僕のご主人さまは、僕らのことをとても大切に想ってくれている。
彼女は多くの仲間を持とうとしない。小さな子どもたちは、どれだけ珍しい仲間を持っているかで競いあう。しかし、彼女は僕のようにどこにでもいるものを愛した。
「デンチュラ、おいで。久しぶりにポフィンを作ったの」
なまえの声が優しく僕の名前を呼ぶ。その手には遠い地方の甘いお菓子が乗っている。彼女はそれを作るのが上手い。僕たちそれぞれの好みに合わせて味を工夫し、レシピにまとめる。
僕はなまえのそういうところが好きだ。
「あれ、どうしたの?今日はずいぶんと甘えん坊だね」
彼女の足元に擦りよれば、くすぐったいと笑われた。なまえはしゃがんで、僕の口にポフィンを持ってくる。
むしゃ、とかじれば口に広がるのは甘酸っぱい味。美味しくてふるふると身体を震わせると、なまえが嬉しそうに眼を細めた。
僕の頭を撫でながら、まだたくさんあるからねと別のポフィンを差し出した。
「デンチュラはいっぱい食べるもんね。飽きないように新しい味にも挑戦したの」
なまえは、僕を愛してくれる。小さかった以前の僕とは見た目も大きさも違う僕だけど、なまえは昔と変わらず側にいてくれた。
彼女は僕を見捨てない。僕たちをずっと仲間でいさせてくれる。
ただ、それだけで十分だった。彼女と僕たちの関係はきっと変わらない。
僕は愛すべきご主人さまからもうひとつポフィンを受けとると、一度だけ鳴いた。
「デンチュラは可愛いね、ふわふわで気持ち良いし」
僕は珍しくもないし、女の子に好かれる容姿でもないけど。きみがそういってくれるなら、なんだって出来る気がするんだ。
(甘いお菓子ときみの笑顔がすべて)