻ってきた指先で頬を撫でると微かに身じろぎをする様子が可愛くて、ジンと体が疼くのが分かった。そんな素直な自分の体にため息を吐きたい気分になりながら、素早く周囲を確認し自身にそろりと左手を伸ばす。今の時間帯ならばもう誰も残っていない。だからこそこんな行動を取ってしまったのだから。

「起きないでね……」

 左手で自身を慰めながら右手でシャワーの飛沫を浴びて張り付いた彼の額の髪に触れ、眉、目、鼻、唇と順に撫でていく。人形のように動かない事に息が荒くなる。そして赤い痕がくっきりと残ってしまっている首に触れ、達した。
 大きく息を吐き出し少し落ち着いたらこのままでは不味いと頭が働き出し、思い切りかけてしまった精液をシャワーで流して倒れている体を持ち上げた。ベンチに寝かせタオルで拭いて制服を着せたところでこれからどうしようと考える。答えは既に出ているが、問題はその手段だ。とりあえずシャワー室から連れ出してカバンの置いてある部室へと向かう。ロッカーの中からカバンを取り出すとチカチカと光っている携帯が目に入った。

「はは、なんつータイミングっスか」

 仲良くしているメイクの人からの着信履歴。発信ボタンを押す。
 こうして黄瀬涼太は、赤司征十郎を自宅へ連れて行くことに成功した。



 今度その子紹介してね、と車を降りる時に言われたのを笑って受け流した黄瀬は自分のベッドに横たわる赤司の姿に非常に強い違和感を覚えながら、今、この状況に胸の高鳴りを抑えられないのを感じていた。相手のことが好きすぎて攫ってしまう、なんてフィクションの中だけの出来事だと思っていた。それなのにそれを実行してしまった自分の行動力に驚き、案外簡単だったことに拍子抜けをした。
 今日は両親も姉も帰りが遅いことは分かっているし、黄瀬の部屋には鍵も付いている。間違っても同級生の首を絞め失神させ連れ込むのを隠すために付けたわけではないが今となっては感謝するしかない。
 規則正しく呼吸をする赤司を見つめながら、このまま起きなかったらどうしよう。という、先ほどまで全く考えていなかった不安に襲われたが、それも赤司を見ているとすぐに霧散する。大丈夫、きっとうまくいくという根拠のない自信があった。赤司ならば期待に応えてくれるという信頼があった。それが赤司の意志に沿わないものだとしても。
 オレは一体何をしているんだ、と黄瀬も思わなかったわけではない。意識を奪って相手の許可も取らずに連れ去るなんて通常では考えたこともない事態だ。ベッドの端に座りながらそう思うが、不思議な熱に浮かされたように思考がまとまらない。こんなことは初めてだ。
 もぞりと赤司が動き、閉じられていた瞼が薄く開かれたのを見て心臓が強く脈打った。

「……き、せ?」

 完全に頭の中の何かのスイッチが入ったのはその時だ。その血のように赤い瞳と目が合った瞬間、意識がまだはっきりとしていないからか舌っ足らずな声で名前を呼ばれた瞬間に全てが頭から吹っ飛んだ。そこからは早かった。ネクタイで赤司の手を後ろ手に縛り乱暴に押し倒し、黄瀬の行動について行けていない赤司の視線を笑って受け止めながらシャツのボタンを全て外す。日焼けの全くしていない胸板を撫で、そのままの流れでベルトに手をかけたところで「黄瀬」と、赤司から先ほどよりははっきりとした声がかかる。未だに黄瀬の真意を測りかねているような赤司に愛しさが溢れる。

「オレ、ずっとずっと、赤司っちとこういうことしたかったんっスよ」

 今の己の状況と、明らかに尋常では無い黄瀬の様子からこれから黄瀬が何をしようとしているのかを察し赤司は黄瀬を睨みつけた。

「これは同意を無しにしていい行為ではないだろう。何をしているか分かっているのか」
「赤司っちはやっぱ赤司っちっスね。こんな状況でもそんなこと言えるんだ――そういうところも好きなんスけどね?」

 でも今はあんまりそういう事聞きたくないんっスわ。とカバンに入っていたタオルで赤司の口を塞ぎ、抵抗をする赤司を力づくで押さえつけてズボンと下着を一緒に剥ぎ取る。その黄瀬の行動に赤司はカっと赤くなり足を閉じようとするが、黄瀬に無理矢理足の間に体をねじ込まれそれも叶わなくなる。まじまじと黄瀬に己の秘部を見られているということが耐えられなかったのか赤司は顔を背けた。
 コートの中では大きく見える赤司が羞恥に震え自分の腕の中で小さくなっていることに息が弾む。シャワールームでも一度見ていたが、改めて見ても生唾ものだ。普通に考えて男のものを見るなんてあまり楽しくもないことだが、赤司に限っては嫌悪感など微塵にも感じない。むしろ痛いくらいに腰に血が集まり、無意識にそれを押し付けるとより一層赤司の頬は赤に染まる。
 息が苦しいのか、この体勢が我慢ならないのか、徐々に赤司の首筋や胸元も薄らと桃色に染まりとても官能的だ。赤司の様子をもう暫く目で楽しみたかったが黄瀬もどうも限界が近い。黄瀬は赤司の内ももをなぞるとそのまま窄みに手をやり、しっとりと汗で少し濡れた場所へと指を差し込んだ。触れた瞬間に赤司も今まで以上の抵抗を見せたが、左手で喉を少し強めに押さえると潰されることを危惧したのか大人しくなった。広げるように動かすたびに異物感に吐き気を覚えているのかうぅ、と苦しげな声を上げ体を跳ねさせる。二本目をやや乱暴に突っ込んだところで、黄瀬は男は女と違って濡れないのか、と思ったが最早赤司を気遣えるだけの余裕も無い身、学校でシャワーを浴びたばかりでまだ柔らかいことに感謝をして指を引き抜きジッパーを下ろして自身を取り出した。
 ゴム、と視線を辺りに這わせるが見当たらない。そうしている間に赤司は今から行われることから逃れようと苦しそうに身じろぎ下から這い出ようとする。駄目、逃げないで。と押さえつけるとより体が密着し、その重なり合った体温や張り付く肌が赤司はここにいるのだと、ずっと欲しくてたまらなかった体がすぐそこにあるのだと自覚する。興奮をしすぎていたのか、赤司の表情は頭に入ってこなかった。あるのはただ単に欲しい、という欲望だけ。……あぁ、もう我慢できない。
 ぐ、と赤司の窄みに自分の痛いほどに張り詰めたものを押し当て、身を固くした赤司を無視して腰を進める。

「ふ、ぐぅ……、っ」

 逃げようとする赤司の体を押さえながら少しずつ狭い場所を押し割るように進んでいく。狭い。痛い。少し進むたびにぎゅうぎゅうと締め付けられ快感が脳に突き刺さる。何度か息を吐きながらゆっくりと赤司の肉を割いていく感触を味わい、ようやく全てを収めることが出来た。辛さが黄瀬の比で無いのか、赤司の呼吸は荒く脂汗が滲み出ている。目を合わせてこない赤司の顔を正面に向かせ汗で張り付いた髪を撫でる。普段から肌の白い赤司だが今ばかりは痛みからかこの状況からか青ざめている。少し視線を下へやると、少し紫色になった首の痣が目に入った。

「っ、ん゛んっ」

 ヒリヒリとするのか、熱を持っているその痣に触れると赤司は黄瀬の手から逃れるように顔を背けた。今まで見たことのない表情だ。多分誰も見たことのない表情を今黄瀬は見ている。
 ああ、なんだろう、今とても、とてもとても愉快な気分だ。好きで好きで堪らない赤司を抱いているという事実にようやく心が付いてこれた。ぶわりと感情が波打った気がした。

「は、ははっ、あはは、……赤司っち、っん、あ、気持ちいいっスよ、こんなに熱くてギュウギュウ締め上げて、っ今までのどんな子よりも、赤司っちが一番っスよ。は、っスゲーな赤司っち、こういうとことでも負け無しなんスか?」

 もっともっと赤司の奥を感じたくて、自分を感じて欲しくて黄瀬は更に深くにねじ込むように腰を押し付ける。赤司から苦悶の声が上がるが今の黄瀬に赤司を気遣う余裕は無い。ガクガクと揺さぶられるだけの赤司は目を瞑り、なんとか痛みを逃そうとしているのかその体に力は入っていない。

「っあ、出る……」

 激しく腰を打ち付け、赤司の一番奥に自分を刻み付けるように黄瀬は精を放った。ヒクヒクと震える内部をもっと感じたくてゆるく何度か突き上げ、満足したところでゆっくりと赤司から己を抜き出し、続いてコポリと出てきた精液を見つめる。紛れもなく自分が目の前の人間を犯したという証だ。何故だか笑いが止まらない。

「あ、……血が出ちゃったっスね、」

 ごめんね、痛かった?と優しく声をかけても赤司はぐったりと横たわるだけでなにも反応をしなかった。血と混ざりピンク色になった精液がベッドのシーツに染み込んでいくのを眺めながら黄瀬は赤司の体を起こし、そのまま赤司の頭を自分の肩へと寄りかからせる。腰に手をやり持ち上げるように力を入れると、黄瀬の行動の意味を理解した赤司が何かを言おうとしたがそれは涙と涎で濡れた布に吸い込まれ正しい意味として黄瀬の耳に入ることはなかった。

「好きっスよ……」

 赤司の耳元でそう囁き、腕の力で支えていた赤司をゆっくりと下ろす。今赤司の体重を支えているのは黄瀬の性器だけだ。だがそれも支えている場所が黄瀬を飲み込む場所であった為に支えきれずにそれは赤司の中へと再び入っていく。先ほどよりは随分と簡単に入ってしまったそれに、なんだか黄瀬は楽しくなった。

「……流石に今のはすんなりいったっスね。ごめんね赤司っち、なんか赤司っち見てたらもう一回やりたくなっちゃった」

 その言葉に答える声は無く、横目で様子を伺うと赤司は黄瀬の肩の上で涙を流しているようだった。上手くできない呼吸のひゅうひゅう、という音と、時折鼻をすする音、赤司の目から静かに流れ落ちる涙がとても黄瀬の心を満たす。赤司はこんな顔で泣くのか、可愛いなあ、ずっと見てみたかった、だって好きなんだからしょうがないことだよね。

「赤司っち、泣かないで」

 ゆさゆさと赤司の体を慰めるようにゆするが逆効果だったようで、先ほどよりももっと深くに挿し込んでしまった。その刺激で大きくなった黄瀬の性器に圧迫されて苦しいのか赤司が呻く。こうなったら早く達した方がいいんだろうな、と判断し腰を動かすが、今日は既に二回達しているからか中々絶頂へは達しない。赤司の中で痛いほどに張り詰めているのにもどかしさだけが募る。ずっとこうしていたいのは山々だが、時計を見るとそろそろ誰かが帰ってきてもおかしくはない時間だ。
 黄瀬は赤司の背中に手を回し、赤司の両手の自由を奪っていたネクタイを解いた。だらん、と力なく垂れる赤司の腕に痛々しさを感じながら痕になってしまった部分を撫でる。赤司の腕を持ち上げ自分の首に回し、抱きつかせる形にして赤司の耳元で「――赤司っち、お願いがあるんスけど」と黄瀬は囁いた。ぼんやりとされるがままになっていた赤司は黄瀬の表情を見て、何かを悟ったかのように震える足に鞭を打ち、腰を浮かせた。

「ン、ぅ、」
「……っあ、は、いい感じ、赤司っち、」

 早くこの行為を終わらせたいとでも言うかのように赤司は義務的に動くが、それでも赤司からの刺激、と思えば黄瀬は昂ぶった。二人の気にあてられたのか部屋の中には熱がこもり、腰を動かす赤司からは汗が滴り落ちる。熱で正常な判断ができなくなっているのか、黄瀬は二人が繋がっている箇所を見つめまるで一つにでもなったかのように錯覚をした。
 蠢く赤司の内部に限界を覚え、黄瀬はちょうど腰を浮かした赤司をかき抱き中へと精を吐き出した。



 翌日。

「キャプテン、ちょっと相談があるんスけど」

 声をかけられた赤司は、コートへと向けていた視線を横へと移しいつもと同じように返事をする。
 声をかけた黄瀬も、いつもの通りの態度であり周りの部員は何もおかしいことなどないかのように練習を続ける。
 だが黄瀬は今日赤司がいつもよりも体の動きが鈍いことも、一瞬だけだったがこちらを見て体を強ばらせたもの知っている。あの後すぐに玄関が開く音が聞こえて後始末もそこそこに黄瀬と赤司は別れた。扉の前で母親と出会った時に何事も無かったかのように振舞う赤司に流石と思いながらも、車の音でもうすぐ家の中に入ってくることを知っていた黄瀬はタイミングぴったり、と内心でほくそ笑んでいた。

「ここじゃちょっとアレなんで、終わった後に時間もらえるっスか?」
「……いいだろう」
 
 昨日は録に話も出来ずに赤司を帰してしまったものだから、赤司も良い機会だと思ったのだろう。それを分かった上で声をかけたのだ、そうでなくては困る。

 緑間にも何も感づかせない赤司の精神力には正直驚いた。というのが今日一日部活中の赤司を観察していて思った黄瀬の感想だ。何度か黒子にどこを見ているんですか?と聞かれたが、ただ単に集中力が乱れていると捉えられただけで赤司を見ていたことには気付かれなかった。

 今は使用頻度の低いものを置く場所として使われている、少し埃っぽい部屋で机に体重を預けて赤司が来るのを待ちながら、黄瀬は高い場所にある小窓を見つめていた。バスケ部は人数が半端じゃない数がいるのに加え居残り練習をする者も少なくはない。人の入ってくる可能性のある部室や、文化部が散らばっていて人の動きが読めない校舎内では困るのだ。なので前に見つけたこのほとんど人の寄り付かない、黄瀬の調べた限りでは既に一ヶ月は誰も入っていないこの部室から少し離れた場所にあるこの小部屋に来るよう赤司にメールを送っておいた。そのことから何かに気付くだろうか?とも思ったが、それはそれで面白い。メールの文面を読んだ赤司がどんな表情であったかを想像している内に、ドアノブが動いた。

「待たせた。黄瀬、相談とはなんだ」

 入って開口一番に出てきた言葉がそれだったことに、黄瀬は思わず吹き出しそうになった。だが辛うじてそれは堪え、先ほどの体育館では可愛かったのに通常通りの赤司に戻っていることに少しがっかりした。赤司っち、冷静になるの早いって。と心の中で文句を言い、だがそれも赤司らしいか。というところに落ち着いた。
 鍵かけてちょっとこっち来てください、と言うと赤司は素直に黄瀬の言う通りにし、黄瀬の目の前に立った。部活の時はタオルで隠れていて見えなかったが、昨日赤くなっていた首の痕は消えているようだった。そこまで強くやったわけではないので不思議では無いが、残念だ。
 黄瀬の視線を感じて少し居心地の悪さを感じているのか何度か赤司は足の重心を変えているようだった。黄瀬が口を開くのを待っている赤司に黄瀬は右手を伸ばし、赤司の左腕に触れたところで赤司は反射的にだろう、手を引きかけたが黄瀬はそれを逃さず掴んだ。掴んだ箇所からじわりじわりと熱が伝わってくる。それに、もしかして少し震えている?表面上には現れない赤司の内心を感じた様で心が跳ねた。

「……黄瀬」

 無言の時間に耐えられなかったのか、赤司は視線を机に腰をかけていていつもと近い黄瀬の目線に合わせる。黄瀬はその視線を受けながら、少しずつ手を下ろしていき指先が冷たくなってしまっている赤司の手を握った。

「好きっス」

 ずっと心の中に秘めていたものを口にするのはもっと勇気がいるものだと思ったが、予想外にするりとその言葉が出てきた。驚いた様子の赤司を見ながらそこまで変なことを言っただろうか?と少し不安になる。昨日のあの行為だって、好きという気持ちが走りすぎて引き起こされたことなのに。

「好きなんス。……ずっと前から赤司っちのこと見てた。オレ、赤司っちのこと考えると苦しくて苦しくて、どうにかなっちゃいそうだったんっスよ」

 ぶわり、と黄瀬から噴き出した熱を感じたのか赤司は一歩後ずさろうとしたが、黄瀬はそれを許さなかった。握っている手に力を入れ自分の方へと赤司を引く。
 嫌だ。駄目。逃げないでくれ。こんなにこんなにこんなにこんなに苦しいのに、そんなオレを見捨てないでくれ。ここまで来たら引き返せないのだ。赤司に対する気持ちはもう止まらなくなってしまった。一度赤司の体を味わってしまったら、際限なく欲しくなった。お願いだ。受け取ってくれ。オレから目を逸らさないで。

「ね、部員の悩みを解決するのもキャプテンの仕事っしょ?こんなにオレ悩んで悩んですっごく悩んでるのに、それを無視するの?部活に影響出ちゃうよ?――折角オレのために灰崎クン退部させたのに、その意味なくなっちゃうっスよ」

 最後の言葉を聞いて赤司は何かを言いかけようとしていたが、黄瀬の表情を見て赤司は口を閉じた。黄瀬は今どんな表情を自分がしているのか分からない。だが次に赤司が言った言葉を聞き、きっととても酷い顔をしているとだけは分かった。

「……お前の気が済むのなら、暫く、好きにしてもいい」

 珍しく視線を逸らし気味に言った赤司の言葉を頭の中で反芻する。
 好き、と伝えて、好きと返ってきたわけではないが、赤司は拒絶をしなかった。この問題には全く関係の無い部活のあれこれを持ち出してまでそれを願ったのは黄瀬自身だ。赤司はそれに応えた。
 赤司。赤司。だから好きなんだ。ずっと垂れ流しているにも関わらず、際限なく赤司への”好き”は溢れ出す。一体どこからこんなに”好き”が生み出されているのかが不思議なくらいだ。
 嬉しさのあまり手を引いて抱きしめる。今度は赤司の体は強ばらなかった。先ほどのやり取りで何かが吹っ切れたのか、気持ちの整理が黄瀬の気持ちを聞く前よりは付いたからかは分からないが。本当、赤司はいつだってそうだ。そこが好きで好きで堪らない。本当に馬鹿だ。

「ここの部屋ね、鍵、ずっと見当たらないままらしいんスよ。だから中から鍵をかけてしまえば外からは誰も開けることはできない、そういう部屋なんス」

 その言葉で赤司は黄瀬が今、何をしたがっているのかを察したようで少しだけ顔を俯かせた。昨日の事を思い出しているのか苦々しそうな表情だが顔が少し赤い。特に拒否の言葉も抵抗も無かったのでOKと黄瀬は受け取った。

「赤司っち昨日は後始末もしないで帰しちゃってごめんね?あの後どうしたの?」
「体調を崩すといけないと思ったから、……」

 その言葉だけ聞ければ充分だった。時間さえあれば自分の目の前で掻き出して欲しかったが、赤司のこの表情を見れただけでも充分満足が出来る。きっとこれも今までに誰も見たことのない表情だ。

「じゃあそこに立って、後ろ向いて」

 頑なに目を合わそうとはしなかったが、既に覚悟を決めたのか赤司の抵抗は無かった。それが少しつまらない。こんなに簡単に大人しくなるようなら最初の時、縛らずに暴れさせればよかった。少なくとも今みたいに無抵抗ではなかった。
 だが、黄瀬に背を向け黄瀬の行動を待つ赤司、というのも新鮮なものである。赤司がこの後どんなことになるかは自分次第、ということに黄瀬は機嫌が良くなり後ろから覆いかぶさる。少しだけ赤司が震えたような気がしたが、もしかしたら気のせいかもしれない。

「赤司っち、自分でベルト外して?」

 無言で赤司はベルトに手をやりベルトを緩める。そしてズボンと下着を一緒に下ろし服を横へと置く。それを後ろからずっと見ていた黄瀬は、ああ、シャツって長いから完全に隠れちゃうんだ。と下着を脱いだけれども見えない赤司の臀部の部分の布を見る。まぁ、隠れてたって意味ないけどね。とシャツを捲りあげ赤司の肌を露わにした。
 白い肌に点々と赤い痣のようなものが散っているのを見て、昨日は乱暴にしてごめんね、と申し訳ない気持ちになる。昨日は黄瀬も興奮をしていて力加減が分からなかった。抱きしめたときなどに指に力が入りすぎていたのだろう。用意していたローションパックをポケットから取り出し破って右手に垂らす。掴まらせるために赤司の胴体に左腕を巻きつけ、右手で太腿をなぞり窪みへと手をやった。先ほど指に馴染ませたローションを伸ばすように表面に塗りつけ、指を一本差し込む。ぎゅう、と赤司が黄瀬の左腕にしがみついたのを感じながらやけに熱いな、と黄瀬は思った。

「い、……っ」

 動かすたびにやけに痛がる赤司を支え、そういえば昨日切れていたなと思い出す。指を抜いて様子を見てみると、やはりと言うべきか赤く腫れていて痛そうだ。だが触ってみた感じ、柔らかくはあった。昨日の今日だ、ローションも塗りこんだことだしきっと入るだろう。黄瀬がコンドームの袋を破った音を聞き赤司が強ばったがその様子すら黄瀬を興奮させる要素だ。
 腰に手を当てて先端を押し当てたところで反発感のようなものを覚え、黄瀬は赤司が力んでいることに気付いた。なんだ、平気なフリしてもやっぱり緊張してるんじゃないか。その事実が何やら心地が良い。
 思い切り力を乗せ、赤司の一番深いところまで強引に割って入る。

「――っ、ひ……!」

 声にならない叫び声が聞こえた。思わず逃げを打つ赤司の腰を掴み黄瀬は最奥まで己の起立したものをねじ込んだ。今にも足から崩れ落ちそうな赤司を支え、馴染ませるようにゆっくりと腰を回す。まだまだ狭いが、昨日よりは抵抗が少ない。自分で処理をしたと言っていたが、流石の赤司もこのようなことは初めての経験であっただろうし、完璧ではなかったのだろう。昨日中で出してしまった精液がまだ残っているような、そんな柔らかさを感じながらじっくりと二度目の赤司を味わう。

「ァ、ぐ、……っん」

 ゆるゆると動きながら、突くたびに小さく声を上げる赤司が楽しくてつい意地悪をしたくなる。

「立ったままじゃ、辛くないっスか?」

 赤司の腹を押さえて更にねじ込むようにしながら聞くが、赤司は横に首を降る。このままの状態で黄瀬が達し、早くこの行為を終わらせることが赤司の望みなのだろう。それがわかっているからこその質問だ。いや、質問ではない。既に黄瀬の中では確定していることがあるから。ゆっくりと赤司を自分の方へと引き寄せ、そのままそっと後ろの長ベンチへと腰をかける。

「うァ゛っ!」

 赤司の体重により黄瀬を根元まで飲み込む形になり思わず赤司は仰け反った。痛みと突然奥まで犯された衝撃でぶるぶると耐えている赤司を見ているとなんだか可哀想になり、仕入れたばかりの記憶を思い出す。赤司の両足の膝裏に手を入れ、そのまま持ち上げる。

「あっ!?な、にを……」

 自分の膝が自分の胸に当たるまで曲げられ息苦しさを覚えながらも、赤司は黄瀬を伺うことしか出来ない。何度か黄瀬がその状態で赤司を揺さぶり、何かを探しているのか?と赤司が思い至ったところで、脳まで真っ直ぐ何かに貫かれたような衝撃が体を襲った。思わず黄瀬の腕から逃げようともがくが、黄瀬は赤司の行動は想定内だとでも言うように押さえ込む力を強め先ほど赤司が反応をした箇所を執拗に責める。ごつごつと、黄瀬の亀頭に突かれる場所に何があるのかも分からず息も上手くできない。強すぎる刺激に赤司は恐ろしくなりついに瞳から涙が零れた。

「ああ、赤司っち泣いちゃったっスか?気持ちよかった?痛くはしてないっスよね、昨日は血出ちゃったからさ、オレ赤司っちのために色々とベンキョーしたんっスよ、どうやったら男同士で気持ちよくなれるか、どうやったら赤司っちを満足させてあげられるのか」
「あっ、あ、や、やめ、っ、ぃやだァっ!」

 涙で顔をくしゃくしゃにさせ横に首を振るしかない赤司は自分の腹に何か熱いものがかかった気がしたが、それが何かすら分からないくらいに頭が真っ白になり今にもおかしくなってしまいそうだ。
 一度射精をしたにも関わらず、未だに赤司の性器からどろどろと精液が出続けるのを見て黄瀬は笑った。

「は、ハハ、よかった、赤司っちもちゃんと気持ちいいんっスね……。オレ、赤司っちがこれで不感症だったらどうしようって思ってたっスよ」

 ここまで効果があるとは知らなかった。男の体に、”ものすごく気持ちよくなる場所”があると知ったときは眉唾ものだったが、あの赤司がこんなにも善がっているのを見ると信じるしかなさそうだ。昨日も今日も、挿入だけでは何一つ反応をせず萎えていた赤司の性器が今ではこの有様だ。見る限りでは今の二度目の射精にも赤司は気付いていないようだ。流石にやりすぎか、と思い例の場所から狙いを外し奥へと収める。

「ッ、ハ、ぁ、う……」

 荒い呼吸を治めながら肩で息をする赤司の内腿を撫でると赤司の体は跳ね、今ちゃんと意識があるかすら危ういのではと様子を伺った。涙と涎とで大変なことにはなっていたが、瞳に光はまだあった。膝裏から手を抜き、なんだか浮いてどこかへ行ってしまいそうな赤司を抱きしめ小さく揺らす。

「ふぁ、ん、」
「なんでだろうね……?オレ、アンタとこうしてると、マジで頭溶けそう……」

 ずっとこのままでもいいくらいの心地よさに黄瀬は射精を意図しない動きで赤司をゆすり続ける。息も整い理性が戻ってきたのか、そんな黄瀬を急かすように時折赤司の中が蠢く。なんだかそれがとても愛しくなり、今度は先ほどとは異なり思い切り開脚をさせるように赤司の足に手をやり持ち上げる。

「……! き、せっ!」

 羞恥が快楽に優ったのか赤司は慌てて足を閉じようとするがそれを黄瀬は許さず先ほどよりも強く突き上げる。その振動に力が抜けたのか赤司の抵抗が止んだ。

「オレたち、っ今、すごいことしてる。この状態で、誰かが入ってきたらどうする?赤司っちの、恥ずかしいところ全部見られちゃう、ね?」

 この時間、残っている生徒などほぼいないし鍵もかけていて、何よりもこの場所の安全性は黄瀬が一番知っているが絶対に人が入ってこないという保証も無い。腹を精液で汚し、後ろに男をくわえ込んでいる。こんなことが白日の下に晒されてしまうなんて、考えただけで顔が青くなる。それを想像してしまったのか赤司の中が黄瀬を締め付け、その刺激が射精を促し黄瀬は赤司に絞られるように達した。



「お前のこの行為には、どんな意味があるんだ」

 気怠そうにしながらもキビキビと後片付けを済ませた赤司だが、流石に疲れたのかベンチに座ったまま、少し掠れた声で水分補給をしている黄瀬に向かい問いかけた。口の中の水を嚥下しボトルを赤司に渡した黄瀬は不思議そうに赤司を見た。

「好きだから、っスよ……それ以外の何があるっていうんスか?」

 黄瀬がそう言うと、ボトルを握ったまま微動だにしなかった赤司は黄瀬を見上げるようにじっと見つめ、黄瀬は居心地が悪くなる。赤司に見つめられると、まるで体の中をまさぐられる様な感覚になることが多い。黄瀬はそれが苦手だ。

「オレは、お前はオレのことを嫌っているのではと思っていた」

 は?と間抜けな声が口から飛び出た。
 きらい?オレが?赤司っちのことを?そんなわけはない。
 だって、好きだから、我慢できなくなったから自分はこんな行動をしてしまったのだ。

 赤司っちも間違うことあるんスね?と黄瀬は驚きながらそろそろ帰ろう、と赤司の腕を引いた。引っ張るな、と言う赤司を無視して赤司と自分のカバンを持ち扉を開ける。校門まで会話も無く歩きながら、先ほど赤司に言われた言葉がずっと頭の中でぐるぐると再生され続けていた。
 ”お前はオレのことを嫌っているのではと思っていた” それは、無いだろう。どうしてそんな事を赤司が思ってしまったのか分からない。

 それに。だって。
 嫌うはずなんて無い、じゃないか。

 ――オレと、同じなのに。

                ……?

.
.
.
 最初の内は何度かやってしまえば治まると思っていた。だが駄目なのだ。赤司という人間を、一度味わってしまったら病みつきになる。中毒性がある、という言葉が一番しっくりとくるだろう。初めは人形のように大人しいのに、行為が進むにつれ白い肌は朱に染まり、淫らなことなど何一つ知らない、とでも言うような普段の赤司からは想像もつかないほどに官能的に黄瀬を煽る。恐ろしいのは、それが無自覚だと言うことだろう。終わった後は、またしてもなんでもないような顔をしながら、それでもしっかりと情事後の雰囲気を漂わせながら帰っていく。そして再び会ったときには何事も無かったかのように完璧に振舞う。そのギャップの激しさが堪らなく、――……。


 赤司が黄瀬の部屋に来るようになってから何度目かのある時。やることはもう一つしかないのに、毎回自分から服を脱ごうとしない赤司のささやかな抵抗が黄瀬は最近なんだか可愛く思えてきた、そんなことを黄瀬が考えていた時。赤司はベッドの端に座りながらふと口を開いた。

「黄瀬」
「なんスか?」
「お前は今、楽しいか」
「はァ……?」
「バスケ部に入部して、楽しいか」
「……」

 最初、違う事柄に対する問いかとも思ったがどうやら違うようだ。相変わらず何を考えているのかが分からずに赤司を見返すが答えるまで引きそうにない様子だったのでネクタイを外しながら黄瀬は考えた。
 バスケ部。帝光中学校、強豪バスケ部。
 青峰大輝。追いつけない相手。初めて憧れ、追いかけたいと思った人。そんな存在を見上げながら全力を尽くすのは楽しかった。こちらが成長するとそれ以上に成長をして、ずっとわくわくさせてくれる。
 黒子も、初めて見るタイプの人間でとても面白い。紫原も、緑間も、一癖も二癖もある部員たちと一緒にやるバスケは楽しい。なによりも自分を退屈させないところが好きだ。
 赤司征十郎。青峰とは別に、追いつけない相手。非の打ち所が無い、バスケ部の主将。

「やだな、楽しいに、決まってるじゃないっスか。オレが本気出しても大丈夫なところなんて、今まで無かったんだから……」

 黄瀬は赤司をどこか別のところに立っている人間だと思っていた。まだセンパイという存在がいる中で主将になり、その役割をこなす姿を見ていればそれが当然のように思えた。グループ別の試合の時は一度も赤司のチームには勝てたことがない。だが青峰に対する感情とは違い、向かっていこうという気持ちには不思議とならなかった。どこかそれを当たり前と思っていた。
 だが、それとは別に、ふつふつと心の底から湧き上がる感情が芽生えたのはいつからだっただろうか。

 ――その感情が恋なんだろう?

 黄瀬は今までそう思っていたし、今だって。でなければこの赤司に対する気持ちはなんだと言うんだ。
 泡のように湧き上がり、ゴポリと音を立てる感情。放っておくとどうにかなってしまいそうなほど強い欲求。その熱を思い出し黄瀬は自分の中で何かが渦巻いた気がした。

「……今はバスケとは関係ない時間っしょ?」
「……そうだな」
「ねぇ赤司っち。今日はいつもと違うことしないっスか?最近赤司っちもちゃんとイけるようになってきたし、マンネリ化しちゃってるような気がするんスよね」

 大人しい赤司の手を取り、黄瀬はにこりと笑った。
 今日は酷いことがしたい気分だった。



「っん、ぐ……ん、ぅ……」

 苦しそうに足の間で呻く赤司のつむじを見つめながら、左目がある場所を予測してその部分を爪でカリ……と引っ掻く。その振動が伝わったのか赤司は肩を震わせて動きを止めかけたが、耳を撫でて止まらないで、と催促をすると再びぎこちなく舌を這わせ始めた。
 こういうの、興味ある?と知り合いから貰ってずっと放置をしていた目隠しは、随分と本格的なものだったらしい。革で出来ているから高いんだろうなと思ったくらいで興味は無かったが、赤司に着けてみてそれが分かった。着けるとき赤司は嫌がったが、既に両手が縛られ録な抵抗が出来ないことと、黄瀬が引かないということを理解し渋々だが着けさせてくれた。
 赤司が動くたびにエナメル皮の擦れる音が聞こえ、部屋中にいやらしく響く。時折肩が揺れているのは、きっと後ろで縛った手を無意識に解こうとしているからだろう。口の中という粘膜に本来入らないはずの異物をねじ込まれ、抵抗の意思を削がれ、それでも必死に言われた通りに舐め、頬張り吸い付く赤司に非常に強い愛しさを感じる。時折聞こえる赤司の咽せる声や、にじみ出る汗を見ていると自分がとんでもないことをしているな、と思わされる。でも、赤司が。そう、赤司が、変なことを聞くから。
 本当はこんなことするはずじゃなかった。でも、赤司が正しいから、……いつも正しすぎるからそれを壊してみたく――。
 ……?
 思考が思わぬ方向へと進み黄瀬は首を傾げた。違う。これは赤司が好きだから、好きな相手にこんなことをしてもらえたら、気持ちいいだろうな、と……。

「ぃ゛っ……」
「っ、」

 顎が疲れてしまったのか力加減を測りかねたのか、赤司の歯が当たり痛みが黄瀬を襲った。余りにも突然に起きた出来事だった所為か、不意打ち気味に赤司の顔に精液をかけてしまう。何が起きたのか分からない、と言う風にぽかんとしている赤司の顔を白い液体が伝う。赤い、サラサラとした髪にこびり付きエナメルを伝い、顎から滴り落ちる。

「あー……ごめん。ちゃんと拭いてあげるね」
「いや……」

 タオルを手に取ろうとしたが、下を向く赤司がもどかしそうに揺れたのを見て視線を下げ目に入ったのは。

「は、は……何、オレの咥えて赤司っちも興奮しちゃった?かわいーなぁ……」

 我慢できずに黄瀬は赤司の頭を掴み、自分の性器をもう一度赤司の唇を割り差し込む。達したというよりは精液が飛び出ただけ、という宙ぶらりんな状態だったので再び硬度を取り戻すのに時間はかからなかった。驚いた赤司の抗議の声は声には成らず喉奥で黄瀬を刺激するだけのものとなる。先ほどは半分咥えるだけでも苦しそうな赤司を見て無理はさせていなかったが、今度は喉奥まで容赦無く突き入れた。そして亀頭も出そうなくらい引き出し、再び奥まで。ぬるりとしたものが手に触れそれが赤司の涙だとも気付いていたが止めれそうにもない。
 喉の奥を突く度に呼吸の引き攣る様な音が聞こえる。まだ手が使えたならば抵抗も出来ただろうが、現実は両手は縛られ視界を奪われ頭を掴まれて好きにされている。そんな赤司が可哀想で可愛くて、何度も嘔吐く声を聞きながら黄瀬は赤司の喉奥へと精を放った。

「っ!?んんっ……!……ぐ、っふ、」

 全てを出し切るまで離してやらなかった所為か、赤司の口端からボタボタと精液が零れ落ちた。飲んでしまった分もあるが、大半は飲まずに口の中に残っている。黄瀬は性器を抜き取り、酸欠で顔を真っ赤にさせながらも口を閉じてこれをどうすればいいんだ、と混乱している赤司を見て流石にやりすぎた、と反省をした。

「赤司っち、ホラここに吐いて」

 と黄瀬がティッシュを何枚か引き抜き赤司の前へと持っていく。引き抜く音で目の前に広げられているものが何なのか理解した赤司はうぇ、と白色の液体を吐き出した。器官にも入ってしまったのか暫く咳き込み、落ち着いたところを見計らい黄瀬は口元も拭ってやる。
 まだ口の中に違和感が残るのか、微妙な表情をしている赤司を促し自分の上で膝立ちをさせる。黄瀬の足を跨いでの体勢なものだから足を閉じれないということと、黄瀬の目の前に自分の性器を晒していることに早速気付いたのだろう、赤司は耳まで顔を赤くして少しだけ顔を逸した。
 黄瀬がそっと内腿を触ると面白いくらいに赤司は反応し、目隠しをしているから何をされるか分からないのか、と黄瀬は楽しくなり暫く色々な部分に触れ遊んだ。赤司の性器が完全に勃ち上がり、もう止めてくれ……、と赤司が泣きそうな声で囁いたのを聞いて満足した黄瀬はローションのボトルを手に取り、赤司を少しだけ前かがみにさせローションが尻の間へと流れ込むだろう部位へとローションを垂らした。冷たさに体を震わせた赤司を支え、黄瀬の足へと垂れてくるローションを無視し窪みへと行き成り二本、指を入れる。

「う、うぅー……!」

 差し入れた二本の指を広げるように動かすと赤司が頭を黄瀬の肩へと押し付けるように体重を預けてきた。両手を縛っているからバランスが取れず、そして視界を奪っているから後ろへ仰け反るのも危険、と判断したのだろうか。左手で自身にゴムをつけ、右手ではバラバラと指を動かし上から流れてくるローションを中へと引き込むように馴染ませ、柔らかくなったな、というところで引き抜き体勢を変える。
 頭ぶつけないようにね、と赤司をベッドの上に倒しうつ伏せになるようひっくり返す。今の赤司の体重をを支えるものは頭と、縛られていない両膝だけだ。思い切り今の体勢が黄瀬に腰を突き出している状態だということに気付き文句を言われる前に黄瀬は赤司に覆い被さり硬くなった自身を挿入した。

「うぁ……っ! んっ……」

 ぬぐぐ、と一気に自身へとまとわりついて来た肉壁の熱さを感じて黄瀬は満たされた気分になる。何度か狭い中を押し広げるように動き、ゆさゆさと揺さぶる。

「っはぁ、赤司……っち、きもちいーよ……すっげーあったかくて、ナカがビクビクしてんの……」
「っあ……う、る、さいっ……んぅ……っ!」
「あ、ははっ、知ってる?赤司っち、あのね、赤司っちが、っは、しゃべるたびに一緒に中が、キュウキュウしてんの。もっともっと、って言ってるみたい。目隠ししてんのが関係、してんのかな?っ、ね、いつもより気持ちいいでしょ」

 それを言うと赤司は真っ赤な顔で首を振り、口を噤んでしまった。
 可愛い、すっごい可愛い。ずっとそのままでいて。一番綺麗なままの赤司でいて。オレが一番好ましいと思っている赤司のままに。
 今までよりもより一層激しく腰を打ち付け、コリコリとした赤司の良い部分を責め立てるように擦ってやると声にならない悲鳴が聞こえた。すごくいい、もっと、もっと見せてくれ。突かれる衝撃で息も絶え絶えで、押し込む度に赤司の性器からは精液が垂れ流れる。あまりの気持ちよさに正気が吹き飛びかける。きっと赤司も同じことを思っている。そうだとしたら、どんなに幸せなことだろう。
 ふと、逃げる場所を探すかのように赤司は指を震わせ、赤司の両手を押さえる黄瀬の手に赤司の指が絡まるように触れた。ピタリと黄瀬は動くのを止め視線をそこへと向ける。衝撃を逃がそうとしているのか赤司は額をシーツに押し付けている。背中から浮き出る汗は流れ落ち、今や首から広がるように体がピンク色になっている。こんなにも扇情的な様子が視界に映るのに、黄瀬の視線は握られた手に釘付けになる。

 ……なんで?
 そんなんじゃねぇだろ。
 こんな、縋り付くみたいな真似、あんたはしないだろ?
 ……なんで。
 なんでこんなことするんだよ!?

 目の前が真っ赤に染まる。

「やめろ……やめろやめろ!オレなんかで変わるなよ、あんたはそんな人間じゃねェんだよ!」

 黄瀬の大声に赤司が驚いたように体を跳ねさせ、シーツに押し付けていた顔を浮かせ見えないはずなのに黄瀬を伺おうと振り向いた。そのいつもと変わらない様子に黄瀬はハッとし、あんなのは生理現象みたいなモンじゃねーか、と自分自身に舌打ちした。

「ハ……はは、大声出してごめんね、……なんでもないっスから」

 萎えかけている自分に気付いて、それが赤司に伝わる前に赤司の性器を握り込む。何度も射精を繰り返し、突かれる衝撃での生理現象と最近拾うことが出来始めた快楽とで半勃ち、という状態だったがそれに強く刺激を与えるとみるみるうちに強く芯を持ち始めた。突然与えられ始めた強い快楽に赤司は口でシーツを噛み、なんとかそれに耐えている。何度やっても、何をしても赤司は自分を保とうとする。その変わらない赤司の高潔さに黄瀬はぞくりとする。

「ホント、赤司っち……」

 すげえな、普通、ここまでやれば少しくらいは人間変わっていくものなのに。
 そうだよな、あんたはやっぱりそう、変わらない人間なんだ。
 オレあんたのそういうところすっごい好き。
 好き、好き好き好き好き好き好き好き大好き、好き。好き、……。……――
 ……――すきって、なんだっけ?

 ”ねえ涼太” ”どうしてあたしと付き合ってくれたの?” ”あたしのどこが好き?”
 何を言ってるんだ? ”あんた” が、 ”オレ” を、 ”好き” なだけだろ?
 最初に女と付き合ったのは中学に入って間もない頃だ。小学校の頃から女の子はませているな、と思っていたが中学校に上がってからはそれは顕著に思えた。今までよりも一歩踏み込んでくる相手にまあいいか、と思い付き合い始めることになった。恋愛のなんたるか、というのにはあまり興味が無かったし自由奔放な姉を見ていると大変なだけとも思ったが、涼太が一番好き、大好き、といつも言ってくる相手にほだされある程度の情も生まれた。だがその相手が友達と話しているところを偶然見つけ、話かけようとしたところでその会話が耳に入ってきた。

『涼太と一緒にいると他の女がうらやましーって目で見てきてすっごい気持ちいいの』
『うわーあんた悪女だね!で、黄瀬くんに他のモデルの男の子紹介してもらえるのいつになるの?』
『もうちょい時間かかりそうなんだよね。まぁ雑誌見てても一番かっこいいの涼太だからいいんだけどさ。あっ、涼太もうすぐ誕生日なんだけどさ、何あげたらいいんだろう。あたし涼太の好きなもの知らないんだよね』
『それっぽいのどっかで買ってきたら?これ手作りなの、とかって言えば騙されるんじゃない?』

 気持ちが冷めるというのはこういう事なのだろう、と、意外にもその女を好きになりかけていた自分に気付いて笑いが零れた。好きと言われて気持ちよくなっていたなんて、自分で自分にびっくりだ。その好きの裏にあるものにも気付かずに。そして最初の彼女とは黄瀬の誕生日を迎える前に別れた。ごねられたが執着をしているのは黄瀬の外見とその周りにあるものだとわかっていたし、切り捨てるのは簡単だった。酷い、と言われ思わず我慢できずに笑ってしまった。酷い?酷いのはどっちだよ。ぽかん、とする女にオレ、流石に駅前の有名な菓子店のものを手作りって言われて渡されたら騙されてあげる自信なかったっスから、と言うと顔を真っ赤にして怒り去っていった。
 それからは付き合う、なんて面倒なことをしなくてもそれっぽいことは出来るということを知り、そのほうが楽だとも分かった。後になって束縛をしてくるような女はどんなタイプか、割り切って楽しむタイプはどんなか、というのも仕事仲間に教えてもらったり自分で見極めたりして、面倒事にはならないようにだけ気をつけていた。
 寄ってくる人間全ての気持ちを確かめるなんて出来るはずもなくて、でもどうしてかそれが分かってしまって。人を好きになるってどんな気持ちだったっけ。あたたかくて、気持ちの良いものだった気がするんだけど、どこで落としたのかそれが見当たらない。
 嫌なことを思い出した、と黄瀬は顔をしかめくそっ、と小声で吐き出した。頭に血が上っていることに気付いていたが、どうにも抑えられなくなる。

「赤司っち知ってるっスか?人間は、他人を見下す生き物なんスよ?自分が一番大事で、他人に優しくするのもぜぇんぶ自分が気持ちよくなりたいから。そうすれば自分が優しくしてもらえるって知ってるから。悪口も言うしなんでも人のせいにするし、勝手に期待して群がって美味しいところだけ奪おうとするような生き物!オレのことなんにも知らないくせに寄ってくる人間なんてみんな気持ちが悪い!ばっかじゃねーの!」

 いつの間にか止まっていた手を再び動かし赤司を絶頂に導く。語りかける口調で言ったが、半分は聞こえていなくても良いと思いわざと強く刺激を与えた。ベタベタになった手をシーツで拭い赤司の腰に手を当てぐい、と引き寄せるように深く突き入れた。
 割り切っていたはずの言葉なのに声に出すだけでどうしてこんなに苦しい。わからないわからない。以前までは大丈夫だったのに、いつからこんな風になった。
 ボタボタと汗が赤司の背中に落ちていく。気遣いも優しさも、気持ちよくなろうとする気すらない動きに赤司が苦しそうに呻くのを聞きながら、何故今日はこんなに汗が目にしみるのだと乱暴に黄瀬は顔を拭う。

「なのに……なんでだよ、なんであんただけ……っ、あんたも、あんたがっ」

 オレだけが汚いみたいじゃないか。どうしてだよ、一緒の人間じゃないか。
 そこにいるだけで周りに人が集まって、頼られて、凄いねって褒められて。同じだろ?オレとあんた、同じところはたくさんあるだろ?でもなんで。どうしてこんなに、近くて遠いんだ。
 あんたといると、自分が本当に駄目になってしまうんだ。



***



「好きです」

 聞き慣れた言葉が聞こえ、周りを見渡すが誰もいない。空耳か?と思い足を進めると木の陰に女子生徒が隠れていたのが見えた。お、っと思い足を止めるとその女子生徒の前には一人の男子生徒がいることに気付いた。幸いその二人はこちらに気付いていないようだし、ここまで来てしまうと下手に動かない方が邪魔にならないだろうと判断し黄瀬は物陰に隠れた。
 自分に対する告白は何十回と見てきたが、他人の告白は初めてだ。興味が全くないというわけもなく、バレない程度に様子を伺う。女子生徒は後ろ姿だけで誰か分からないが、男子生徒には見覚えがあった。春から入ったバスケ部の、確か副キャプテン。まだ二年生なのに副キャプテンを務めるなんてどんなスバラシイ人間だ、という興味があったし、自分が言うのもなんだが目を引く容姿をしていたことも記憶に残っていた理由の一つだ。

「ありがとう。でも、すまない」

 その声が聞こえてきて、ま、当然っスよね。と最初に浮かんだ感想はそれだった。控えめに言ってもバスケ部の活動は忙しいし、何よりもまだ赤司のことは何も知らないが、そういうことに興味があるようには見えなかった。
 やっとこの道が通れる、と気を抜いて二人を見ると、女子生徒は断られたにも関わらず清々しい様子で去っていったのが驚いた。最初から結果が分かっていたような。ならそんな意味ないことすんなよ、とも思ったが所詮は他人事だ。だがそれ以上に衝撃的だったのが、赤司の方だ。ぽつりと小声で「どうして……」と呟いてしまうほどに。その理由は分からない。
 その時の赤司が、何故かいつまでも目に焼きついて離れなかった。

 そんなことがあったことなんて、最初はすっかりと忘れていた。だが赤司を知れば知るほど、不思議と近さを感じた。そしてそれと同時にいつも思い出されたのがあの告白の時の赤司だ。むしろ、あの告白を見ていたからこそ近さを感じていたと言ってもおかしくはない気がした。だが、近いのに、そう思うのに、告白を受けていた赤司の表情が、あまりにも自分のものと違っていたことがいつも気になっていた。そういった思慕の念を抱かれることに何の疑問も持っていないような態のくせに、相手に対してどこまでも真摯に対応をする。
 そこからだ。赤司に対して特別な感情を抱き始めたのは。赤司を見るたびに心がざわつく。赤司と話すたびにチリチリと頭が芯から焼けそうになる。誰にも感じたことのないこの感情はなんだろう。この刺激は強すぎて、おかしくなってしまいそうだ。ああ、もしかして、もしかしたら!これこそが!今まで知ることのできなかったあの感情なのか!
 ――……何かの蓋が外れる音がした。そこから滲みだした何かに焼かれ、甘い痛みがじりりと胸を焦がす。



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