※暗い


「ノボリ、きみだけがなまえを好きだったわけじゃないって、知ってたんでしょう」

 ぼくの兄弟は少しだけきょとんてして、それから意味が分からないと首を降った。

「クダリがなまえさまを好きだったというおはなしは聞いたことがありませんね。仮にそうだったとしても、わたくしには関係のないことでございます」

 いつまで経ってもノボリは気弱なノボリのままだった。昔からそうだ。欲しいものがすぐに手にはいるというところまでくると、途端に兄弟は歩みを止める。言い訳をする。そこに辿り着くためにどんな努力をしたか忘れたわけじゃあないはずなのに。ノボリはたったひとつを持つことを恐れる子どもだった。だからきっと、なまえに対しても積極的になれないだろうと踏んでいた。のに。

「なまえさまはわたくしを愛しております。わたくしも彼女を一番に想っているのです。クダリに理解されるとは思っていませんが、ただ、わたくしと彼女の邪魔をすることだけは止めて下さいまし」

 兄弟が発した言葉に頭がくらくらする。質問を赦さない威圧的な語尾だった。ぼくはなまえが好きだった。もちろん誰かに言うつもりはなかったし、それが恋愛感情ではないことくらいよく分かっていた。ノボリを幸せにできるのはなまえだろうと思って、なまえならぼくも受け入れてくれるだろうと思った。だからこそ彼女とノボリを応援していたのに。

「でも、邪魔したくなくても、ノボリにはぼくが邪魔なんでしょう」
「クダリは危険なのです、性格は違えども、顔は表情以外は判別不可能な瓜二つ。わたくしがどんなに気をつけても、いつなまえさまがクダリを好きになるかは分かりません」
「どうしてなまえを信じてあげない、の」
「……クダリには分からないでしょうね。わたくしはね、彼女を愛しているのです。実の兄弟にすら触れさせたくないと思うくらいに好きで、好きで、」

 ノボリはうっとりと笑みながら、ぼくを、ぼくのノボリとおんなじ顔を視た。ああ、ぼくは本当は知っていたんだ。ノボリはとても恐がりだから、大丈夫だよって教えてあげるひとがいないとすぐ迷っちゃうってこと。いつもノボリの大切なものはぼくが貰ってしまって、その度にノボリが泣いていたこと。ノボリはぼくが、大好きだってこと。ぜんぶぜんぶ誰よりも知ってたはずだったのに。ぼくは愛しい兄弟に手を伸ばして、ごめんなさいと呟いた。一瞬だけノボリの肩がびくりと震えたけれど、それはもう、意味のないことだった。

「クダリなんか、大嫌い」

 本当は知っていたんだ。なまえが外に出られなくなったのも、ぼくがこんなになまえを好きだったのも、悪いのはぜんぶぼくだったんだから。



(サブマスにお互いを兄弟って呼ばせたかっただけ。ノボリはクダリが大好きで、クダリに取られるのもクダリを取られるのも我慢ならないから監禁始めちゃった)

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