---『君のそのセーラー服を脱がすまで死ねない』 「ええっと……椿。まずはこうなった理由を一から、わかりやすくオレに説明してくれ」 「……理由も何も、見ての通りですが」 「その見ての通り、になるまでの過程がオレは知りたい」 生徒会室の一番奥の、他のものよりも少し大きな机。その椅子に座れるのは、開盟学園の生徒会長だけである。今日ももちろん、そこには現会長である安形が座っていた。――ほんの数分前までは。事務机の前に置かれた会長専用椅子、というのはもちろん一人掛けのものである。 しかし今、その椅子には安形と椿が座っている。正確に言えば、安形の上に跨り椿が向かい合わせに乗っかっているのだ。 (……なんだこれ……なんだこの状況) 安形はこの体勢について悩むのと同時に、膝の上に乗っている椿のある格好についても頭を悩ませていた。椿の顔が目の前にあって(しかもかなり密着している)、ふっと視線を下にやると、紺のプリーツスカートから伸びた彼の白い生足。 「とりあえず……お前が着てるセーラー服からだ」 ---『おはようからおやすみまでそばにいて』 ちょうど、弁当箱の包みをあけるところだった。 「椿ぃ、会長さんが来てるぞ」 「む?」 椿が教室の自席で昼食をとるその一歩手前、クラスメイトの一人がそう呼びに来たのだ。手を止めて、そのクラスメイトが指さす方を見遣る。教室後方の扉だった。 そこには言われた通り安形がドアに面して立っていた。会長さん、と呼ばれていたが厳密に言えば安形はもう引退していて、椿が会長なのだったが、みんな癖でそう呼んでいるのだ。安形はやっぱり学内では有名で、こうして椿の教室に来ただけで周りがざわついている。 視線に気付いた彼が少しだけ笑ったので、椿は弁当を手に取り、安形のもとへ駆け寄った。 まるでお迎えのようだ、と思った。幼稚園に通う子どもが、大好きなお母さんに迎えに来てもらっているような、そんなくすぐったい風景が頭をよぎる。自分は小さな子どもではないし、相手も母親ではなく――自分の恋人なのだ。 そう改めて思えばまた恥ずかしくなって、椿は安形の背を追いかけながら、今の顔を見られなくてよかった、とほっとする。 二人は生徒会室へ向かっていた。最近――安形の卒業を控えてから、こうして一緒に昼休みを過ごすことが多くなった。 2011.5.4発行予定 |